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岩手ではじめた「ZINEづくり部」の話。

東京から岩手へ移住した一年目は、目の前の景色の変化にわーわー言ったり、個人の仕事として2冊、本を出版するうちに時が過ぎていた。とても、あっという間でした。

移住二年目に差し掛かり、自分発信の腰を据えた活動をしたいな……と思いはじめ、「ZINEづくり部」を立ち上げた。

ZINEづくり部告知 3_アートボード 1

ZINEとは?

ZINEとは自主発行の小冊子や印刷物のことを指し、ホチキスどめのシンプルな形から、凝った作りや内容のものまで多様にある。本づくりと呼んでもいいが、紙1枚の学級新聞のようなものも含みたかったので、間口が広そうな「ZINE」を名称として採用。募集のお知らせをすると、定員の18名があっという間に埋まった。

岩手県内には、東京と比べると圧倒的にクリエイター人口が少ない。
この活動を通じてクリエイター仲間が増えるかも?という期待もあったけれど、蓋を開けてみれば応募があったのは、農業・医療・福祉・不動産の仕事をしている人や公務員、アナウンサーなど様々な職種の人、小学生を含む親子、文芸・写真・イラスト・マンガの創作に興味がある人も含む、ZINEを作ったことがない人が多数派だった。
意外だったけれど、この人たちが作るZINEを読みたいと、心から思った。

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個人的に集めていたさまざまなZINEや冊子を参考に学ぶ

まずは月に1回、全3回の講座を通じて一人一つZINEを仕上げることを目指す。どんな内容にするかと自分を掘り返す第一回から始まり、印刷・製本の基礎をレクチャーしつつ、使いたい紙を選ぶ第二回。第三回目までには原稿を用意して、その場で印刷・製本というなかなかタイトなスケジュール。

合言葉は、「とにかく一回、カタチにする」
私自身、今現在二冊の本を商業出版しているが、どちらもその元となるようなZINEや作品集があった。とにかくそのとき持ち得るベストを一度形にして人に見せる。自分の中にしかないもの、発表しなければ存在しなかったことになってしまいそうなものを、一度自分の外に出してカタチにする。それに意味があるのだということを強調した。

ただ、実際カタチにするにあたっては、本を作ったことのない人たちがほとんどのメンバーは、紙のサイズひとつとっても、いわゆるコピー用紙の基準となる「A4」「B5」と言われてもピンとこなかったりもする。紙のサイズというのは…印刷というのは種類があって…製本のしかたでページ繰りが変わってきて…そして紙も種類も色も厚みもさまざまで…と、何から何まで伝えるか、そんなのはキリがないのだ。

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紙見本から自分が使いたい紙を選んでいく。紙の世界も果てしないけれど
紙見本ってテンションあがるよね〜と話しながらパラパラめくる

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紙関係の仕事をしている部員さんが持ってきてくれた紙の厚みをはかる機械

技術的な個別フォローは最低限のつもりだったけれど、使うツールも作りたいものも千差万別な部員たちはつまずくポイントも違う。どこにつまづいているのかがわからないまま締切を迎えるのは怖いので、結局個別相談も受けることにした。「今回は間に合わなそうなので、教わったことを元に今後、自分でやってみます」という人には、「多分、今後もやらないと思いますよ」と励ました。(苦笑)
ズボラな私の経験上、「いつかやる」は、たいていやらない。だからこそ今、100点満点じゃなくても、試作品でもいいから一度形にすることを全力でおすすめした。

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特別企画として、盛岡の書店「BOOKNERD」店主・早坂さんとの
対談も開催。

そして迎えた印刷・製本の日。

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以前はマンガを描いていたけれど、今回をきっかけに久しぶりに描いたという人が、「僕、マンガ描けたんだ……」と、クマをこさえた目でつぶやいた。

ずっと携帯小説が好きで、自分でも小説を書きたかったという人がはじめて短編小説を本にした。自分の仕事や活動の小パンフレットを作った人がいた。今まで自分で作っていたけれど、もう少し紙や製本にこだわってみたかった人が、一段階作品をグレードアップさせた。「一度やってみたかったこと」を自分の本にあらゆる形で込めた人たちがいた。

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紙や印刷や色の仕上がりに誰よりも一番こだわっていた小学生男子の作ったZINEは、とうてい大人がたちうちできないほどのアイディアから生まれた最高の出来になっていたし、もはや途中からはもう指導者に回っていた。

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みんなそれぞれに熱量と達成感に満ちた、本当にいい表情をしていたな〜。

作品づくりのためには、自分と向き合う時間を作らなければならない。自分自身の考えや伝えたいことが出る面白さとともに、発表することへの怖さを感じることもあるかもしれない。それを乗り越えて仕上がった一冊に対して「作ってよかった」と自分自身が思えればいい。同時に「本って、自分にも作れるんだ」ということを知ってもらうことで、継続的に作る人が町に増えたら、こんなに嬉しいことはないなあと思う。

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一時的な産みの苦しみはあれど、誰にでも、その時の自分にしか作れないものがあるはずで。たとえば今年の自分が作るものと来年の自分が作るものでは、きっと心境も作りたいものも変わってくる。そして自分が作ったものを見返すと、後から改めて、こんなことを思っていたのか、というかこんなことができたのか!という自分に出会い直せる。少なからず、その事実に救われるときがくると思う。

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ZINEや本づくりの過程にはそれぞれ沼がある。文章・絵・写真の技術を上げたい、紙・印刷・製本にこだわりたいとか、キリがない。

小さな町に暮らしてみたら、「欲しいと思う場所は自分で作ろう」と思うようになった。そして出会いたい人たちは引き寄せるか、自ら出会いにいくしかない。そうか、私は、創作する人ともっと出会いたかったから、みんなで創作する場を作ろうとしていたんだな。

ZINEづくり部がテレビに

そんな「ZINEづくり部」のもようと、私の一冊目の本から移住の経緯について、岩手朝日テレビ「J チャンネルいわて」、夕方のニュースの特集で取り上げていただきました。愛ある編集により、拾ってもらいたいメッセージをまとめていただいて嬉しいです。

動画は気恥ずかしさもありますが、よければどうぞ。
(報告:石田瑠美子さん)

今後のZINEづくり部

ひとまずシーズン1を終えたZINEづくり部。まだ補講を控えた部員もいるため、全員分の完成はまだなものの、部員さんたち同士の作品をじっくり見よう!というお披露目会をやる予定。

こんな内容いいな〜とか製本いいな〜とか、ここをもっとこうしたらいいんじゃない?とか。自分達が作ったものを見せ合えるのは、それぞれが作ったものがあるから。それをアテに飲む…ならぬネタに話し合う時間って、なんとも尊いなと思うわけです。

今後は現在の部員さんの意向も伺いつつ、若干名追加メンバーを募集してシーズン2を迎える予定。1を経てまた作りたいと思う人がどれくらいいるのか未知数だけれど、多分一冊を作るだけで満足できる人たちではない気がしています。笑 部員さんたちももはや教えられるくらいになっていくとさらに素敵だなあ。

文章、イラスト、漫画、レイアウト、紙、印刷、製本、その他加工……。とにかく色んなジャンルに沼があるわけなので、これを少しずつ掘り下げていく講座は今後もやっていきたいなと思います。あくまでZINEや本を作りたい、という、全員共通の目的がありながら、最終的には個人プレーでそれぞれの理想を追求する。そんなありかたがとても部活っぽいし、私は私の創作をしたいからそのやり方が心地良い。

持続可能な形を考えて継続していきたいと思います。

そして私も、自分のZINEを絶賛製作中。好きな紙に囲まれながらあれこれ悩むのは、たいへんだけど楽しい作業。早くサクサク決めて進まなきゃいけないのに、終わらせたくないような気持ち。

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