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絵画に見る権力者のイメージ戦略

## はじめに ##

私は絵が好きです。
絵が好きな人には、色々な観点があるかと思います。
純粋に美しいものが好き、ユニークな着眼点に惹かれる、「推し」となる画家・作家がいるetc

私の場合、絵そのものの構図や色彩に惹かれることもありますが、どちらかというと、純粋芸術というより思想史・技術史等の一貫として「なぜその絵が生まれたのか」に着目して楽しむことが多いです。

そんな中、「なぜその絵が生まれたのか」知りたいという欲を特に刺激させるのが、歴史上の権力者の肖像です。
権力者は、自分を良く見せたい。でもあまり極端に美化しても物笑いの種になる。ということでポーズや衣装、シチュエーションを駆使して見せたいイメージに寄せていきます。
「良く見せたい」の中には、現代人には理解しがたい方向性、例えば「尊大に見せたい」といった希望入ることもあり、それもまた面白いです。

で、本日の本題ですが、色々と見ていて思うのは

後世に名を残す権力者は、イメージ戦略に優れている

です。

まあ、そのままですね。というか、結果を出した上でイメージ戦略に優れていてたから後世に名を残すわけで、トートロジーな気もします。
ということで、以下、著名かつ仕事のできる権力者と、そのイメージ戦略について私が特に面白いと思ったところを述べていきます。

## 成功例① ナポレオン ##


言わずと知れたナポレオン。

絵画におけるイメージ戦略についても、短足が目立たないよう体勢を工夫とか、アルプス越えは本当はロバだけれどもカッコ良さ重視で馬に差し替えとか、お抱え画家ダヴィットがテクニックを駆使して英雄としての勇敢さをアピールしているのは有名です。

が、私が思うナポレオンのイメージ戦略のキモは「生臭さを排したこと」だと思っています。

下を見てください。同時代の一流画家であるアングルが描いたナポレオンの肖像画こちらです。

Wikipediaより引用

どう思いますか。
私は「うわっ。。。。(どん引き)」と思いました。
上手い下手とかじゃなくて、本人の圧が強すぎるというか、この世の富と権力を全て手に入れたいという思いが伝わりすぎるというか。この後、ナポレオンはアングルに肖像画を書かせることはなかったと言いますが、納得です。

もう一つ、非常に有名なナポレオンの戴冠式の絵です。

こちら、一説によると、当初ダヴィッドはナポレオンが自分で冠を被る構図にしていたけれど、皇妃ジョゼフィーヌの助言でナポレオンが彼女に冠を授ける構図に変更したそうです。3秒間目を閉じて、ナポレオンが自分で冠を被ったバージョンを想像してみてください。

Wikipediaより引用

どう思いましたか。
私は「うわっ。。。。(どん引き)」と思いました。(本日2回目。)
何というかやり過ぎ。傲慢さが先に立ってもたれる。
ダメ出ししたジョゼフィーヌ、ナイスプレー。

## 成功例② エリザベス一世 ##

イギリスを日の沈まない大英帝国にした立役者、エリザベス一世。

彼女の戦略はズバリ、アトリビュートとして「真珠」を用いる、です。

Wikipedia(英語版)より引用

ジャラジャラつけてますね。
実際は、こんなに大量には持っていなかったと言われています。あくまで絵画上の表現です。

さて、大量の真珠でアピールしたかったことは大きく二つ。

一つ目は、豊かさです。
今でこそ真珠は養殖できるようになったことで庶民の手にも入るようになっていますが、近代以前は天然真珠しかなかったので、富の象徴でした。

もう一つは処女性です。
え?アイドル?何アピール?と、唐突な感じも受けますが、同世代の二人の女性君主と並べると、アピールの意図が見えてきます。

一人は彼女の異母姉である先代のメアリー一世。強権的なカトリック信者で、プロテスタントを虐殺し「ブラッディメアリー」とも呼ばれました。彼女の夫は悪のカリスマでお馴染みスペイン王フェリペ二世。まあ実際は一緒に暮らしていた期間はほとんどないのですが。彼に傾倒したメアリーは、イギリスには何のメリットもないスペイン・フランス間の王位継承戦争に肩入れし国庫を空にします。宮廷人や多少事情を知っている庶民は思ったに違いありません。「男に流される女王とかないわぁ」と。

もう一人は親戚にあたるお隣スコットランドの同じくメアリー女王です。エリザベス女王のライバルでお馴染み。エリザベス女王からしてみると、ポジションが被り何かと比べられるというだけではなく、イングランドの王位を主張してくる厄介な相手。彼女は血筋が良く美人で教養もあり、当初スコットランドでの人気も高かったですが、ヒモ系ダメ男ダーンリン卿とハラスメント系ダメ男ボスウェル伯に翻弄された挙句破滅します。スコットランドやイングランドの人々はまた思ったことでしょう。「男に流される女王とかないわぁ」と。

そう考えると、「私は処女!私は何者にも汚されない!イングランドは何者にも侵させない!」と、真珠という小道具を用いて声高に打ち出したエリザベス一世の戦略はなかなか冴えているのではないでしょうか。

なお、彼女の実際の男関係は結構激しかったようです。愛人ローリー卿とかキャラ濃いしね。

この話の元ネタはこちら。

## 余談:マリー・アントワネット ##

ここまで仕事のできた人達を見ていると、「じゃあ、ダメなパターンは?」と思う方もいるかと思います。

私が思う、イメージ戦略に失敗した人、それはマリー・アントワネットです。

まあ、彼女の場合はイメージ戦略云々というより、母マリア・テレジアの采配ミスとか、こんな時のスケープゴートに打ってつけな寵妃がいないとか、フランスに来た時点で積んでたという説もありますが、もう少し上手く立ち回っていれば断頭台は回避できていたと個人的には思います。

彼女のイメージはどんな感じでしょうか?イケイケのパリピ?
それも間違っていませんが、パーティ三昧だったのは子供が生まれるまでの数年間。以降はプチトリアノンに引きこもって、丁寧なくらしの自然派ママとなっていました。そんな中で書かれた絵がこちら。

うん、絵は悪くないと思うんだ。良いママ良い家族って感じで。
だけど、今まで遊び回ってた印象が強すぎて、いきなり良いママアピールされても「え?」という感じで白けるというか。若い頃から違いのわかる知性派アピールしてたらもうちょっと受け取り方も違うと思うんだけどねぇ。
パリピ路線からママタレ路線への転向は難しいんだなって、しみじみ思います。

この話の元ネタは中野京子さんの本(どれか失念したのでそれっぽいの貼っときます)


## おわりに ##

いかがでしたでしょうか?
絵画や彫刻を見るときにこういう見方もあるんだな、と少しでも楽しんでいただければ幸いです。

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