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最近の十六首

緊急事態延ぶる日の午後海集ふ若きら数多江ノ島遥か

酔ひかすか眼を廻り頭を上げば商ひかこつ酒場の主

店閉むる話聞きつつフラスコの底舐むる炎しばし見守る

点滴の管に繋がれ同僚は日暮れの窓に寝返りをうつ

誰からとなく等間隔に距離保ちライブハウスに本ベルの鳴る

月(つく)読(よみ)の羞ぢるかのごと鈍色の薄雲まとひて月蝕進む

オンライン会議は強ひる我が顔を九十分間目(ま)守(も)りゐること

大正に嫁ぎし祖母の手鏡の幻灯のごと吾を映せり

新しき出逢ひ失ふ一年(ひととせ)か名刺の減りに思ふ三月

冷酷を乾き判断と言ひ替へる組織の常を思ふも虚し

節分の朝(あした)に目覚めひとりゐて心のうちの鬼と向きあふ

陽を受けて滲むる樹海の息を吐き足元白く流れゆくなり

蛍光灯八〇本に照らされて影を消さるるコンビニの品

不可思議の力小櫛に宿るとふ母の形見のなほ色褪せず

鴻(ひしくひ)の羽をやすらふ湖の水底にある地図になき村

砂の丘さまよひゆけば雲低き空に抗ふ白鳥(しらとり)の群れ


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