最終日・帰りは「タラバ抱えて車旅」に
夜明け前には道の駅河野を出発。
車内泊のままの寝床、おひとり酒宴のコップや皿も転がったままだ。
夜が明けて片付けができる時間まで、まんじりと車内で過ごすのは、はっきりいって時間の無駄。そもそも手元暗い車内では何もできないのだ。
およそ1時間走ったところで、朝の作業を予定していた道の駅三方五湖に着いた。
まだ朝靄の中だったが6、7台の車が駐車していて、なかには後部ドアを開け放って荷物整理をしているおじさん、敷地の隅で火を起こしてコーヒーを淹れている夫婦と、それぞれに道の駅の朝を過ごしているのだった。
こちらも負けじと、といって勝ち負け競っているわけではないが(笑)、さっそく車内の整理整頓をする。
マットは丸めてルーフキャリアに、毛布は畳んで後部に押し込んでスペースが確保できると、カセットコンロを設置して朝食の準備だ。
飯は昨日買っておいた豆のおこわご飯がある。あとは汁の代わりに福島ラーメンをと決めたのは、昨日わけもなく買ってしまったレタスを具にして消費するためでもあった
ラーメンができると、それを車外に持ち出して三方五湖とやらを眺めながらのモーニング。朝っぱらからラーメン定食というのには、われながら違和感もあったが。
それにしても寒い。
景色優先で選んだ売店上の展望テラス?だったが、湖上を渡る寒風の吹きっさらし。開放感より惨めさが募って、なんだか意地はって車外食しているような自分に苦笑するしかなかった。
寒さに追い立てられるように道の駅三方五湖を出て走っていると、怪しかった空がにわかに不穏となり、そのうち細かい雨つぶがフロントガラスに落ちはじめた。
ルーフキャリアには、信州で叔父にもらった土産のりんごを入れた段ボール箱が載っている。これを濡らしてはならじと、どこかに車を止める場所を探す。
と、間のいいことにご贔屓にしているコメダ喫茶店が見つかって、さっさくパーク・イン。
店に入る前にりんご箱を下ろして車内に入れねばと、リアのバンパーに足をかけてそろそろとやっていると、つい重さに耐えかねたからだがバランスを崩してスリップダウン。その衝撃でりんご箱もろともすってんころりんと地面に転がってしまった。
「あ〜、みっともな」
さいわい頭を打つこともなく、すり傷も負わなかったが、あれしきのことでドジった自分が情けなく、気落ちしたせいか、どっと疲れが出た。
コメダのコーヒーを気付け薬がわりにと目論んだものの、ゆったり気分は弛緩を通り越して、却って沼に沈むような疲労感に襲われてしまった。
きのうから、とにかく温泉に入りたがった。そして、気休めでも疲れをとりたかった。それが、タイミングに恵まれず、ここまで逃しつづけていた。
しかし、この先にたしかに温泉があることは、一昨日の朝の道の駅で情報仕入れていた。そこはなんでもプールもあるらしく、旅の垢を落とすついでに疲労回復も実現できそうなのだ。
その「道の駅うみんぴあ大飯」に着いたのが10時過ぎ。あたりに温泉施設らしきものはなく、狐につままれた気分。
売店の案内にあった観光リーフレットで探すと、道の駅の湾越しに見える「シーサイドスパおおいの湯」と、もうひとつ少し離れたところに「あみーシャン大飯」というのがあった。
前者はプールが併設されていて、迷わずそちらに決めたが、開館時間までまだ1時間ほどあった。
仕方なくまた道の駅にもどって、ゆずサイダーの一杯で時間を潰し、ようやく念願叶って入湯して見れば、これが地獄に仏の極楽。25メートルのプールに海水ジャクジープール、サウナもミストと遠赤外線、低温の三種あって、ウグイスの谷渡りよろしく、あちこち楽しみ寛いでいるうちに2時間あまりがあっという間に過ぎた。
確実に疲れが癒されている体感があって、まだまだ入っていたかったが、一応は先に目的がある身。ほどほどにして退散した。
駐車場を出ると、すぐ目の前がスーパーで、先の旅用に食材を仕入れて、いざ車のひとに。
ところが、しばらく走るとまた道の駅シーサイド高浜というのがあって、この辺は「道の駅銀座」とでもいいたいほど道の駅が乱立しているのだった。
高浜といえば、たしか原発で有名な土地柄。そういえばさっきの大飯もお仲間で、このあたり一帯は原子力発電所が建ち並ぶ、いわば「原発銀座」。どこもかしこも原発立地の、チッチッ地なのだった。
その補助金が道の駅に還流でもしているのだろうか。そういえば、どこもかしこも建物がそれなりに立派なのだった。
とくに用はなかったものの、いままでゴミを捨てそびれたのを思い出してジムニーをパーク・イン。
助手席下のゴミ入れのボックスを引っ張り出してゴミ捨てコーナーに走り、綺麗さっぱり捨ててから自販機でお茶を仕入れると、さっさと車内に戻ってそこを後にしたのは、やはり原発の影に怯えたからのことだったろう。
温水プールで疲れは取れたはずだったがハンドル握っていると怠さは募り、1時間ほど走ったところでセブンイレブンのホットコーヒーでしばしの休憩をとったのが舞鶴の西。
そこを出ると信号をいくつも数えないうちに「道の駅舞鶴港とれたてセンター」というのがあった。
またジムニーをパーク・インするもの面倒だったが、港の道の駅の物珍しさに、ついつい寄ってしまった。
冷やかしのつもりで店内を見て回っていると、いかにも魚市場めいたブースのあちこちはタラバガニの競演。のぞき見しながら歩いていると、おじさんが声をかけてきたが、その値段の高さに敬遠。
また別のブースを覗いていると、若い女性が声をかけてきて、この時はついつい言葉を交わしてしまった。
それでも購入する気はさらさらなく、後ろ髪引かれながら踵を返したのだったが、待てよ待てよ、待ちなさい、これから家路までの行程は何日もかかるわけではない、このままでは車にまだまだ残っている小銭が使いきれないではないか、高価なのは却ってさいわいで、このタラバに思い切って投資してみようではないか、との考えが一瞬にして頭をよぎったのだった。
「小銭でもいいですか?」
店の看板娘らしいミス・タラバの了承を得るか得ないかの前にジムニーにとって返すと、小銭箱から百円玉45枚を数えて持ち出して、ふたたびミス・タラバの元へ。
冗談か冷やかしだったと思っていたらしいミス・タラバ。唖然としながらこういったのだった。
「ちょっと数えてきていいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
べつに自慢するようなことでもなく、どちらかといえば恥ずかしい所業なのだが、なぜか胸張って応えたのは、長い小銭旅ですでに羞恥心なんぞは消えていたからだろう。
ちなみに、下の写真右奥が「小銭を数える腕」だ。
旦那か兄貴か、ふたり苦笑しながら確かめていて、その間に、こちらは姉か兄嫁か、カウンターに現れて「おひとつ、いかがですか?」と、さらに勧めてきたのには恐れ入った。
なかなかしたたかで好感のもてるミス・タラバ一家なのだった。
このタラバの衝動買いで小銭を大量消費したは良かったが、こんなものを車内に入れたまま何日もウロウロするわけにもいかない。
旅の疲れも限界に近いこともあって、一念発起して今日中に帰ることにした。
となれば、下道をチンタラ走って行くわけにもいかず、最後の最後に禁を破っての高速道にライド・オン!
90キロ超過するとハンドルがブルブル震えるジムニーなだめながら、8時間ほどの苦役ドライブの果てに帰宅したのでありました。
END
この日の小銭買い
お茶 140円
モーニング 450円
ゆずサイダー 300円
白ご飯・柿 373円
入浴代 800円
食 材 893円
コーヒー等 212円
タラバガニ 4500円
チョコレート 248円
ホットドッグ 138円
計 8054円
ちなみに「小銭抱えて車旅」で使った小銭は総計39,753円でした。
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