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腐道剣士

《貴女の所持する印刷物をスキャンしました。二ページ20行「ゴウトはウラカミ少佐を抱き締め、その唇を」とあります。明らかな有害文書です》

「あ、あ、ああ、」
セーラー服の少女は地面にへたり込んで動けない。白いマネキンは無慈悲な朗読を続ける。


《4ページ13行『ベッドに横たえると、軍服を脱がし』明らかな第一等有害文書です。所持者に対し攻撃、連行、隔離が認められます。これは青少年正常化条例のゐ三十九条に明記されています》

マネキン―正常化委員会のオートマタは彼女に銃口を向ける。高圧水流弾だ。

初めて作ったボーイズラブ同人誌が、自分ごと引き裂かれようとしている。

「ゆ、許して、くだ、さい」
誰も助けてくれない。条例は絶対だ。誰だって下手に関わって職や命を失いたくはない。涙で歪んだ視界に嘲笑する人々――
「すみません、その本読ませてもらっていいですかぁ?」
「あ、え?」

ゴツゴツした指が伸びて、しっかり胸に抱いていた冊子から一部抜く。

目を上げると太目で髪を一つにくくった中年女性。真剣な表情で数ぺージめくり、

「うーん、これゴウウラかあ」
『この少女は条例違反です。擁護するとあなたも罪に問われます』
「残念!私、逆のウラゴウなんだよねー。でも助けたげるよ」
女は笑って大きなバッグから剣を取り出した。コウモリの羽根型のプラスチック製の剣。
「魔剣サイナイド!」『ミセテヤル!ノロワレシケンヲ!』
束の宝玉(レジン製)のLEDが光ると割れた電子音声が響く。10年前の人気アニメ『スタリオンソード』の悪役の武器だ。
シュールなコントのような光景だ。
7台のオートマータに銃口を向けられて、子供向け番組の玩具を自信満々で掲げる女。

死ぬんなら、ボーイズラブもっと読みたかった…!年齢制限があるのも…!

ビョウッ!固く目をつぶった少女を強い風が叩く。機械が一撃でスクラップにされた破壊音。

剣を構えた女の前で、オートマタは袈裟懸けに切断されていた。
                            《続く》

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