お別れの会記事

顔が見えない「お別れの会」

衣笠祥雄さんが亡くなってからの四十九日間、追善のつもりで衣笠さんの追悼コラムを書きつづけてきた。
その最終日、49回目となった11日の夕刻、FM放送のニュースで、カープ球団が「衣笠さんのお別れの会」を開催することになったと伝えた。

「もしかして喪明けを待っての発表か?」とも思ったが、衣笠さんへの敬意に欠けているらしいあの球団がそんな配慮をするはずもなく、事態をはかりかねていたのだが、翌日の新聞発表を読んでようやく事態が腑に落ちた。

その記事によれば、発起人は松田元オーナー、TBSテレビの武田信二社長の二人となっている。
つまり、お別れ会の開催はカープ球団から持ち上がったものではないということだ。

カープ球団が主催するのであればオーナーが発起人となり、複数が並ぶことはない。その名前だけで十分だからだ。

ちなみに星野仙一氏が亡くなった際、阪神球団はすぐに公式サイトに訃報を掲載し、その12日後には「お別れの会」の開催をオーナーを発起人として発表していた。

衣笠さんが亡くなってから、いつまで経ってもカープ球団からは「お別れの会」を開くという情報は聞こえてこなかった。
つまり球団サイドにはその気持ちが、元々なかったということだろう。

しかし、さすがに衣笠さんほどの選手の「お別れ会」をしないわけにはいかない。それは球界の常識だ。

業をにやして衣笠さんと専属契約をしていたTBSが腰を上げた。というより、たぶん震源地はRCCだろう。衣笠さんと親交のあったアナウンサーとか、スタッフたちが止むに止まれずに腰を上げた、ということのようだ。

しかし、地元の放送局が勝手に動いたとなると球団からのプレッシャーにさらされる。
「余計なことしてくれたよの。また出入り禁止でぇ」と。
そこで親会社であるTBSに冠をお願いした、まあそんな図式だろう。

しかし、ここから衣笠さんが敬遠した「ややこしい人間関係」が現出する。

RCCだろうがTBSだろうが、思いがあるんだからやっちまえばいいのだが、「カープ球団を差し置いて勝手に動くのはどうなのか」という麗しいオトナのロジックが発動するのだ。
とくに広島は、その傾向が強い土地柄だ。

そこで会を企画した関係者がカープ球団を説得することになる。(ここからは憶測)

「球団が衣笠さんほどの選手のお別れの会をしない、というのは世間体としてどうなんでしょうか。ここはオーナーに発起人に名前を連ねていただいてですね…。
いえいえ、オーナーが衣笠さんを毛嫌いしておられるのは存じておりますし、名前をお貸しいただくだけで結構です。すべてはこちらでご用意させていただきますから。
そうそうズムスタを使うのはお嫌でしょうから、ホテルの方、手配いたしましたし…」

そう説得されて、球団はしぶしぶ了承。
しかし世間に公表するにあたっては「カープ球団がお別れの会を催すことになりました」となる、まさに麗しい「オトナの世界」だ。
球団はただ乗りしただけ、というのが真相なのだろうが…。

とはいえ、せっかくどなたかのご好意で催してもらえるお別れの会だ。
衣笠さんの御霊に花の一本もお供えできればとは思っている。


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