「安倍さんから」の金で汚されたものたち

前法務大臣の河井克行・案里の現職国会議員夫婦がそろって逮捕されるという憲政史上例のない椿事が世間を騒がせている。

すでにネットでは「バカップル」の称号までいただいているようだが、克行容疑者の選挙区の有権者のひとりとして忸怩たるおもいをしている。

もちろん彼らに投票するほどモウロクはしていないが、いまの選挙制度では「選んだ」有権者のひとりということになってしまう。

政治の世界では価値観がまったくちがうおふたりとはいえ、いささか身近に生息してきたので、ありがたくもない縁が多少なりともある。

河井克行容疑者は高校時代落ちこぼれだったと自称していたらしいが、彼は息子の高校の先輩にあたる。

曲がりなりにも慶應義塾大を出て落ちこぼれもないが、たしかに彼が在籍した高校は東大京大がひとつの目安で、早慶もその他の大学という認識があるのは否めない。かといって、東大京大がすべてと他校を否定するような校風ではない。

彼の場合、歯止めなきアッパー志向が、落ちこぼれ意識をコンプレックスに変えてしまったらしく、それを払拭するために松下政経塾などという得体の知れない魔窟に身を投じたのだろう。

県議からそろそろ国政に転身しようとしていたころだったのか、当時、コピーライターの事務所を手伝ってくれていた女性が顔を紅潮させてオフィス(といっても木造アパート六畳を改装したボロ)に駆け込んできたことがあった。

どんなパーティだったかのかは覚えてはいないが、そこで彼のスピーチを聴いて感動したのだという。
「すごい説得力だった」としきりに力説していたが、彼女が状況を説明する前後の脈絡から、そして松下政経塾出身と知ってすぐに胡散臭さを思ったものだ。
せっかく慶應の義塾を出たキャリアを松下の政経塾で汚すこともなかろうに、とまではいわなかったが、このテの人間には騙されるなよ、とご忠告だけはしておいた。

後年、息子が同窓となった縁で、身近な噂を聞くことにもなった。
地区の父兄の集まりに、河井容疑者が突然OBだからと許可もなく顔を出して自己PRをはじめたこともあった。
参加者から席をわきまえるよう窘められて宣伝ツールはさすがに引っ込めたらしいが、まだグダグダ喋っているのでお引き取り願ったのだという。
さすが松下の政経塾を出ているだけあって、志はさておき選挙対策には抜かりがないなと苦笑するばかりだった。

縁といえば、河井容疑者から現金を渡された側にも少なからずある。
きょう新聞紙上で実名で金銭の授受を認めた31名が公表されたが、その内のI市議は、かつて広島市のサッカースタジアム建設問題で応援もし、将来の広島を託せる人物のひとりとして期待もしていた人物だった。
今回の問題が発覚し、様々な噂が飛び交うようになってから、もしやと危惧はしていたのだが、それが現実のものになってしまった。

彼は「抗うことができなかった」と後悔していたというが、もともとは畑違いの出自。何期かつとめて辛酸も経験してはきたのだろうが、その是非はさておき、そうせざるを得なかった政治の闇の引力に、はじめて戦慄を覚えたことだろう。

31人の中に安芸高田市の児玉浩市長もいた。他の首長が授受を認めて辞任したのに対して、計60万円を受領しながら続投を表明したとして世間の顰蹙を買っているお方だ。

彼に直接の利害も縁もないが、その父君には大変お世話になった。
たびたび話題に出している野球場「ドリームフイールド」。あれをつくったのが安芸高田市の高宮町で、父君は当時その町の町長だった。

知人の口利きでその場所を紹介されて遊びはじめたのだが、段々畑を造成して扇型のグラウンドに整地するまでは、町がすべてのことを請け負ってくれたのだ。
完成してからは記念のセレモニーに快く参加もしてくれたし、たびたびのお願いにも、ふたつ返事で応じてくれたものだった。

市町村の合併で高宮町が新生安芸高田市に編入されたとき、初代市長になったのが父君だった。
たしか全国市町村会か何かの会長もされていて、人格者とはこういう人物だろうと思わせるような方だった。

その人徳が遺産となっての現市長なのだろうが、その遺徳が「安倍さんから」の汚い金で汚されてしまったことが残念でならない。

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