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3ヶ月半ぶりに会う父は車椅子に乗っていた

制限つきの面会が可能になったタイミングで、数ヶ月越しに父と再会した。

父を整形外科に連れていくというミッションが加わり、弟と共に父に会いに行った。私自身も電車に乗る外出は、思えば2ヶ月半ぶりくらい。

久々に会う父は、車椅子に乗せられて登場した。駅前の整形外科に行くならばタクシーで連れて、その先では歩けるかな…くらいに思っていたが、久々に会う父は以前よりも一層脚力が落ちていた。外出もできない、面会もできない、医療マッサージの外部業者が入れない、などの事情も考えれば、ただでさえ動くのを億劫がる父が歩きづらくなるのも無理もない。テレビ電話をしているので、顔つきは見慣れていたけれど、久々に全身の父を見ると、こんなに足、細かったっけ…と驚く。車椅子に乗った父の足は、とても小柄で華奢だった祖母を思わせるほど細かった。すっかり老人の足だなあ、と思う。口には出さなかったけれど。

もともと右肩は1年以上前から痛みを訴えていて、最近になって痛みが強くなり、だんだんと右腕が上がらなくなって来たという。今まで見られなかった右手のむくみも出て来たので、往診にきてくれている先生から整形外科の受診を勧められたのだった。

診断は、肩に拘縮(こうしゅく)が起きていて、関節の可動域が極めて制限されてしまっているとのことだった。五十肩ともいう。むくみの原因ははっきりしないが、肩の拘縮によって起きているのかもしれないと。そして肩に注射しますね、と言われ、目の前でちくり。今後も定期的に注射したほうがいいとのこと。

レントゲンも撮ったが、骨折はなかった。しかしレントゲン写真を見て、驚いた。父の骨の細さに。特に自分の骨のレントゲンなどを見たことがあるわけではないが、父の肩の骨は、本当に細くて心もとない感じがした。先ほど見た父の足ともあいまって、ああ、父の体は、本当に脆いのだなあと改めて、息を飲む。

名称未設定のアートワーク 43

近くに公園があったので、ちょっとだけ休憩しようと提案。父が施設の外に出たのは、いったい何ヶ月ぶりなのだろう。父はなんとなく目を丸くしているような、特によくわかってないような、淡々とした表情だった。話の受け答えは、テレビ電話ともそう変わらない。

私は車椅子の操作にまだ慣れておらず、父の車椅子を押して外を歩くのも初めてだった。坂道やちょっとした段差に緊張しつつ、結構重いなぁ、でも父という人一人を乗せていると思えば軽いのか、となんだか納得したり。さっき見た父の骨と、足の細さを思うと、私はこんな脆いものを乗せて歩いているのかと、「ワレモノキケン」とシールを貼りたくなるような気持ちでと少し緊張する。

できるだけ自分の足で歩いて欲しいと思うと、車椅子の父は少し残念だな…と思う一方で、車椅子に乗れば、今までよりも遠くにいくこともできるのか、と気づく。別に後ろ向きなことじゃないかもしれない。私たちの「ふつう」が変わっていく、ということなのかな。いままでもそうだったんだから、きっとこれからもそうなのだろう。

特に事件もなければオチもない数時間だったけれど、久々に父と過ごした二時間は、なんだか尊かったよ、というお話でした。


cakesに連載中のエッセイ、前回の回、ポロポロといろんな方から感想をいただいています。過去に誰かを見送った方からのコメントが多いですが、もちろんそうでないかたも、少しだけ具体的な未来予測になっているのかもしれません。月曜までは無料で読めますので、よろしければ。


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