マドンナよりもマドンナなさくらちゃんのこと

『男はつらいよ』を見る前の寅さんのイメージは
「いい加減だけど義理堅く憎めない自由人」だった。

これだけシリーズが愛されているのならば、寅さんもなんだかんだでかなり魅力的な人物にちがいない。

かつて井上真央も、『キッズ・ウォー』に出るにあたり、大人から『男はつらいよ』を見なさいと言われて参考にしていたと言っていたぐらいだ。

しかし、実際に見てみても、一向に寅さんという人物の良さがわからない。
いや、まあ確かに義理堅いけども。
人情に厚いけども。

そんなことでは許されないよな、これ、という出来事が多々あるのだ。

『男はつらいよ』は最新作の2019年に作られたものを含めると全50作という驚きの長寿映画である。
これは『釣りバカ日誌』が全22作ということを考えると、相当長い。

しかしながら、毎度だいたいのストーリーは固定化されている。

日本各地のお祭りでテキ屋をしながら、風の向くまま気の向くまま生きている、寅さんこと車寅次郎。

その腹違いの妹がさくらちゃん。

寅さんとさくらちゃんの両親が早くに亡くなったため、両親がやっていた団子屋の跡をついだおいちゃんとおばちゃんが両親のようなもの。

その団子屋の裏には印刷工場を経営するタコ社長がいて、そこではさくらちゃんの旦那さんの博さんが働いている。

このとらやに、寅さんが帰って来て、タコ社長やおいちゃんと小さなことで大喧嘩になり、また旅に出る

旅先もしくは、旅から帰ってきて柴又周辺で、めちゃくちゃ美人(何かしらの訳あり率高い)とひょんなことからお知り合いになる

寅さんが恋に落ちる

寅さんがフラれる

という、もう本当にお約束展開なのである。
(※マドンナが亡くなったり、はっきりとフラれない回もあったりする)

金に糸目をつけずに、男女問わず目の前の相手に全力で接する、と言えば聞こえはいいが、本当にお金がないのにバンバン使うので普通に引く

酒に刺身にと大盤振る舞いをしておいて、お金は全部おいちゃんとおばちゃんが払うというのはもはや普通。

柴又から熱海までタクシーに乗って新婚旅行にいってこい!と言う。

長野県で無銭飲食で捕まったのに、交番でてんやものを頼んだうえに、警官たちにはコーヒーを奢る。さくらちゃんが、お金を持ってわざわざ長野までいく。(お金がなくなって、熊本まで届けたこともある)

飲み屋で出会った知らない人を家に連れて帰(もはや意味がわからない)

うーん、破天荒で済まされるのだろうか、これは。

こんな兄、私だったらとっくに愛想をつかしているが、さくらちゃんは違う。

寅さんの口が悪いせいでタコ社長と喧嘩になって「もう俺はこんなところ出ていってやるー」と騒いでも、毎回「お兄ちゃん、せっかく帰ってきたんだから」と引き留めてあげる。

とらやのおいちゃんおばちゃんですら味方にならずに、寅さんにブチ切れて大モメしてとらやを飛び出してもさくらちゃんだけは追いかける。いつもけなげに「お兄ちゃん次はいつ帰ってくるの?」と聞いてくれるのだ。毎度毎度、人一倍被害者感は出しているけれど、悪いのは寅さんなのに。

どのマドンナよりも優しすぎる。

まあ確かに寅さんという人は本当はみんなのことを心から思っていて、ただ不器用なだけなんだけども。

それにしてもこの献身的なさくらちゃんの姿に美しいなと思うのである。

また、それは、寅さんに関わった人たちにたいしても同じである。いつも誰よりも丁寧に話すし、インテリな夫の博さんと並んで、登場人物の中でも屈指の常識人だ。

「どうかお気を落としになりませんように」

「どうぞ、また遊びにいらしてください」

そんな相手を思いやる一言を、さらっと言う。

優しくて、機転が利く。上品で丁寧なたたずまい。演じている倍賞千恵子はスタイルもよくて、ミニスカートが似合っていて、笑うと目のところにしわができて本当にかわいい。

私もできることなら、こうありたい。

私にとってのマドンナはレギュラー化しているリリーさんでも、吉永小百合でもなく、いつも寅さんのことをあたたかく出迎えてくれる、さくらちゃんなのである。


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