バイトの思い出シリーズ@野菜加工工場


日払いのアルバイトで、2日だけ野菜を加工する工場に行ったことがある。

黙々と大葉を10枚ずつの束にしたり、ちんげん菜を2束ずつ袋に入れたりと、やたら「束」を作っていた記憶がほとんどだが、私は特にじゃがいもの皮剥きが好きだった。

ピーラーを使い、ひたすら皮を剥く。

当時私はタイドラマにハマっていたため、

アーティット先輩とコングポップ君の今後の展開について真剣に考察しながら剥いたジャガイモが、

レトルトカレーなどの具になり食卓に並んだのだと思うと感慨深い。

それがタイカレーの具になってたらブチ上がっちゃうな・・・。

(私はカレーがそもそもそんな好きではないのでタイカレーにジャガイモが入っているのかもよく知らんけど)



働いている人はほとんどが私と同じく、一日だけ派遣で来たという人が多かったが、

珍しく毎回参加しているらしい20代後半くらいの男がいた。

やたら声がでかい眼鏡のひょろっとした人で、

工場直雇用のおば様たち皆によく話しかける姿は、マダムたちのアイドル的存在なのかなと思わせた。

顔は、かの有名な

「もちろん俺らは抵抗するで?拳で!!(ズンと一歩踏み出し拳と手のひらパチン)」

の男に似ていた。

その男は顔がいいからアイドルなのではなく、たぶん工場によく来る若い男がその人だけということと、

「〇〇さん腰の調子どう?もう若くないんだから~」

「□□さん長生きしなよ。もうそろそろ100歳だっけ?」

という綾小路きみまろスタイルでおば様たちとコミュニケーションをとっていた。

しかし私が少し彼に仕事の質問をしたときは

早口すぎて何を言っているかわからず、仕方なくほかの人に聞いた私を見て悔しかったのか、

ピーマンのヘタを取っている間やたらコツを教えてきた。

ただコツは必要ないレベルに簡単な作業だし、せっかく黙々と作業できる仕事なのに隣でしゃべり続けられるのが嫌だったので、

「わかりましたありがとうございます」

と一息で伝えたら静かになった。

数分後作業を終えた私がふと横を向くと、彼が痛そうにゴム手袋を外す姿があった。

指から血が出ている。

ヘタを取るときヘタを身に押し込んで取るのだが、その際負傷したらしい。

ピーマンで負傷する【綾小路きみまろスタイルの拳で抵抗男】。

彼が身を削ってヘタを取ったピーマン、きっとおいしく食べてもらえるだろう・・・。


その日の帰り道、工場の目の前から駅までのバスの中で、

前に座ったおば様二人の会話が聞こえてきた。

「純粋に失礼よね。」

「作業中に大きな声でしゃべるのは衛生的によくないのよ」

嫌な予感がする。

「〇〇君、静かにしてくれればいいんだけど。」

【ピーマン負傷拳で抵抗綾小路きみまろスタイル男】が悪口言われている~~~~

アイドルだと思っていたけどおば様たちに煙たがられてた~~~

私は男について複雑な気持ちになりながらバスに揺られていたが、その後おば様から放たれた

「ジャガイモ剥くしか能がない」

という強烈なパンチラインにすべてを持っていかれて

家に帰るまでその言葉の深さ、残酷さ、オモロさを噛みしめて帰宅し、

レトルトのお惣菜を、いつもよりありがたい気持ちで食べたのだった。

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