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撮影現場のワークホース「3rd撮影助手」マニュアル


この記事の意図

この記事は新しく私のチームに入ってくる3rd撮影助手に向けてこう振舞って欲しい、これを気をつけて欲しいという説明書として作成しましたが、同時にこれから撮影部を目指す方の参考となればという意図もあります。
ただし、ここに書かれている内容はあくまで僕の主観と経験によるもので、チームや現場によっては異なる事をご了承ください。


3rd撮影助手とは

日本の撮影現場で主にカメラやその周辺機器を扱う部署の事を「撮影部」と呼びますが、その中でも色々な役職が存在します。

カメラマン(撮影監督)

撮影部の長で、監督や他部署の長と話し合いながらアングルやカメラワーク・照明等、映像に関わる根本的な事を決定し責任を持つ。

1st(チーフ)撮影助手

カメラマンの直属の部下として撮影部全体の管理・他部署との調整・露出の計測・機材や撮影部の人件費・スケジュールの調整等をする。

2nd撮影助手

フォーカス(ピント)を担当。常に一番カメラの近くにいるため、レンズやフィルターの交換・カメラ移動等のセッティングチェンジも主導する立場。

3rd撮影助手

撮影部に入って一番最初に配置される立場。
撮影部の機材の整理整頓・バッテリーの交換・ケーブルやモニターの管理・機材の移動等を担当する。

※これ以外にも4thあるいは見習いと呼ばれる助手が配置される場合もありますが、ここでは省きます。

大まかに言うと3rd撮影助手(以下3rd AC)は全体の補佐をする雑用係のような立場です。
雑用係と書くとつまらない仕事のように思えますが、3rd ACが適切な機材管理をできていないと紛失や破損が起きたり、撮影のテンポが崩れてスケジュールが押し(遅れる)てしまったりと、作品のクオリティーに大きく関わる事態になってしまいます。
そういった意味でも3rd ACの仕事は単純ながらも重要で、まさに現場の「縁の下の力持ち」と言ってもいいかもしれません。
また、最初にこのポジションを経験することによって現場の基本的な流れを学び、この後のステップアップの基礎になる大切な時期でもあります。

新人撮影助手の心構え

私が初めて仕事をする、新人の撮影助手さんに対してお願いすることは以下のとおりです。

・必ず返事をする
・分からないものはわからないと正直に言う
・一度覚えた・教わったことでも、分からなければ正直に言う

撮影現場で一番困るのが、機材や現場に関して良く理解をしていないのに行動した結果、機材を壊す、紛失する、全く現場の意図と違う事をして二度手間になる、と言う事です。
分からない事は悪いことではありません。
問題なのは、知ったかぶりをする事です。これをされてしまうと、その人の何を信用していいのか分からなくなってしまい、仕事を任せられなくなってしまいます。

現場がバタバタしていて聞きづらい、一度聞いたんだけど忘れてしまって気まずい。そういった事は良くあるとは思いますが、そう言う時はタイミングを見て質問するか、何も触らないようにしてください。
これはベテランになっても油断や過信から事故の原因になる事でもあるので、自戒を込めて毎回伝えるようにしています。

撮影助手として気をつけるべき基本的な事

①報告・連絡・相談をしっかりする。

撮影部はチームワークでやる仕事です。どんな些細な事でも周りと共有し、確認を取ってください。自分が当たり前だと思っていた行為も他人に取っては全く見当違いな事だったりします。

②機材を大切に扱う


撮影機材は大半がレンタルしているとても高価なものです。価格だけではなく、少し取り扱いを間違えると容易に破損してしまう繊細なものでもあります。
機材の取り扱いは焦らず慎重に。特にバタバタしていると地面にそのまま置いてしまう人がいますが、これは危険ですので決してやらないでください。

③他部署にリスペクトを払う


撮影は撮影部だけで行うものではありません。照明部や特機部といった技術部、監督を補佐する演出部、現場の環境を整えてくれる制作部、衣装部やメイク部その他大勢のスタッフがそれぞれの仕事をこなしています。
それぞれの職種に敬意を払い、他部署にお願い事をする時は丁寧に対応するようにしてください。

3rd 撮影助手の3つの役割


①機材の整理整頓

3rd ACの最も基本的で、そして最も重要な役割が機材の整理・整頓です。
撮影現場は常に予測不可能な事が起こり、かつ時間との勝負な中でかなり慌ただしく、撮影機材はあちこちに散らばったり、決められた場所に戻ってこなかったりする事がほとんどです。
そんな中で3rd ACは現場全体を俯瞰し、現場に持ち出された機材を整理し、散らばっている物を元の位置に戻します。
特に「マグライナー」と呼ばれる撮影用の荷物台車の上にどのような物を置くのか、そして現場のどこに配置するのかといった事は重要です。
この為には撮影前に1stや2ndとコミュニケーションを取って、機材の配置を確認し、把握しておかなければいけません。

3rdの仕事がしっかりできていると現場で機材の取り回しに遅れが生じず、さらに紛失や破損を防ぎ、撮影部としての見た目も良く見えるという事につながります。
見た目は全てではありませんが、印象というものは円滑に仕事を進める上で重要な要素です。

3rd ACは機材整理に関しては、現場の誰よりも権限を持っているという責任意識で仕事をしてください。

※よくマグライナーの上に飲み物や菓子を置きっぱなしにしている事がありますが、これは見た目が汚いだけでなく、こぼれた場合に機材の破損や汚損につながります。放置されている物はカメラマンのものであろうが容赦無く片付ける、もしくは廃棄してしまってください。

②バッテリーの管理

撮影現場で使用するバッテリーの管理は基本的に3rd ACの役割です。
大きく分けると、配置・充電・交換となります。1つづつ確認していきましょう。

②-1配置


まず現場に着いた時、ロケセットやスタジオ、ゼネ(発電機)がある現場等バッテリーの充電が可能な場所なのかを確認します。
これは事前に1st ACや撮影資料から確認をしておくか、現場で制作部に聞いて確認してください。
他部署のゼネから電源を取る場合、必ずその部署に確認を取ってください。

充電ができることが確認できたら、充電場所を探します。撮影場所からあまり離れすぎず、かつ邪魔にならない場所を探して充電器を配置して配線してください。
あまり現場に近すぎると充電器から発する動作音が撮影の邪魔になることがあるので注意です。
できれば長机等を探してその上に配置してください。地面にベタおきする事もありますが、蹴飛ばされたり、充電の作業自体がやりにくいというリスクがあります。
机がなくとも、箱馬(撮影用の箱)や使っていないケースの上に置くなどしても安全です。

また、1つのコンセントから多く充電を取り過ぎると、ブレーカーが落ちたり不十分な充電になってしまう事があるので、取りすぎないようにしてください。
なお、既に他部署(照明部やDIT等)が使用しているコンセントは原則として使用しないこと。これも機材の破損やブレーカーが落ちる原因になります。

②-2充電


充電器の配置ができたら充電を開始します。
バッテリーには点灯式のインジケーターが付いている場合が多いので、それを確認して減っているものを充電器にかけてください。
延長ケーブルやドラムコードを使っている場合、小さく巻いたまま使用しない事。発熱して発火する恐れがあります。全て出し切って大きめに巻いてまとめておいてください。

撮影の進行次第では充電器が埋まってしまう事もあります。
その際に、充電器の上に未充電のバッテリーを置く人もいますが、あまり好ましくありません。バッテリーが滑り落ちたりすると破損の原因になります。
未充電バッテリーは専用のバッテリーケースに入れ、未使用(フル充電)バッテリーと区別するために上下逆さまにして入れておくとわかりやすいです。
充電器はこまめにチェックして、充電が完了したものから入れ替えれば問題ありません。

②-3交換


3rd ACはこまめに現場のモニターやカメラのバッテリーの残量をチェックし、残りが少ないとなったら交換してください。
その際に注意すべき点を何点か上げます。

バッテリーを無理して複数個持たないこと。
交換するバッテリーと使用済みのバッテリー、さらには他のモニターやカメラ用の電源も一緒に、、、と無理に運ぼうとして落として破損、という事故はよくある事です。
複数持たなければいけない場合はできれば入れ物を使用して、2つ程度であれば落ち着いて運んで、交換も無理して一人でやらず、2nd AC等近くにいる人に手伝ってもらってください。
1人で交換をやらなければいけない時は、可能な限り一つは近くに置いて交換する方が安全です。

次に、交換する時は必ず確認を取る事。
モニターや映像送信機のバッテリーを変える際はまだ見てる人がいないかどうか。見ている人がいるのにバッテリーを変えて映像が途切れてしまった場合、トラブルになってしまします。
もし、もうバッテリーが無くなる寸前でどうしても電源を切らなければいけない場合は見ている人に断りを入れるか、代わりのモニターを用意してください。
モニターによっては電源を切らないで交換できるものがあるので機材チェックの時に確認しておくこと。

カメラであれば、再生確認や設定の変更、メディア交換をしていないか。もしくは撮影をしていないか。カメラは何か動作をしている時に電源を落とすという事は決してしてはいけません。最悪の場合、撮影したデータが壊れてしまう事になります。
一見補助電源が付いているように見える機材でも、何らかの理由でそれが作動していないという事も良くあります。バッテリーを変えるときは必ず他の助手かカメラマンに確認してから作業するようにしてください。

③モニターの管理

③-1 事前準備

DIT助手やビデオプレイバック等、他にモニターを管理する立場の人がいない場合は多くの場合3rd ACがモニターの管理を担当します。
まずは機材チェック時にモニターの種類と役割を把握してください。
18インチは監督用で無線、もう1台の18インチはクライアント用でケーブルを繋ぐ有線仕様、7インチは無線でタレント用、、、といった感じです。

次に現場までの運搬ですが、これは基本的にケースに入れて運搬してください。
モニターの画面はとても割れやすく、破損すると高額な修理費が請求されてしまいます。
もしケースから出して運搬する場合は、マグライナーの上段や中段に寝かせるか、下段に立てた状態でしっかり固定すること。どの場合も必ず液晶面をモニターフード等で保護してください。ただし、この方法は1~2時間程度の短距離輸送に限ります。長距離を移動する場合や舗装されていないような道を行く場合は多少面倒でもケースに戻してください。

③-2 現場での取り扱い

現場に到着したら、バッテリーを装着して無線機も装着、あるいはケーブルを繋げてスタンド等に乗せ、映像が出るか確認をします。
以降、撮影中にバッテリーを変える際も再度映像が出るか必ず確認すること。
バッテリーを変えて満足して、映像が出ていないのに現場を離れてしまうという事が多々あります。

多くのモニタースタンドは折り畳み式です。
スタンドの下部が正しい状態で固定されているか、しっかりと確認してください。中途半端に伸びた状態でネジを閉めると転倒の原因になります。
車輪付きのスタンドの場合は、3つの各車輪にロックが付いていることが多いです。
平坦な場所であれば、ロックをかけるのは1箇所で問題ありません。2箇所以上書けると万が一スタンドが蹴られてしまった場合、力をもろに受けて倒れてしまいます。1箇所のみであればスタンドが転がってある程度力を逃がしてくれます。
ただ、例えば坂道や未舗装の道、高低差がある場所など動いたら危険な場所においては2箇所あるいは3箇所全てのロックを止めてください。
傾斜がある場所でスタンドを建てる場合は、必ず下り方向を1本足にすること。2本足を下にすると、転倒の原因になります。
一部スタンドは3本の内1本が伸びる仕様になっていて、坂道に置いてもある程度は水平が取れるようになっています。機材チェックの際に確認しておいてください。

モニターの配置は、そのモニターの役割に応じて適切な場所に置いてください。
その際に意識しなければいけないのは現場の動線や環境です。
例えば、役者や機材が通る動線の真ん中にモニターを置かない。あるいは動線を避けていてもモニター面が動線を向いていた場合、人が動線上に集まって塞いでしまうので、その事も考えて向きを決定する。
モニター面が明るいライトや太陽に向いていると反射で見えにくいので反対側を向ける、あるいは照明部にお願いしたり、撮影部持参のフラッグで影を作る。
道路脇等危険な場所であれば、道路側に置くのは避け歩道か、せめてモニター面は道路と並行に向けて側道沿いに人が集まるようにする、等です。
これは1stや2nd ACともよく話し合ってください。

③-3 モニター保護

ロケの場合やスタジオでもライトが明るい場合はモニターが見にくい場合があります。大体のモニターにはモニターフードがついているのですがメーカーによってつけ方が違ったり、機材屋によっては付属していなかったりします。機材チェックの際によく確認し、必要に応じて現場で装着してください。

雨や雪、砂埃等が想定される場合は「雨養生」と言われるカバーが必要になります。大体においては市販のビニール袋を使用する事が多いです。
この際、なるべく無地透明な物を使うと、装着した状態でも機材の様子が見えるので便利です。ある程度の量を買ってストックしておいてください。大体45リットルの袋が17~18インチモニターにちょうど合います。
7インチ等小型のモニターに関しては、シャワーキャップを100均等で買っておくと使いやすいです。
装着する際は必ず端子部分を保護するように装着すること。この際、モニターフードを付けると装着しやすいです。

③-4 トラブルシューティング

もしモニターの映像が途切れてしまった場合は以下のように順を追って確認をしてください。
1、モニターの電源が入っているか確認
2、電源がついていたら、映像ケーブルが「IN」に入っているか確認(無線一体型の場合はそのまま3へ)
3、映像の受信機がきちんと動作しているか確認。有線の場合は、ケーブルが正しく送信側からつながっているか確認。
4、受信機が問題な場合は電源をON/OFFするか再接続の操作。送信機側も同様。
5、送信・受信に問題が無い場合はケーブルの交換。もし差し口が複数ある場合は差し口を変えてみる。

※送受信機どちらに問題があるかは、現場のモニター全体に影響が出ていれば→送信機側 / 単体で影響が出ているのであれば→受信機側という見方もできます。
いずれにしても、機材チェックの際に配線をよく理解していれば、現場でトラブルが起こっても迅速に対応する事ができるので、よく見ておいてください。

最後に

ここに書いた役割は、現場で実際に3rd ACがやらなければいけない作業のほんの一部です。フィルムの現場ではフィルムの装填作業がここに加わる事もあります。
炎天下の撮影で、撮影部全員に水を持ってきてもらう事もあります。
予算が限られた現場では、ドリー(撮影用のカメラを載せる台車)を押す事もあるでしょう。
3rd ACは撮影部内では一番経験の浅い者が担当するポジションではありますが、同時に一番忙しく、そして1stや2ndと同じくらい重要で欠かすことのできないポジションでもあります。
派手ではありませんが、自分の仕事が撮影部全体を下支えしている、かけがえのないものなのだと誇りを持って現場に挑めば、きっとやりがいを感じることができるのではないでしょうか。
そして、その先の撮影部としてのキャリアにきっと役立っていくのだと思います。



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