シロ18

頭を垂れて

もう、そろそろだな。
そう思ったのはひと月ほど前だったろうか。

飼い犬のシロの寿命が尽きようとしている、そう覚ったのだ。
その判断が当たっているかどうかはわからない。
しかし遠からず別れの時が来ることに違いはないだろう。
もうシロも13才になっているのだから。

もう何年も前から「乳がん」はわかっていた。
腹部にはいつからかシコリができていて、乳首の周りにいまは4つほど存在している。
これはたぶんいくつか混じっている犬種の血統(たぶんレトリバー)によるものだろう、大きなコブも2つある。

いまでは散歩ものろのろ歩きで、ウンチをしたらもう帰ろうとする。座り込んで進もうとしないのだ。
仕方なくUターンすると、さっさと踵を返してしまうのだ。

飼いはじめの頃は、飼い主を差し置いてぐんぐんリードを引っ張って歩くものだから、その癖をあらためようといろいろやってみた。
先に行ったら向きを変えて歩いてみたり、思いっきり叱ったりしたこともあった。
それでも一向に直らないので、もうそのままにした。

だからシロとの散歩は、「散歩させられている」といった体で、オスのようにたくましいシロにグイグイ引っ張られるスタイル。とにかく体力がいるのだ。
しかもネコでも見つけようものなら、いきなりダッシュして追いかけようとするので、リードに腕を取られて軽度のムチ打ちがいつまでも治らなかった。

それがいつからか並走というか並歩するようになり、今では飼い主の後を頭を垂れながら歩くのだ。

正直、この老衰ぶりは寂しい。
日中も日がな一日玄関の敷物の上にぐったりと伏せているばかりで、生気がない。
以前は飼い主を見れば尻尾を振って飛びついてきたものだが、今は目で追うばかりなのだ。

だから体調としては決していいわけではないはずだが、それでも痩せたりはしていない。
メシより好きな朝夕の飯の時間になると、自らせっついて要求するし、その見事な食べっぷりも以前と変わることはない。

そんな、ひとときの元気な姿を見るのが、今は救いといえば救いだ。




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