ズムスタを舞台に

カープファンのみならず、広島市民県民に〝ズムスタ〟として親しまれているマツダスタジアム。
なにを隠そう公式の名称は「マツダ・ズーム・ズーム・スタジアム広島」というのですが、いかんせん長すぎますね。
これをフルで口にしようという蛮勇をお持ちの方はまずほとんどいらっしゃいません。私の知る限りでは、地元某放送局のアナウンサーが中継の折に律儀に語っているのが唯一の使用例といったところでしょうか。

このアナウンスを聞かされるたびに、ハラハラしてしまいます。
「名前をいい終わらない前に、ゲームが終わってしまうんではないか」
そんな心配で、いつも気がきではありません。
それに引き換え、この長ったらしいネーミングを〝ズムスタ〟という愛称で呼び習わすようになったファンのセンスの良さには感心するばかりです。

ところで、この「マツダ・ズーム・ズーム・スタジアム広島」も正式名称でないことはご存知のとおり。
そうです、マツダが大枚をはたいてネーミングライツとやらをお買いになられて、キャッチフレーズとセットで自社の名前を冠していらっしゃるのですね。
本来の名前は「新広島市民球場」。広島市が建設し所有している市営の球場(市民の球場)で、広島東洋カープにお貸ししている、つまり広島市が〝大家さん〟でカープは〝店子さん〟というわけです。

この店子さん(チームではありません)、消費税が10%に上がったさい、グッズの納入業者に消費税のアップ分を請求しないようにと暗に強要し「消費税転嫁対策特別措置法」に抵触したとかで、公正取引委員会から勧告をいただいたのは記憶に新しいところです。(拙著『ズムスタ本日も満員御礼!」参照)
久しぶりの優勝に、というよりグッズが売れ過ぎてつい有頂天になってのことだったのでしょうか。

そしてこのたび、なんとズムスタの命名権を保有されているマツダが、下請けの資材メーカー3社から毎年計5000万円を超える手数料を不当に徴収していたとして下請法違反に問われ、やはり公取から勧告を受けたことが露呈しました。しかも勧告は2008年以来2度目とのこと、同様のことは40年にもわたってつづいていたというのですから、あまり褒められた事態ではないようです。

ズムスタのネーミングライツご購入の動機というのは、もちろん「企業イメージアップのため」ということなのでしょうが、そのズムスタの外でせっせとイメージダウンになるようなことをされたのでは、大家(広島市民)としては名前の売り甲斐もなかろうというものです。
命名権は年額3億円(今は少し下がったらしい)といいますから、その半分以上が下請けをいじめてくすめたカネでまかなわれていたとおもえば、なおさらのことです。

ズムスタを借りているカープ球団。そしてそのズムスタの命名権を行使しているマツダのあいつぐ不祥事。そこに地元での多大な貢献とは裏腹の、ある種の傲慢さを看て取ったのは私だけではないでしょう。

ちなみに新広島市民球場と同様、公設球場をプロ野球・楽天ゴールデンイーグルスに貸している宮城県営球場は、改修後にやはりネーミングライツを売りに出して人材派遣会社のフルキャストに売り、「フルキャストスタジアム宮城」を名乗るようになりました。
ところがそのフルキャストが 2007年8月3日に「警備員や建設・港湾荷役など労働者派遣法で定められている禁止業務に労働者を派遣する違法行為を繰り返し行った」として業務停止処分を受けています。

当時の宮城県知事は「重大で許し難い行為。県民は快く思わないのではないか」と不快感を表明、契約解除条項の「社会的信用が失墜したと認められる場合」に当たるとして契約の更新を見送っています。

果たして今回のズムスタのケースはどうなるのか。関係者のみならず、広島市民、およびカープファンは経緯を注視する必要がありそうです。

それにしても、いよいよ公式戦開幕間近という時期になって、ファンの熱気に冷や水を浴びせるような不祥事ではあります。



 

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