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人口密度の低い町で暮らすということ

「余裕を持つようにしてます。余裕がないと、人にやさしくできないので」

と、友人Aちゃんは言った。
彼女も移住者で、移住者の私にも本当によくしてくれているのは、この土地でたくさんの恩を受けてきた証でもあるなと思う。

       ◇     ◇     ◇     ◇

私の長年暮らしていた中野区は、東京23区で2番目に人口密度が高い
私が今暮らしている岩手県は、全国で2番目に人口密度が低い。
岩手県は北海道に次いで47都道府県で2番目に面積が広く、すなわち本州では一番でかいのだ。

東京に長年暮らしていて、あまり「人口密度」という言葉について考えたことがなかった。人がいっぱいいるのが当たり前だったし、そりゃ満員電車はつらいけれど、便利な都市に伴うものとして、しょうがないよねとしながら生きていた。だけどこれだけ「密」がキーワードとされる時代に生きる中にこの町に移住して、「人口密度」という言葉を教科書ではなく体感で考えるようになった。

ところで最近私は、たまにサイクリングをしている。なぜならばまだ車が運転できないから。免許を持ってはいるが技術的に不安しかないので、ちょっとした外出を気軽にできる状態ではない。だけどもっと紫波町のいろんなところを見てみたい…!ということで、電動自転車のチカラを借りてへろへろと走り回っている。

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紫波町サイクリング最高に楽しい

自分で道を選んで、好きなときに動いて、止まって、進むのは楽しい。平日の昼間ということもあってか、しばらく走ってもすれ違うのは車のみで、歩行者とも自転車とも誰とも一切すれ違わない。観光客なんてもってのほかで、あたりを写真撮りながら進むひとなど私以外に一人もいない。4月だったこの日見たのは、広すぎる空と、5分咲きの桜や、たんぽぽ、スイセン。それ以外は、名前がわからず「野草」「野花」と呼ぶしかない、この感じが悔しい。悔しがりながらも、君たちは綺麗で、可愛すぎる。私は今この景色を独り占めしている。途中もったいなくなって、マスクを外した。するとふわっと、花の匂いとも排気ガスとも違う、すっきりした空気が入り込んできた。

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鳥の声が聞こえつつ、田んぼでは忙しそうに作業する人が見えた。

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そして桜の季節に訪れたのは、冬は白鳥が飛来する場所としても有名な五郎沼。日差しもやわらいだ夕方、おそらく近隣の老人ホームやら福祉施設やらからきたと思われる車がとまり、スタッフさんが引き連れてみんなでベンチで日向ぼっこしている。ああ、気持ちいいなあ。こんなところに父も連れてきてあげたいなという思いに駆られる。

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ひとりで写真を撮っていたら、散歩するご夫婦が「きれいよねえ」と話しかけてくれた。
「昔は冬に白鳥がよく飛来していたのだけれど。今は餌やりが禁止になって、あまり来なくなったわね」と、ご婦人はつぶやく。
好シーズンでもゆったりと景色を堪能できる「余裕」が、ここにはある。

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人口密度の話に戻る。
私が育った東京・中野区と、今いる紫波町の面積・人口・人口密度を比べてみよう。

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1平方キロメートルあたりの中に、2万人以上いる!!中野区。
に対して紫波町はといえば……134人

繰り返しになるが、私の長年暮らしていた中野区は、東京23区で2番目に人口密度が高い。そして今暮らしている岩手県は、全国で2番目に人口密度が低い(2020年時点で83.8人/km2)。紫波町は中野区の約15倍の面積があり、中野区は、紫波町の中央部(日詰/赤石/古舘)くらいのサイズに当たる。

もちろん、人口流出・減少は多くの自治体で課題とされているし、人口密度が低ければいいという話ではない。だけど人口密度ってこういうことなのか、ということを思い知らされながら日々生きている。

紫波中央駅を降りてすぐにある、複合施設オガール
図書館・バレーボール体育館・ホテル・役場・産直・パン屋・カフェ・飲食店・アウトドアショップ…その他、子育て支援センターなど便利な場所が1箇所に集結している場所だ。十年前にできたこの施設は、美しく管理され、特にスカーンと晴れた空の下、山に囲まれた景色が見えるこの場所は、お金を支払わなくてもいられるし、用がなくとも立ち寄り、休みたくなるような贅沢さがある。

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晴れた日の土曜日の午後のオガールには、親子連れ、あるいは井戸端会議を座りながらしている人たち、ジャージ姿の学生などがちらほら見られた。午前中はこの辺りで、図書館主催の読み聞かせが行われていた。奥の紫波町役場の建物前にはテントが張られている。この日は、オガールの中にあるアウトドアショップ「Knotty」による、広場でテント張っていいよ!という定期イベントの最中だった。役場の前にテント張っていいよという世界線、ここにあったのか。

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「この場所、いいよねぇ」という場所は、たいてい、東京では混雑とセットだ。お店にしても有名店、人気店になるほどお店はどうしても混む。東京で快適な場所がないわけでは決してないけれど、良い場所には人が集まってしまう。人の総数が多いからこそ、自ずとその場所の密度は高まる。

私はコロナ禍の紫波町しか見ていないから、余計にそう見えるのかもしれないが、紫波町にある「いい場所」は、必ずしも混雑していない。ここにきて驚くのはそのことだ。
(唯一「密」だなと感じるのは、盛岡へ行く二両編成の電車。)

紫波町は、田舎と都市のいいとこ取りの、「暮らし心地の良いまち」。私もオガール付近の紫波町中心部に暮らしているが、車で数分行けばもうこの光景である。

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季節は5月。田植えの時期を迎えた紫波町は、本当に美しい。

人口密度が低い町に暮らすと言うこと。ぎゅうぎゅうじゃない、ほどよく物理的な対人距離を置ける場所に育っていたならば、私も生活の中に余裕を置けるように育っただろうか? いや、あくまで心がけの問題だし...「これから置けるようになるだろうか?」…いや、「置くのようになるのだろうか?」か。どこにいようが深夜テレビ・ラジオは好きだし、仕事は夜の方が捗るし、自分のサイクルは自分で作るしかないのだけれど。

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移住してから盛岡の免許センターに免許更新に行った。受付時間前に到着して、40名くらい外には並んでいたと思うけれど、免許更新ってこんなに簡単だったっけ…?と思うくらい手続きも測定も撮影も講習も、変な待ち時間もなくスムーズに終わった。

その後同じく免許更新を控えていたMさんに、「免許センター混んでた?」と聞かれたけれど、「東京より空いてました」としか返しようがなかった。すみません。

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