憧れるのはやめました

『もうそろそろ買い替えを視野に入れた方が…』
フリードスパイクに乗っていたが、通算距離にして約13万キロ。
車検に出す前に、職場の整備士に見てもらったらそんな一言が出て来てしまった。
タイヤの減り具合に注目して、リフトアップしてみたら左後輪のショックアブソーバーから油が滲み出ていた。
タイヤはローテーションで誤魔化すとしても、足回りの根本がどうにもならぬ。
4本全交換にしてバランスを正しく取り直すには費用もバカにならない。
『車検に出すのは今回で最後だな…』と腹を括った。

腹を括ったからには、その日から買い換え車の候補を探すことになった。
新車を買う経済力はないから中古車からになる。
外車は候補から早々に外した。
職場に乗り付けて来たりすると、『ちょっと座らせてもらってもいい?』とか言って運転席に乗り込んでみたりもした。
足元が狭いとか、視界が良くないとか、座った瞬間に違和感のある車は候補から脱落。
中古車となると滅茶苦茶安い。
安いからには理由があるはずで、職場に外車乗りの人たちに訊いてみた。
『新車でもすぐに壊れるのか?』と。
『ええ、壊れます』と即答だった。
壊れたら部品は本国から取り寄せ、中古部品は流通量が少ないとかになるから面倒なこともあると。

『乗ってて楽しい車を』というのは誰しも共通の願い。
だが、それがどんな車なのかは人ぞれぞれで、基準もベクトルも違う。
『まずは行動を起こさねば…』
探していくうちに自分の乗りたい車もハッキリしてくるであろう。
手始めはこれだった。

ジオニックトヨタ シャア専用オーリス。
通称、シャア専用車。
年間300台しか生産されてない限定車で、ガンダム好きな私としてはグリグリとツボを抉って来る車だった。
価格や走行距離や年式も悪くもないし、ネットを通じての見栄えも悪くない。
オプションもほぼフルオプション。
『これは買いかもしれない…』と期待に胸膨らませて取扱店に行って見せてもらうことにした。

外観は申し分なくて、取扱店の目利きに狂いはなさそうだ。
傷もなくて、自社で相応に手入れもしている。
内装も然り。
『良かったら乗って座ってみてください』
促されるがままに座ってみると、脳裏に過った言葉。

『憧れるのはやめましょう』

大谷翔平がWBCの決勝戦を前にメンバーの士気を高めるべく発した言葉。
勝つためにWBCに来たのに、メジャーリーガーたちに憧れていては冷静に野球は出来ないし、優勝も出来ないと。
これは車選びも然り。
人間が作り出した機械である以上は完璧な物はない。
世界に名だたる自動車メーカーの車であっても、乗り手の自分に合ってなければガラクタ以下なのだ。
目線が低いのは車体の構造上、致し方ないから自分が乗って行く過程で慣れるしかない。
座った瞬間に『ん?』と思ったシートの形。
セミバケットシート。
ロングドライブを好む自分には腰や腹に負担がかかりそうな予感。
そして窓から見える外を見てみる。
『この角度はキツイな…』とフロントの窮屈さ。
視界とシートの窮屈さに堪えかねて降りてしまった時に、もうダメだと諦めた時に目についてしまったのがローダウンで、これが追い打ちをかけてしまった。
見栄え重視で走り心地を捨てる車には用はない。
見積もりはもらったものの、後の商談は進むことはなかった。

その後、車を走らせていたら新しいアウトレットモールが建っていたので入ってみた。
そこで偶然にトヨタの展示会をやってたので、これ幸いとばかりに展示してあった車全部の運転席に座ってみた。
『この視界はキツイな…』とか『これならいいかもしれない…』とか。
自分が車に乗って何をしたいのかを考えて行く。
そして、本当に自分が求めている車が何なのかがわかってきた。
シャア専用オーリスを叩き台にしてしまったのは申し訳ないのだが。

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