抗うつ薬を抜いた人間の1ヶ月の記憶
※あくまで個人の体験談であり、私に医学の知識はこれっぽっちもありません。
ちょうどひと月ほど前、私はそれまで半年近く飲み続けていた薬を断薬した。抗うつ薬SNRIの一種であるイフェクサーと、抗精神病薬に分類されるオランザピンという薬だ。適応障害と診断された昨年11月から継続的に、どちらも最低容量ずつを服薬していた。
最低容量なので離脱症状はまず出ない、とネットも医者も言った。でも、私はものすごく出た。壮絶だった。
「最低容量まで減らせていたら離脱症状は出ない」なんてのは一般論で、人による。無闇に脅しては欲しくないが、一般論から外れた症例を見なかったことにされるのには、当事者としては心底腹が立つ。
壮絶だった。いや、まだ全然、壮絶の最中だ。もっと良い抜き方があったのかもしれないと、この一ヶ月の間に自分に強いてきた無理の数々を思い出しては、後悔する日々。普通に今も心の調子の上げ下げに翻弄され、しんどい日々。
まだ治ってなかったのかなあ、時期尚早だったかなあ、でも当時は最善の判断だと思って断薬を開始したんだよね。それを忘れたくないよね。過去の自分を否定したくないよね。
断薬のきっかけ
3月に復職してから、週に一度は体調を崩してへばっていた。心がというより、体がおかしくなるのだ。とてつもない倦怠感と脱力感に発作的に襲われて、座っていることも困難で、椅子から崩れ落ちるようにしてそのまま寝込んでしまう。
人生で初めての症状だったので、なんらか私の体に異常が起きているだろうと調べて、思い当たった「甲状腺」の検査をしてもらうために内科に駆け込んだ。
結果、t4ホルモンが基準値以下。医者に説明された倦怠感や脱力感、無気力、頭痛、動作が緩慢といった症状も当てはまっていた。
その医者は、「抗うつ剤のうち、中枢神経系に作用するオランザピンの方が悪さをしている可能性があると思います。そういう症例をたまに見ますので。本来であればホルモン剤を出して治療していくところですが、一度お薬を抜く方から試すのが賢明でしょう。」と言った。
正直、真相はまだわからない。薬が原因であれば、断薬してから3ヶ月程度で甲状腺ホルモンの値は戻るだろうと言われたが、まだ断薬してから1ヶ月。
さらに精神科では、「オランザピンにそのような副作用はないし、作用機序的にも考えにくいことですね。ただ、イフェクサーとオランザピンの副作用として、倦怠感はよく出ます。」と言われた。
どっちにしろ断薬した方が良いだろうってことで、まずはオランザピンから辞めていくことになった。
断薬してからの日々
オランザピンを抜いて3日、ずっとお腹の調子が悪くて吐き気がしていた。心当たりはある。イフェクサーの副作用だ。「イフェクサーだけでも抑うつには効くんだけど、副作用の吐き気を抑えられるオランザピンも一緒に飲んでください。」と言われて処方されていたので、抑えてくれるものがなくなり、吐き気がこんにちはしたんだろうと解釈した。
ならいっそイフェクサーも抜いちまうかあ!と思い立って、その日の晩からお薬おさらば大作戦を決行することにした。この後起こる悲劇も知らずに…
翌日、起きてからしばらくすると、とてつもない眩暈に襲われた。脳みそをぐらぐらとゆすられる様な感覚で、足元がふわふわする。目の焦点を合わせるのにものすごいエネルギーが必要で、揺れる視界と脳みそのせいでひたすらずっと気持ち悪い。
その状態が、24時間休み無しに続いた。
3日経つと、やっと目眩がしていない時間の方が多くなった。強い目眩、3秒休んでまたグラグラっと強い目眩、みたいな感じ。日々、徐々に目眩と目眩の感覚が伸びていって、2週間で完全に消えた。完全に消えるまでに2週間かかった。
他には、夢の質が変わった。妙に現実味を帯びていて、朝起きた時にも細部まで覚えてしまっている状態で、睡眠の質がすこぶる悪くなった。これは1ヶ月経った今でも、程度こそ良くなったものの続いている。
うっすら吐き気があって、食欲も落ちて一時はゼリーしか食べられなくなり、3キロくらい痩せた。これは夏バテも相まっているかもしれないが。
そして何より、精神がずがんと落ちた。脳内のセロトニンが減少しちゃう訳だからある程度は想定内だったけど、振り返ると異常だった。
隔日か数日おきか、もしくはカプセルの中身を減らして飲むとか、もっと穏やかに減らしていくべきだったと、色々調べ尽くした今では思う。
精神の落ち方としては主に二通り。
一つは、何に対しても、嬉しいとか楽しいとか好きとか、そういったポジティブな気持ちが湧き上がらなくなったこと。これはしんどかった。
金曜日まで仕事を頑張っても、週末に対する喜びがわかない。本を読んでもアニメを見ても、何も面白くない。彼がどんなに優しくしてくれても、感謝の気持ちがわかない。
生きる意味がないってこういうことか〜、と冷静に客観視していた自分もいたけれど、結構しんどかった。断薬から1ヶ月経った今、元気な時の5割くらいには感情を感じられるようになってきている。
もう一つは、元気な時であればそこまで考え込まないようなことに対して、物凄く執着して負の感情を抱いてしまうことが週に何度もあったこと。
どうしてこの仕事をしているんだろう、どうしてここに住んでいるんだろう、どうしてあの時あの選択をしちゃったんだろう、どうしてこんな人格になってしまったんだろう、あれのせいだこれのせいだ、私は何にもできていない、あの人のようにうまくできない、生きていても意味がない、と、これまでの人生で抱いてきた負の感情とストーリーを1ヶ月の間に総ざらいで復習しきった。
今となっては、あんなに囚われていたのは異常だった、薬を抜いて不安定だったからだ、と分かるけど、最中にいる時はそれすらも確証が持てず不安だった。
まだ私は治っていないんだろうか、一生治らずしんどいまま生きるんだろうか、どうしたら良くなるのか分からない、誰にも相談できない、誰も助けてくれない。
大人しく薬を飲めば良かったんだけど、1週間飲まずに頑張れたから、きっとあと数日耐えれば抜けられるはず、とサンクコスト効果で粘り続けてしまった。
とはいえしんどすぎて、1ヶ月の間に3回くらいはイフェクサーを飲んだ。飲んだ翌日から数日間は精神が回復するのが分かったので、やっぱり今でも飲んだほうがいいのかもしれない。
(抗うつ剤って医者が言うには一日二日で効くもんではないから、やっぱり私は異常に薬が効きやすいんだろう。)
やっぱり今でも飲んだほうがいいのかもしれないけど、新しい精神科でもらった抗不安薬の頓服をお守りに、サンクコスト効果で引き続き粘っている。お盆超えても治らなかったら大人しく抗うつ剤を再開しようと思う。
このはちゃめちゃな1ヶ月の間に始めたこと
私はどん底でももがき続けて道を見出せるタイプのメンヘラなので、この状況を打開するための行動は少しずつだけどとっていた。
中でも効果を期待しているのが、Awarefyという認知行動療法アプリだ。
日々の感情や達成度を記録して分析もできる日記機能、モヤモヤした時に感情や行動の可視化を促してくれるジャーナリング機能、瞑想のための音声ガイド、メンタルヘルスに関する勉強ができるコラムまで付いている。
AIが対話をしてくれる機能もついているが、正論で殴ってこない寄り添いスキルの高いAIで、結構心に染みる言葉をかけてくれる。
何よりメンタルヘルス起点で綿密に設計されているのが細部から分かるので、気持ちの頼りどころとしてそばに置いておくこと自体に安心感もある。
お値段は安くはないが、病院代と比べたら全然支払える額。キミに決めた!私を治してくれ!!と全力課金した。
***
いや〜、なんか乗り切った感のある記事ができてしまったけど、全然一向に乗り切れていない。まだ些細なことにうじうじと執着しちゃうし、午前中は心の調子が悪くて思うように動けないし、思考力や決断力も鈍っている気がするし、絶賛精神乱降下中である。
これ乗り越えられたら強くなれるぞ〜なんて朗らかな気持ちも、きっと未来には希望があるはずなんて明るい気持ちも、全くもって湧き上がらない。無理やり脳みそでそう考えて、自分の心に言い聞かせてなだめすかしているだけ。
人類、やっぱり心は壊しちゃだめだ。一度やると元には戻らない。タフさが売りだった自分にはもう戻れない。あの頃の自分とのギャップを受け入れられずにもがく日々が続いていく。
川とか海とか行きたいな〜。
暗い人間を忌諱する人間がいないところへ行きたいな〜。
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