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映画「ラストマイル」みんな、自分が無能だと思われたくなくて

野木亜紀子脚本はやっぱり間違いない。本当に大好きな作家さまである。

脚本:野木亜紀子、監督:塚原あゆこ、プロデューサー:新井順子
最高の3タッグ。
期待して映画館に行ったが、期待以上の感情をくれた。

私はこれまでで一番好きなドラマは「アンナチュラル」と答えるくらいドラマ「アンナチュラル」が好きだし、「MIU404」も見ていた。
好きな男性俳優は岡田将生で、女優は満島ひかりが大好き。ディーン・フジオカも好きだ。これはもう見に行くしかない!と。

そしてやっぱり期待通りに面白かったし感動した。

過労死、派遣社員、高齢化、物流問題。この作家は社会問題をエンタメに昇華させる手腕がすごい。

そして野木先生の作品には前2作にも通じるテーマだけど「仕事に対する情熱」というのが垣間見える。日本人の良いところでもあり、悪いところでもある。情熱を持って仕事をする。それ自体は素晴らしいのだけど。。。

「アンナチュラル」で出てくるセリフ
「イタリアでは労働って罪なんだって。人はみな罪びとで、罪をあがなうために働いているって。だから、1分でも早く仕事を終わらせて、家に帰る」
 

「労働」の意味も国によって違うのだろう。この映画、他の国の人に見せたらどういう反応になるんだろうな。共感できるのかな。こういう「職業もの」って日本以外でも流行ってたりするのかな。ちなみに私はこういうお仕事系ドラマが大好きである。

しかしDailyFastってまんまアメリカの某有名会社のことを指していると思うのだが、それは大丈夫だったのだろうか。FastをもじってFaust(ファウスト:ゲーテの戯曲)にするのも最高であった。

アメリカもワーカホリックな国だ。しかも日本以上に数字主義・実力主義。同じ白人社会でも、仕事に対する価値観ってヨーロッパとアメリカで全然違う。戦後はそのアメリカ的なワーカホリック・出世主義が日本人の真面目な気質の上に覆いかぶさって来ているので、わりとタチが悪いと私は勝手に思っている。

「自分が無能だと思われたくない、スマートにうまくやっていると思われたい」
だから数字を落としたくないし、多少無茶な要求にも無茶をして応えようとする。
それを繰り返しているうちに心が壊れていく。満島ひかり演じるエレナとディーン・フジオカの道元。この二人の言動がとても分かる。私もどちらかといえばこういうタイプだから。ああやって評価されてきたし、のしあがってきた。ここまで来たら、もう行き着くところまで行き着くしかない。部下の死から目をそらして心を殺さないと進めないという気持ちも日々忙殺されて疲労している身としては分かってしまう気がした。

「絶対に(物流)止めませんよ」予告で流れるこのシーン。お客様のために一生懸命働く胸熱シーンだと思っていたら、自分の数字落としたくないための虚栄に満ちたセリフだった。

この映画を見て「仕事を一生懸命がんばろう」と奮起してしまう自分と「このまま邁進していると心が壊れる可能性があるな」と思う2人の自分がいた。自分だいぶやばいな。

一番好きなシーンは、末端の運送業の親子が車の中で語り合う場面。
「(上の会社の)誰も親父のこと大事にしてないよ」

それでも情熱と誇りを持って仕事をする。それがいいことなのか、悪いことなのか。美化するな、という意見も分かるが「どんな仕事にも誇りを持ってベストを尽くす」という精神が私は好きだ。こんな私も「嫌になるほど日本人」気質なのだろう。

安く買い叩かれる下請け業者の人たち。その人たちも年々高齢化している。
未だにFAXで情報管理しているところは笑えた。でも現実、私の仕事関係でも未だにFAXで注文くるところ結構ある(笑)。

そういえばついこの間までうちのご近所を回ってくれていた●川急便の配達員のおじさん。人懐こいキャラクターで、何度か配達してもらっているうちに言葉を交わすようになり、わりと融通を効かしてくれたとても良い人だった。あの人もいつの間にかいなくなった。

日本ほど、時間通りに早く正確に荷物が届く国はないのではないだろうか。インフラが整備されて末端の配送業者が真面目にやっていないと成り立たないシステムだ。昨今、若い配達員が配達する郵送品を配達しきれずに捨てていたという事件をたびたび耳にする。いや、荷物受け取る側としてはそれは本当に困るわけだが。中には契約関係の大事な書類もあるわけで。でも配達している方としては毎日毎日何百件、何千件の荷物を処理している。「やってられるか」という気持ちも芽生えてくるのが人間だろう。

映画の中でそういう配送業者がストライキで運送料を上げてくれというところがある。映画を他人ごと見ているとストライキ側に気持ちが寄りがちだけど、私たち消費者もできるだけ送料が安いところで買い物しようとしたりして、結局下請けを安く使っている大企業の後ろにあるのは私たち消費者の欲望だ。

楽しいだけではなく、自分の痛いところを突かれる作品でもあった。

PS .
「アンナチュラル」激推しの私としては、もしドラマ未見の人は見てほしい。このドラマ、2018年放送だったのだが第一話が「MERSコロナウィルス」である。偶然の一致だと思うが見直してゾッとした。それ以外でも実際にあった事件を模したものなんかも出てきていて人間ドラマも奥が深い。

推しキャラは市川実日子演じる東海林。ミコトとのシスターフッドが最高である。

「アンナチュラル」「MIU404」をどう物語に入れ込んでくるのか、と思っていたが、物語のキーポイントにキチンと配置していて良かったし、やはりファンとしては嬉しかった。(しかし中堂さんのセリフなど、あのドラマを知らない人には意味が分からないんじゃないかと思うところもたくさんあったので、やはりドラマファン向けの映画ではあると思う)


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