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読書日記ー『未来』『夏物語』『違国日記』

 ゆっくりと過ごす週末、いくつか本を読んでいた。マンガ以外はAudible(オーディオブック)で。こと小説については、オーディオブックで読むのがとても良い。あまりラジオドラマというものには馴染みがないのだけれど、ちょっとそれに近いのかもしれない。一人の人が書いた世界の話を一人の人が読み上げる、なんだかラジオを聴いているのと同じ心地よさがある。ぐぐっと惹き込まれて釘付けになる瞬間があったり、「ながら」になっているときがあったり。読書というのは時にずっと集中していなければできなくて離脱してしまうこともあるのだけれど、オーディオブックはあまりそれがないのが嬉しい。

湊かなえ『未来』
 
物語は、愛する父親を亡くし消沈する10歳の章子のところへ30歳の章子から手紙が届くことからはじまる。物語は10歳の彼女がひたすら30歳の章子へ向けて手紙を書き続ける、その語りで進む。物語はいずれ群像劇のようにさまざまな人物の目線で解き明かされていく。それでもそれぞれが見る現実は、「虐待」をめぐる苦しい現実の交錯であり、連鎖だったー…。

川上未映子『夏物語』

 東京で小説家をする夏子のもとに、大阪のスナックで働く姉とその子ども(姪)が訪ねてくる夏の話から始まる。ある日、一切母親と口を聞かなくなった姪は自分の思いをひたすら日記に書き続ける。
そして夏子は、やがてパートナーなしの妊娠・出産について考え始める。(この本はまだ読み途中)

ヤマシタトモコ『違国日記』

 こちらは漫画。交通事故で両親を失った15歳の朝(あさ)と、その叔母にあたる、人が苦手な小説家・槙生(まきお)は、一緒に暮らすことになる。朝の母である姉が嫌いであったこと、一人の時間を持ちたいという複雑な想いを抱きながら、朝と向き合う槙生。注がれるはずだった、母からの「無条件な愛」をある日突然と失ったどうしようもない孤独と、また自分の母と父の存在が一体なんだったのかという答えのない疑問を抱きながら高校生活を過ごす朝。
違う国にいるかのように、まったく違う言語で、文化で生きる二人の物語。

 なんとなくで読み進めた3冊は偶然ながら共通項が多かった。いずれも中学生の女の子と、30代後半の女性が登場すること。物語の視点は第三者的だったり30代側だったりもするが、少女たちはいずれも、発せられる台詞よりも自身が書いた「日記」や「手紙」が多くを語る。

 それぞれの少女はそれぞれの事情を抱え、急速に大人にならざるを得ない、なりたい、その自我への葛藤と、「この世の真実を知りたい」、そういう形のないものを必死に掴もうとするような、そういう疑問に満ちていた。 空が青い理由を知りたい、そんな気持ちと同じ動機で自分の目の前で起きていることの理由や、その結末を知りたい。急くような少女の気持ちは3作ともに現れていた。

その言葉に触れると、妙に胸が軋んだ。思えば私もこの年齢の頃が一番日記を書いていたなと思う。身の回りの人の気になった言葉や言動、自分が感じたこと、これを友達に全部話したら引かれてしまうだろうなというようなことをとにかく書いていた。あの頃から随分と年齢を重ねてきて、「わかっている」と自分で思うこと(たとえば錯覚だとしても)が増えてきたように思う。だけど少女たちは、「わからない」をむき出しにしている。その上で、なんでわからないのかという不条理さに本気で怒り、悲しみ、悔しがる。それぞれ30代の女性はその感情の振れ幅に驚きながら、それを面倒なような、羨ましそうな目で見ている。叔母と姪って、そうか。そういう関係性なのかもしれないな。

 偶然読み始めただけなのに、『夏物語』と『違国日記』はいずれもほぼ私と同い年の女性が主人公で、特に『夏物語』は、自分の子どもを持つ人生持たない人生を悩むところと、突如振りかかる空虚感の心理描写が心を抉ってくる。

 最近エッセイを読むことが多かったけれど、小説というのは主人公の感情も言動も深く描写されるぶん、エッセイよりも生々しい感情がむき出しになっていて、あれ、もしかして私が語ってるのか?と錯覚するくらいぐっさり刺さってくる。小説というのはこんなにも力があるものだったっけと驚いてしまう。オーディオブックじゃなかったらめくるページが重くて離脱していたかもしれない。だけど今日も読んでしまう。

 しかし、あのあたりの文章を引用したいなと思っても、分数の目安で遡らなくてはならないのでなかなか見つけられないのはオーディオブックのデメリットかもしれない。夏子は近所の銭湯に立ち寄り、亡くした祖母や母と、そして大阪にいる姉と子どものときに来た銭湯のことを思い出しながら、自分の過去のすべてが、実は存在しないのではないかという錯覚を覚えるシーンがある。それを「せきりょうかん」といえるだろうか、というような表現をしていて、せきりょうかんってどう言う字だっけと調べたら「寂寥感」だった。なんと寂しい字面。文字で見ながら読むのと耳から聞くのとで、「寂寥感」の伝わり方にはどれほどの違いがあるだろう。ま、耳から聞いても十分寂しかったけれど。

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