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読書の秋その4

精神的に向上心のないものは、馬鹿だ
こころ 夏目漱石/著 新潮文庫

個人的にはKが放ったこの言葉が刺さっています。

今回は誰もが学生時に一度は読んだことがあるであろう夏目漱石の『こころ』についてです。

学生のころ授業で読んで印象に残っている小説の一つです。大人になって、書店に入り、ふと真っ白な本が目に入りました。真っ白なカバーに「こころ」のタイトルのみが表示されていました。

なんと綺麗な本だろう。学生時代に読んだ内容も頭によぎり思わず買ってしまいました。

確か、教科書に掲載されているのは、Kと先生がお嬢さんをめぐって葛藤する場面。最初から読むのは初めてでした。

こういう小説って、時代背景とか使っている物が違いすぎていちいち注解を読まないといけないので大変ですが、そんな物があったんだ!なんて発見があってそれも面白いです。

前半は私(語り手)と先生のやりとりが描かれています。これは確か教科書には掲載されていない部分だったかと思います。先生の過去には何かあったような暗い過去を背負って切る感じ万歳のやりとりがあります。

私は父が危篤状態になった知らせを受け実家に帰ったところ、先生から過去自分がした過ちについて綴った手紙(遺書のような内容)が送られ、物語はその回想へと入っていきます。

ここからは、先生、先生の友人「K」、お嬢さんが主な登場人物になります。

これを読んだ当時はなんで友人なのにイニシャル表記なのかちょっと頭が追いつきませんでした。今も全然わかってはいないのですが、結局、自分のせいで命を絶った友人を名前で呼ぶことが烏滸がましかった、自責の念があって、自分は名前を呼ぶことすら認められない存在なのだ。そう言った先生の気持ちの表れなのでしょうか。

先生とお嬢さんが出会ってから、先生はお嬢さんに一目惚れした後、生活に困っているKを先生とお嬢さんと暮らしている下宿先に案内してから、この3人の関係性は変化していきます。

Kは優秀かつ禁欲的な学生であり、「道」なるものを求めて日々精進していたそうな(「道」ってなんやねん。当時そう思いました。そして、今でも思っています。哲学でしょうか、宗教でしょうか。なんとなくその両方である気もしますが)。
なので、先生がお嬢さんにうつつを抜かしているのが気に食わなかったのでしょうね。冒頭に引用した言葉を先生に投げ掛けます。

精神的に向上心のないものは、馬鹿だ
こころ 夏目漱石/著 新潮文庫

なんか、親友だと思っている人に言われると悲しいですよね。詳細を忘れてしまったのですが、この時先生は怒っていたのではないかと思います。そりゃそうですよね。お前は馬鹿だと言われているのですから。

自分の好きな人がいて、浮かれている時に、精神的に向上心のないものは馬鹿と言われたら腹が立ちますもん。

ちなみに余談ですが、僕の彼女は怠けている時「私の中の夏目漱石が『精神的に向上心のないものは馬鹿だ』と言っている」とよく言っています。自分を叱咤するときにはいい言葉なのかもしれません。僕はまりそう思ったことありませんけど。

なんやかんや、いろいろあって、Kもお嬢さんのことが好きになってしまいます。

現代の小説でもあるあるの展開ですよね。三角関係。先生はKがお嬢さんを好きになっていることに気付き、Kも自分の気持ちは「道」に外れていると思い、お互いが葛藤する場面が描かれます。個人的にはここが一番この物語の読みどころであると思います。最近自分が読む小説では見かけないほどの肉肉しい、生々しい表現。この言い方が正しいのだろうか、生身の人間っぽい感じかして読んでいても苦しくなってきます。

最終的に先生はお嬢さんを自分のものにするがために、Kにお嬢さんを諦めさせるため、自分がKに言われた冒頭に引用した言葉を放ったのです。

これは、ブーメランですね。ただ言葉が返ってきたと言うよりは倍返しになっているような。これでKは参ってしまい、最終的に自殺してまいました。

先生もかなりショックだったようで、自分が放ってしまった言葉で友人が死んでしまったという誰にも話せない過去を背負ってしまいました。

誰にも話せないことって誰しもあると思うのです。僕だってそうです。が、誰かの命を奪ってしまったと言うのを背負って生きていくと言うのは辛いものでしょうね。

なるほど、序盤で先生が私(語り手)に恋愛とは罪、私に対して死と向き合ったことがないと言っていたのは、この過去があっただったのですね。

自分が好きな人が、たまたま友達も好きで、と言った展開は実社会でも起こりうることですし、小説、漫画、アニメいろんな媒体でも題材にされています。たくさん見尽くした訳でないので断言はできませんが、この「こころ」という作品が一番現実の人間のドロドロとした部分、影の部分をよく描いた作品だと感じました。

夏目漱石の作品は「こころ」しかきちんと読んでない気がするので、またの機会に他の作品も読んでみたいと思います。

それではまた👋

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