ハルヒSS『ホットケーキのconte』


ハルヒ「あああああーざぶぶぶふ゛い゛いいいいさっぶいさっぶいー!」

キョン「風強いなあ」

ハルヒ「さ゛む゛い゛」

キョン「言うな……言葉にすると余計寒い」

ハルヒ「耳が寒くて冷たくて痛いいいー」

キョン「とりあえず早いとこ坂下りようぜ、コンビニかどっかに避難を……何やってる?」

ハルヒ「キョンを壁にしてる」

キョン「するな」

ハルヒ「がんばれ、ぬり壁」

キョン「おのれ、鬼太郎」

■□■

ハルヒ「あっコラ! 風除けが動くなっ」

キョン「誰が風除けだ」

ハルヒ「あれっ? 壁の方が良かった?」

キョン「良くねーから。いつ俺がお前の壁になりたいと言ったか」

ハルヒ「『俺はハルヒ姫の壁となる』。その日、騎士キョンは誓ったのであった───、完!」

キョン「完結させるな。だいたいそこは『盾』だろ、願望が漏れてるぞ」

ハルヒ「おっとしまった」

□■□

キョン「つめてっ!」

ハルヒ「うそでしょっ、雪とか」

キョン「いや、みぞれかな」

ハルヒ「あー、もう! 雨降るかもって、早めに下校したのに」

キョン「間に合わなかったな」

ハルヒ「傘持ってないわよ」

キョン「急ごう、濡れたら間違いなく風邪ひくぞ」

ハルヒ「ああーキョン、速いってばー、待って待ってー」

キョン「はよ来い」

■□■

キョン「そこのコンビニに避難するか」

ハルヒ「あ、そこのコンビニ、イートインが無いのよ。アッチのマックにしましょう」

キョン「よし急げ」

ハルヒ「だから待ってってば!」

キョン「追い抜きながら言う台詞かね」

■□■

ハルヒ「──────あ、あれ?」

キョン「満席だな」

ハルヒ「行列できてるし」

キョン「考える事はみんな一緒だな」

ハルヒ「店の中もみんな立ってるし」

キョン「学生ばっかだ」

ハルヒ「考える事はみんな一緒ね」

キョン「それはさっき俺が言ったから」

ハルヒ「あ、誰か手ー降ってる」

キョン「マジか、相席いけるかも……って谷口と国木田かよ」

ハルヒ「しかも2人がけの席だし」

キョン「完全に見せびらかしじゃねえか、あいつら」

ハルヒ「谷口が顔の前でピラピラさせてるアレ何」

キョン「ポテトだ」

ハルヒ「あ、食べた」

キョン「野郎……明日、油で揚げてやる」

ハルヒ「明日は学校休みですが?」

キョン「野郎の家ごと揚げてやる」

ハルヒ「決意の程しかと受け止めたわ」

□■□

キョン「仕方ない、別の店探すか」

ハルヒ「ひゃんっ!」

キョン「どうした?」

ハルヒ「濡れた髪から雫が垂れて首筋に入ったわ。死ぬかと思った」

キョン「案外ひ弱い」

ハルヒ「あたし、か弱い乙女だから」

キョン「殺しても死にそうにないのにな。ちょっと待ってろ」

ハルヒ「何やってるの? え、ちょっと」

キョン「次の店に着くまで、俺のコート被ってろ。フードがついてるだけ、まだマシだろ」

ハルヒ「キョンやっさしー」

キョン「まあな。俺の半分は優しさでできている」

ハルヒ「残りの半分は?」

キョン「ちょっとハルヒに言えないものでできている」

ハルヒ「怖」

キョン「よし行くか」

ハルヒ「谷口がすごい顔でこっち睨んでるけど何?」

キョン「知らん、行くぞ」

□■□

ハルヒ「あっ、そこそこ、キョン、そこ曲がって!」

キョン「え、何、そっち?」

ハルヒ「そっちに喫茶店があるわ」

キョン「知らねーな」

ハルヒ「いいから早く」

キョン「この通り、入るの初めてだ」

ハルヒ「ほらそこ、そこ、ここ、ここ、ここ」

キョン「ニワトリかよ」

ハルヒ「クルッポー」

キョン「鳩かよ」

ハルヒ「スイッチョンスイッチョン」

キョン「ウマオイかよ」

ハルヒ「昆虫博士め」

■□■

キョン「ここ?」

ハルヒ「ここっ!」

キョン「なんか古びて高級そうな面構えだ」

ハルヒ「店構えのこと?」

キョン「そうとも言う」

ハルヒ「早く入りましょ」

キョン「今日小銭しか無いんだよな……金、足りるかな」

ハルヒ「奢るから」

キョン「えっ」

ハルヒ「何よ、豆が鳩鉄砲くらったみたいな顔して」

キョン「それは豆もビビる」

ハルヒ「そうね、ホラ行くわよ」

キョン「ういっす、ゴチになりまーす」

からんからん

<いらっしゃいませー

□■□

キョン「───暗いな」

ハルヒ「雰囲気のあるお店ね、隠れ家っぽいわ」

<ご注文は

キョン「えーと、俺はコーヒーを」

ハルヒ「何か甘いもの食べたくない? キョン」

キョン「いやあんまり腹減ってないしな……」

ハルヒ「ホットケーキ二つ、あとあたしはこの特製ハーブティーを」

キョン「おい」

ハルヒ「いいからいいから。以上で」

<かしこまりました

キョン「……ホットケーキぐらいなら腹に入るとは思うが」

ハルヒ「まあまあ、食べてみましょうよ。ここのホットケーキ美味しいらしいのよ」

キョン「らしいって何だ。ハルヒが知ってる店じゃないのか」

ハルヒ「鶴ちゃんに教えて貰ったのよ」

キョン「あーなるへそ」

ハルヒ「なるへそって、きょうび聞かないわね」

■□■

キョン「鶴屋さんのオススメなら期待しよう」

ハルヒ「あたしのオススメだと?」

キョン「覚悟しよう」

ハルヒ「一応食べるんだ、よしよし」

キョン「涼宮団長はいつも前向き」

ハルヒ「上に立つ者は、常にポジティブシンギング!」

キョン「歌ってどうする」

■□■

ハルヒ「あ、コート返すわね、ありがと。お世話になりました」

キョン「いやいやどーもどーも」

ハルヒ「くんくん」

キョン「匂いかぐなよ」

ハルヒ「ファーのところがくっさい」

キョン「どんな匂いなんだ?」



ハルヒ「…………焦げた魚の皮?」

キョン「ええ……」

□■□

ハルヒ「やっぱりカーディガンも湿ってるわね」

キョン「脱げ脱げ。椅子にかけておけばそのうち乾く」

ハルヒ「そうするわ……」

キョン「……」

ハルヒ「ちょっと、目がヤラシイわよ」

キョン「やらしくねぇよ」

ハルヒ「服脱いでるあたし見て、欲情してるキョンかあ」

キョン「確定してるよ」

ハルヒ「まああたしに見惚れるのは、わからなくもないけれども」

キョン「涼宮団長はいつも前向き」

■□■

ハルヒ「どこ見てたのか正直に言いなさい」

キョン「ハイすみません、おっぱい見てました」

ハルヒ「死刑に処す」

キョン「死刑はいやだな」

ハルヒ「おっぱいの刑に処す」

キョン「それはちょっと受けたい」

ハルヒ「どんな刑なのかしら」

キョン「知らんのか」

ハルヒ「多分乳首を切り落としたり、燃やしたりするんだと思うけど……」

キョン「結構怖いやつだった」

■□■

ハルヒ「怖くないおっぱいの刑ってどんなのよ」

キョン「ハルヒが俺のおっぱい揉んでくれたり、チチクビを触ってくれたり」

ハルヒ「何よチチクビって」

キョン「前々から思ってたんだが」

ハルヒ「え、何その深刻そうな顔」

キョン「何故、“乳首”は“乳の首”と書いて“チクビ”と読むのか。消えた“チ”は何処に行ったのか、という疑問」

ハルヒ「キョンはやっぱりアホの子だったのね」

キョン「だってこういう略し方珍しくね? 乳をチって読むの、他あるか? 何で乳首だけが」

ハルヒ「乳房(ちぶさ)、乳兄弟(ちきょうだい)、垂乳根(たらちね)」

キョン「あれ?」

ハルヒ「キョンはやっぱりアホの子なのね」

□■□

<おまたせしました

ハルヒ「あ、ど、どーも」

<ご注文は以上でお揃いでしょうか

ハルヒ「はい!」

<ごゆっくりどうぞ

ハルヒ「ありがとうございます」

キョン「……」

ハルヒ「……なによ」

キョン「何動揺してるんだ?」

ハルヒ「いやー、さっきのおっぱいと乳首の馬鹿話を聞かれたかと思うと、なんかドギマギしちゃったわ」

キョン「恥ずかしがってるのか」

ハルヒ「当たり前でしょうが。キョンのアホ話に付き合ってしまったあたしが悪いんだけども」

キョン「いっつもお前の馬鹿話に付き合ってるSOS団はいったい」

ハルヒ「さっさと食べなさい」

キョン「はい、いただきます」

ハルヒ「いただきます」

■□■

キョン「──────うま」

ハルヒ「マントヒヒ」

キョン「ヒグマ」

ハルヒ「マンドリル」

キョン「パス、いや動物しりとりはもういいとして……」

ハルヒ「すごい美味しいわね」

キョン「こんなフワッフワッしたホットケーキ初めて食べたぜ……」

ハルヒ「この香ばしさというか、馥郁とした香りというか、口の中がお花畑というか」

キョン「すげえ美味いな」

ハルヒ「それはもう私が言ったから」

キョン「俺が作るやつとは全然ちがうな」

ハルヒ「は?」

キョン「何だよ」

ハルヒ「キョン、あんたホットケーキなんか作るぬ?」

キョン「ぬ?」

ハルヒ「ごめん、動揺のあまり噛んだわ」

キョン「作るぬよ」

ハルヒ「作るぬのね……」

□■□

キョン「休日で、おふくろがいない時とかさ。妹に昼メシを食わせるのは俺だから」

ハルヒ「なるほど」

キョン「普段はラーメンとか、うどんを茹でたりするだけだけど、たまにリクエストが来るんだよ」

ハルヒ「なるほど」

キョン「いいお兄ちゃんしてるだろ」

ハルヒ「呼べば、私がお昼ご飯ぐらい作るのに」

キョン「マジか? 何作ってくれるんだ?」

ハルヒ「豚の頭と豚骨から出汁をとって、本格博多ラーメン替え玉付きを」

キョン「やっぱりいいです」

■□■

ハルヒ「まあそれはともかく」

キョン「美味いよなあ」

ハルヒ「うん」

キョン「さすが鶴屋さんオススメだよ。どうやって作ってるんだろうな」

ハルヒ「うーん……」

キョン「お、わかるのか? 流石だな」

ハルヒ「いや、わかんない」

キョン「残念」

ハルヒ「そうね……ホットケーキの隠し味、裏ワザといえば、みりん、絹ごし豆腐、ヨーグルト、マヨネーズあたりが定ば」

キッチン<(ガチャン!)

キョン「……」

ハルヒ「……」

キョン(ビンゴ?)

ハルヒ(ビンゴかも)

キョン(黙って食べよう)

ハルヒ(そうね)

□■□

キョン「晴れたかな」

ハルヒ「止んだみたいね」

キョン「そろそろ行くか。カーディガンはどうだ」

ハルヒ「んー、どうかな……よしよし乾いてる乾いてる」

キョン「エアコンの風がちょうど当たる位置だったな」

ハルヒ「じゃ行きましょうか」

キョン「おう」

ハルヒ「はい伝票」

キョン「おう、いや待て」

ハルヒ「おっとしまった、いつもの団活の癖が」

キョン「いい加減、あの団活の俺払いもなんとかしたいな」

               、、、、
ハルヒ「あれ以外はだいたいワリカンじゃん」

キョン「……まーな」

■□■

ハルヒ「あ、陽が照ってる」

キョン「風はまだ冷たいけど、だいぶ和らいだなあ」

ハルヒ「あー美味しかった!」

キョン「コーヒーも美味かったぞ」

ハルヒ「でしょうね、コーヒーのイイ香り、こっちまで流れてきたもん」

キョン「ハルヒの飲んでたあの変な色のお茶はどうだった」

ハルヒ「ハーブティーよ。悪くなかったけど、ホットケーキに合うのはコーヒーの方だったかも」

キョン「なるほど」

ハルヒ「ほら、行くわよ」

キョン「何キョロキョロしてんだ?」

ハルヒ「ん、何でもない」

□■□

キョン「……」

ハルヒ「ハァー」

キョン「……」

ハルヒ「……ハー」

キョン「寒いのか?」

ハルヒ「ん?」

キョン「いや、さっきから手に息吹きかけてるからさ」

ハルヒ「まーねー」

キョン「……よっ」

ズボッ

ハルヒ「ん」

キョン「これで良かったか?」

ハルヒ「キョンも察しが良くなってきたわね」

キョン「手を繋ぎたいなら、そう言って欲しいし、俺のポケットに手を突っ込みたいならそう言って欲しいんだが?」

□■□

ハルヒ「うーん」

キョン「手の甲つねったり、叩いたり。アレ最初の頃、マジわからなかったからな」

ハルヒ「そこはわかりなさいよー」

キョン「途中ですごい不機嫌になるの本当つらかった……」

ハルヒ「そこはゴメンなさい」

キョン「あーいや、そう謝られると……こっちもすまん」

ハルヒ「でもねー、そこを察して、黙ってやってくれないかなー、ってところに妙味があるのよ」

キョン「妙味が」

ハルヒ「そっ」

キョン「………………つまりこういうことか?」

ハルヒ「ん?」

■□■






チュッ






ハルヒ「 」

□■□

ハルヒ「このバッカ!バカバカ!」

キョン「いだだだだだだ! 指が指が! ポケットの中で指の関節キメるのやめて!」

ハルヒ「いきなり何すんのよ!!」

キョン「あー痛かった。いやまあそういうことかな、と」

ハルヒ「何が!」

キョン「さっきキョロキョロしてたの、周りに人がいないの確かめてたんだろ?」

ハルヒ「…………」

キョン「ほら」

ハルヒ「だって……」

キョン「今日は学校じゃできなかったし、駅まで行ったらもう人がいっぱいだし」

ハルヒ「……」

キョン「ここら辺りが最後のチャンスだったろ?」

ハルヒ「……そ、だけどさ」

■□■

キョン「なら、いいじゃねえか」

ハルヒ「むぅ」

キョン「一日一回はキスしようって言い出したのは」

ハルヒ「あーたーしーでーすー」

キョン「俺もオッケーしたし」

ハルヒ「でも唇を無理矢理奪われるのは」

キョン「ダメか。すまん」




ハルヒ「いや、有り」

キョン「有りなのかよ」

□■□

キョン「なるべくこれからは雰囲気作ってからにすっから」

ハルヒ「はい」

キョン「勘弁してくれ」

ハルヒ「ふーん」

キョン「ハルヒ」

ハルヒ「…………ま、たまには強引なのもあたしオッケーだから。たまには、ね」

キョン「わかった、たまには、だな」





ハルヒ「3回に1回ぐらいは」

キョン「多くね?」

■□■

ハルヒ「あー、一息ついた」

キョン「なんだ、手はもういいのか?」

ハルヒ「そろそろ人通りが多い道だし」

キョン「はあ」

ハルヒ「北高の生徒に見られたらアレだし」

キョン「アレ、か」

ハルヒ「アレ」

■□■

キョン「なあハルヒよ」

ハルヒ「またその話?」

キョン「そういう察しがいいところ好きだぜ」

ハルヒ「やだ……キョン……こんなところで」///

キョン「おい」

ハルヒ「はいはい、オープンにするって話でしょ」

キョン「おう」

ハルヒ「いや他の人ならいいんだけど」

キョン「ど?」

ハルヒ「まだ」

キョン「長門と朝比奈さんと古泉には知られたくないと」

ハルヒ「うん」

キョン「何でだよ」

ハルヒ「何でって聞かれると……」

■□■

ハルヒ「……」

キョン「……」

ハルヒ「……」

キョン「……いやすまん」

ハルヒ「え?」

キョン「なんとなく気持ちはわかるんだよ。その、ハルヒと完全に一緒の気持ちかどうかはわからんが」

ハルヒ「……そっか」

キョン「SOS団が心配なんだろ、団長」

ハルヒ「…………」

キョン「…………」

□■□

キョン「なあハルヒ」

ハルヒ「何?」

キョン「そんなに心配しなくても大丈夫だと思うんだ」

ハルヒ「ん?」

キョン「団長と雑用が付き合ったからって、壊れちまうようなヤワな団じゃねえよ、SOS団は」

ハルヒ「む」

キョン「信じろよ、ハルヒが作ったSOS団を」

ハルヒ「ぬくぅ」

キョン「何だそれ」

ハルヒ「キョンのくせに」

キョン「でたよ」

■□■

キョン「とまあ、カッコよくキメた俺だが」

ハルヒ「キマったのかしら?」

キョン「そもそも」

ハルヒ「そもそも?」

キョン「……あいつら、気付いてるぞ」

ハルヒ「うっそ」

キョン「いやマジで」

ハルヒ「いやいや大丈夫でしょ」

キョン「むしろ何故気付いてないと思えるんだ……」

□■□

ハルヒ「ふむ」

キョン「だからさ」

ハルヒ「3人に報告する?」

キョン「ああ」

ハルヒ「もう少し待って」

キョン「おいおい」

ハルヒ「もうちょっと、もうちょっとだけ」

キョン「…………ん?」

ハルヒ「ん?」

キョン「お前…………」

ハルヒ「察しがいいキョンは好きよ」

キョン「てめ、単にいつバレるかのドキドキを楽しみたいだけだな」

ハルヒ「ぬふふふふ」

■□■

キョン「はあ」

ハルヒ「ため息つかない」

キョン「いやまあ、いいけど」

ハルヒ「じゃ、もう少しシークレットは引っ張るということで」

キョン「へいへい」

ハルヒ「あ」

キョン「どうした?」

ハルヒ「また降ってきた」

キョン「…………あ」





ハルヒ「走るわよ!」

キョン「あー、もう」

■□■

ピョコッ
「……」
「……」
「……」

みくる「そろそろですか?」

古泉「もう行きました?」

長門「行った」

古泉「では我々も」

みくる「出発しましょうか」

古泉「ええ」

長み古「「「いざホットケーキ!」」」



おしまい


自作SS集です。楽しんでいただけたら幸いです。