ヒロシマを歪めた「ヒロシマ」

ヒロシマ

ジョン・ハーシー著「ヒロシマ」読了。

噂には知っていたものの、聞きしにまさる問題山積の書だった。
疑問箇所に付箋を貼っていくと、ページ閉じたときには、紙細工の連山が十重二十重とあいなった。
この原稿で誌面を埋めた翌年のニューヨーカーが、発売日に30万部を完売。新聞各社がこれにつづいて連日掲載し、放送局もこれにならって世論への絨毯爆撃。その戦火はヨーロッパにも及んで、「ヒロシマ」によって瞬く間に原子爆弾とその被害は歪な情報として英語圏を席巻してしまった。

GHQによる検閲下でヒロシマをあらわした物語は、当時これ一編。否応もなくこれがヒロシマを識る原典となって引用孫引き、これがカタリや創作の、あるいは原爆の是非を問う論調に、知らず知らずのうちに放射能の如く影響し続けたかと思うと、悪寒に身震いも起ころうというもの。

原爆投下前後の情報がようやく開示されはじめた現在、さすがに「ヒロシマ」の危うさは知られるようにはなったとはいえ、一度染色体を傷つけられた魂の修復は容易なことではないだろう。


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