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我が家の…シリーズ8

『軽トラは、遠くに停めてぇ!』

我が家はクリスマスケーキを買ったことがない。

子ども達が小学校に入るまでは私が作っていたからだ。
ホール型のものや四角形。
初めは真面目に徐々に手抜きに。

ブッシュドノエルは、ロールケーキにクリームを塗り表面をフォークで撫で『きのこの山』を置く。赤い実つく柊の小枝を刺すと出来上がり。

プチケーキもどきはタカキベーカリーの『ピープー』にクリームでコーティング。その上に『きのこの山』を置き抹茶チョコを削り苺を乗っけ銀の仁丹みたいなチョコを降った。

まぁ様々な手抜きケーキを作ったが
気付けば『きのこの山』さんには世話になっていた。

B男もA男も世間などという世界は知らない。
我が家が世界の二人にとって
これがクリスマスケーキだと言われると
疑う余地はなかった。
と、言うよりテレビCMに映るクリスマスケーキより遥かに我が家のケーキの方が素敵だったのだ。

こんなことが小学校入学で終わったのは子供会に入った事が理由だった。

我が家の地域に『いちご大福』で有名な和菓子屋がある。そこの息子は我が家のB男やA男と同級生だった。

子供会にはクリスマス会が毎年開かれ手土産を持ってB男やA男は帰って来た。
和菓子屋が作った直径15センチほどの立派な苺が四つものったケーキだった。
故に、二個のケーキをたいらげるとクリスマスケーキをわざわざ作る必要がなくなったのだ。
イブの夜に少し小洒落た料理を用意すれば事は足りた。


そんな我が家なので、クリスマスプレゼントなるものをB男やA男に買い与えるようになったのは彼らが二十歳を超えてからだ。

我が家には何処のご家庭にも有りがちな孫に甘いジージとバーバが居た。
夫は一人っ子でジーバーにとってB男とA男が唯ニの孫となり注がれた愛情は半端なく。クリスマスプレゼントもそれにならっていた。

そんなジーバーの行為を止めるのは思いを否定する事にも成りかねないので夫と私は容認した。
だが小さな子どもが高価な望みの品を安易に手に入る。そんな行為に夫や私はB男やA男が染まることに少し抵抗があった。

クリスマスは子どもにとって特別。サンタクロースも居るという夢もある。これらをまとめてクリスマスはサンタクロースからのプレゼントが一つ貰える。そんな事で落ち着いた。

そして、たった一つのクリスマスプレゼントを盛り上げるための行事が我が家では毎年十二月二十四日から二十五日に日が変わる深夜に行われた。

ぐっすり寝込んでしまったB男A男。同じセミダブルのベットでスヤスヤと。
そこに私は電灯も付けずに入室する。
二人のベットに
ドン!と乗り二人を揺り起こすのだ.
『見て!見て!』
寒い外気など気にせずにベットが横付けされた窓を開け夜空を指差し叫ぶのだ。
『あ〜っ!サンタさんが行っちゃう〜!』
『見えた?見えたでしょ?』
居るはずもないサンタさんの確認をする迫真の演技だ。

眠い目を擦りながら私の指先を見つめるA男。

『えっどこどこ?』
と訊ねるB男。

A男は物言わず夜空を見続ける。

寒い。
そろそろ窓を閉めたい気分だがB男がA男に見えるかどうか聞いている。
相変わらずの他力本願の奴だ。

『あ〜今年も会えなかったわねっ。』
『ああっ。プレゼントだぁ!!』
枕元のプレゼントを指差して
またまた女優の私。

相変わらず無言でプレゼントを見つめるA男。

『サンタさんに会いたかったよぉ』と
半泣きでプレゼントを抱きしめるB男。

双子なのに反応は正反対。

いつもそうだ。
夕食を作るのが面倒な時
『うどんとラーメン、どっち食べたい?』
と聞くと
B男『うどん』 A男『ラーメン』
『すき家にする、吉野家にする?』
A男『すき家』B男『吉野家』
みたいな。
あっ、これちょっと違うな。


だがこんなクリスマス行事もあっけなく幼稚園年長さんの時に終了となった。

幼稚園仲良しグループのパパさんの一人がクリスマスに向けて何やら計画し始めた。
ご注意あれ、絶対に夫ではない。

『今年は俺がサンタになってあげるわ!』と。

確か五、六人の仲良しグループだった。
ピザの配達でもあるまいに当初引いていたグループの面々もクリスマスが近づくにつれてパパさんのパワーに引き込まれ十二月二十三日には各家庭のクリスマスプレゼントはパパさんの家に集結していた。

決行は二十四日の夜。
そりゃそうだろう、昼間はありえない。いい歳のおじさんがサンタの衣装で町内を廻るのだ。誰かに見られれば狭い町内、ちょっとした噂にもなりかねないからだ。

陽は沈み我が家もちょっとしたクリスマスディナーを終わらせ寛いでテレビを見ていた二十時過ぎ携帯が鳴った。

『次はB A男ちゃんのとこです。』
『あと、三分くらいで着きますから。』
ご丁寧に事前連絡だ。
『注意事項は、俺しゃべりあませんから。』
『声出すとバレちゃう恐れありますからね。』
はいはい。
パパさんなりの気遣いだったが
だか、そんな気遣いも水泡ときすときが刻々と迫っていた。

しばらくして『ピンポーン』
インターフォンにはあえて出ずに
『はぁ〜い。』と、ドアを開けた。
私とパパさんはアイコンタクト。
続いて私の名演技。
『あっらぁ〜サンタさん』
『B男A男、サンタさんよぉ!』
少し大き目の声でリビングの二人を呼んだのだ。

慌てて出て来る二人。

喜ぶB男。

無言で固まるA男,

何も言わずに大きな白い袋から
それぞれのプレゼントを渡すパパさん。

『わぅわぅわぁ』
『あ・あ・ありがとう。サンタさん。』
ピュアなB男。

それに比べて『………。』A男。
貰うだけもらって私の後ろに隠れるのだ。
ちゃんとお礼を言いなさいと促すと
蚊の鳴くような声で『ありが…とう。』

さぁ次の仲良しさん宅に行かねばならないサンタパパさん。手を振り玄関ドアの向こうに消えて行った。

リビングに子ども達を入れてドアの鍵を閉め
『あ〜よかったねぇ。』
『今年はサンタさんに…。』
最後の演技をしながらリビングに入るとA男がソファーの背もたれに跨っていた。
何をしているかと思えば…じーっとカーテンの隙間から外を見つめているではないか。
そしてクルリと振り返り
『あの軽トラ、ゆうきくんのパパのだ。』

そうA男はサンタさんの正体をこの時に知ってしまったのだ。

後にA男から聞いた話ではサンタが到着する前に車のエンジンが止まる音を耳にし初めからサンタさんを疑いの目でみていたと言われた。

B男と違ってどこか A男は神経質。
良く言えば感受性が強い。

そこへいくとB男はピュアだが洞察力に著しく欠けた性格だ。



そんなこんなのクリスマスイブを境にサンタさんの存在は我が家では居ない者と認知され改めてジーバーの存在感にB男A男は甘えて行ったのは確かだった。


あのイブの夜
軽トラをもう少し離れた所に停めてくれていたら
B男A男のサンタさんへの夢物語は続いていたのかとフト思う私だった。









お読みいただき
ありがとうございます。

クリスマスが近くなると色々なB男A男の子ども時代を思い出す品で御座います。

素乾 品



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