好きなもの、星の数ある

 熱しやすく冷めやすい。
その言葉がふさわしい女代表である。

 元気な時は実在する人間にときめくことが出来るけど、今みたいに情緒不安定で毎日がままならないと2次元のコンテンツにしか触れられない。
 ワンピースの頂上戦争編を明日までに読もうと思っているのに、ワンピースが、麦わらの一味があまりにも希望を纏いすぎていて読めなくなった。ルフィはこんなにも強いのにと永遠に寝転がっている自分と比べて、また、辛い。

 音楽が好きだ。

 
 小さい頃から身近に音楽があって、日常に音楽があるのが当たり前。散歩するのも、登下校するのも、洗濯干すのも、歯磨きするのも、髪乾かすのも、音楽がないと出来なくなってる。音楽中毒。

 しかしながら前述の通り、元気がない時は2次元のコンテンツにしか触れられない。
 イヤホンつけて音楽聞いても、無。この音いい、リズムが最高、声めっちゃ好きだな、ラップうま。そういうのが感じられなくなって、虚無のまま、直近でダウンロードしていたKep1erのUp！を再生する。もっと、もっと多くのことを感じながら聞きたいのに、それができなくて悔しい。

 さてGood Mood Travelを知ったのは、Twitter経由である。TL上のvalkneeさんのツイートを見て、かわいい歌詞だなって素直にそう思った。

『アルタイル・ベガって指差す感じ♡』

Saint Vega, valknee＆ORKL「Good Mood Travel」（2022）

 あ、かわいいって思えてる。
 
 やっと食事が出来るようになってきた。3食もともと食べる生活は送っていなかったから、とりあえず夜ご飯だけ。冷凍ご飯をチンして、口に運ぶことは出来るようになっていた。それで精神状態や体調がよくなったとかは全く感じなかったけど、言葉の羅列にときめくことが出来たから、少しはよくなってるのかもと思って、曲を聞いた。

 これ、2022年で一番いい曲。

 
 あたしの2022年いい曲ランキング堂々の1位。ビートもメロも歌詞も、超いい感じである。
 
 ずっとリピートしている。夜にピッタリだな、深夜の高速道路運転しながら聞いたら気持ちいいだろうなってペーパードライバーなのに思ったりしている。
 

 音楽に限らず何かにときめくことって簡単なようで、難しい。だって自分の好きなものを理解すればするほど、出会うコンテンツがそのハードルを超えにくくなる。数回見れば、読めば、聞けば、好きになるかもしれないものを、たった一度で判断してしまうようになったのは、あたしも消費スピードの速さに乗っかってしまっているのだろう。

 

 好きなもの、星の数ある。

 アイドル、音楽、映画、ドラマ、漫画、アニメ、食べ物、風景、季節、温度、部屋の明るさ、服のデザイン、香水、雑誌、小説、メイク、話し方、雰囲気、時間。

 バラバラの羅列。これだけ書き出せるならまだ大丈夫かな。棚の奥に隠したカミソリと睡眠薬を取り出したくなる夜が続くけど、開けようとしてやめて、皮膚がボロボロ落ちてくる頬に触れて、エアコン消そうかなってリモコンを探す。

 ベッドの上にリモコンとスマホ。音楽を流して、この曲が好きと思って始めて、呼吸が出来る。