アポロ18号の殺人 はえ〜

宇宙飛行士ってすごいんやな〜。
以上、感想終わり!

本作の流れは宇宙飛行士の搭乗前訓練から始まり、地球軌道でのゴニョゴニョミッションを経て、月面でのミッション、そして地球へ帰還しハワイ沖へ着水、という構成になっている。
著者のクリス・ハドフィールドは元宇宙飛行士だけあり、彼が描くディティールはまさに微に入り細を穿つ、という描写になっている。

とはいえ、申し訳ないがそれらはメインストーリーである殺人事件の背景でしかないはずである。肝心の殺人がどうなのかというと、こちらはまるでボイジャー2号の如く太陽系の外へぶん投げてしまっている。
タイトルの『アポロ18号の殺人』、原題も『THE APOLLO MURDERS(アポロの殺人者たち)』とそのままであるが、殺人事件自体はアポロ搭乗前の訓練期間に起きる。
最初は事故と思えたこいつが「殺人」であると判明した時には、すでに容疑者は地球にいない、というのがあらすじの面白い部分なのだが、上巻の真ん中ぐらいで事件が判明してから、事件の話はあまり進行しない。
じゃあ上下巻に渡って何が書いてあるかというと、ひたすら宇宙計画の細かい描写と、米ソ分かれた登場人物たちの、それぞれの立場に基づいたそれぞれの思惑だ。だけどそれらは殺人事件とは関係がないし、その関係のないストーリーがこの本のほとんどを占めているのだ。なぜこのタイトルにした。

事件自体についても、容疑者は宇宙飛行士以外にもいたはずだが、いつの間にか今回宇宙船に搭乗する3名に絞られているし、3人いる宇宙飛行士の誰が犯人なのかも、特に捻りもなく怪しい人物がそのまま犯人だ。一応、彼がやった証拠が見つからない、というのが話の鍵として下巻に続くのだが、その証拠は最後まで見つからないし、特に探しもせず話が終わる。動機だってなんとなく犯人の性格上察せられるものだが、事件自体についての犯人の描写もなく、捻りもない。つまり殺人事件の推理を期待してもこの本にそれが見つからないのだ。ちょっと変わった推理ものを期待してこの本を手に取った人は、そっと本棚に戻してほしい。

この作品は宇宙開発競争の時代を描いている。登場人物はアメリカ側、ソ連側どちらも相手国のことが嫌いだし、自国側を優位に立たせようとする行動ばかりが目立つ。つまりどちらの側も、アメリカ人でもソ連人でもない僕には好きになれないのだ。

そして主人公。基本的にこの作品は群像劇のような構成になっているが、一応の主人公(裏表紙の登場人物欄で一番上に載っている)がカジミエラス・ゼメキス、通称カズである。この作品、タイトルにある殺人事件は話の脇に押しやっているのに、探偵役である主人公がクライマックス近辺までポンコツという、推理小説の良くないお約束はしっかり踏襲している。しかも本作のクライマックスは殺人の種明かしではなく、ドンパチなので、カズは本当に脇役(よりちょっと出番が多い)のうような活躍だけで終わってしまう。群像劇らしく色んな人物が登場し、その描写も細かく描かれているが、メインとなる登場人物はその中でもわずかだ。意味ありげに登場し、意味ありげなまま退場する人物が多すぎる。

というわけで読み終わったあと、「何を読み取れば良かったのか」と少し呆然としてしまう本だった。
まあ作者的には宇宙計画を細かく描写できればそれで満足なのだろう。恐らく読者に伝えたいこともそれだし、専門性のあるストーリーを門外漢にも読んで欲しいと思い、「殺人」というものををタイトルと(一応の)あらすじにしたのではないだろうか。
その点、(こういう場面で類似作として挙げるのは申し訳ないが)『化け者心中』を思い出させる。

こちらも作者が描きたかったのは本筋である殺人犯の推理ではなく、背景の江戸の風俗、そして芸事に命をかける登場人物たちなのだろう。確かにこれらの誘いにホイホイ乗った推理小説好きの僕はどちらも買ってどちらも読んだが、どちらもクライマックスに肩透かしを食らうことになってしまった。

最後になるが、本作を知ったのは小島秀夫監督の推薦図書、「ヒデミス」だ。

この一覧のなかで特に監督が絶賛していたのが『異常 アノマリー』である。

こちらも近いうちに読んでみたい。と、思っているのだが、ちょっと新書で買う気が失せてしまっている。

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