バーチャルパワープラントのメリット
バーチャルパワープラント(VPP(Virtual Power Plant))という言葉をご存知でしょうか。日本で表現すると「仮想発電所」ということになります。欧米で先行し整備が進んでいるエネルギー関連の制度で、日本においても経済産業省の主導のもと、制度が整えられつつあります。
本記事では、バーチャルパワープラントについて、定義とメリットをまとめていこうと思います。
定義:VPPとは?
社会には、自家発電機や蓄電池システムなど、分散型の小規模電源が無数にあります。近年では、IOT技術の発達によって、こうした電源を、遠隔で制御できるようになりました。
VPPとは、社会に存在する分散電源をIOT技術を駆使して、まとめて制御し(これを「アグリゲートする」といいます)、電力の需給調整に活用する仕組みのことを指します。分散型電源の一つ一つは小規模ですが、多数の電源をアグリゲートすることで、規模はいくらでも大きくすることができます。
出典:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/about.html
そこに、発電所が実際にあるわけではありませんが、あたかも発電所があるかのように、まとまった電力を供給できることから、「バーチャル(仮想の)」な「パワープラント(発電所)」という名前がついています。
VPPにおいて重要なのは、発電する機器のみが対象ではなく、大規模工場のような大電力の需要家や高層ビルの照明、空調など、電力を使用する側も電源となりうることです。
これはどういうことかというと、社会の電力需給バランスが崩れ、発電所の供給電力が足りない場合、VPPのアグリゲーター(分散電源をアグリゲートする事業者)は、上記の工場や高層ビルなどに、設備の稼働率を落とし、使用電力を下げるように指令を出します。このことによって、使用電力量が下がり、電力の需給バランスは回復します。
これは、調整のために追加的な発電をしたわけではありませんが、電力の需給バランスが保たれるという意味では、発電をしたのと同等の効果があります。こうした需要側の制御による電力の需給バランス維持をディマンドレスポンス(DR)といいます。
VPPではこうしたDRによるものも分散電源の一つと見なします。
VPPのメリット
VPPのメリットは、主に二つあります。一つは、不要な調整用火力発電所の廃炉を可能にすること、もう一つは、電力系統の再エネ受け入れ可能量を増やすことです。
不要な調整用火力発電所の廃炉
世の中の電力供給の大部分は、発電事業者のもつ発電所によって賄われています。主な電源には、LNGなどの火力発電や、長年電力供給を担っている再エネである水力発電などがあります。東日本大震災以降、原子力発電はほぼ稼働停止状態です。近年では、これらに加え、太陽光発電や風力発電などの再エネ電力が加わりました。
ところで、こうした発電設備は、常に発電能力をフル稼働して電力供給をしているわけではありません。電力需給において、常に供給と需要が正確にバランスする必要があります。このバランスが崩れると、電力システム全体が破綻し、大停電(ブラックアウト)を引き起こします。
2018年に北海道でおきたブラックアウトは、記憶に新しいでしょう。地震をきっかけに発電設備が停止したことで、電力の需給バランスが破綻し、ブラックアウトが発生しました。
このように、安定した電力供給のためには、電力の需要と供給は常に一致する必要があるので、発電側は、電力需要の増減にあわせて出力を調整する必要があります。しかし、刻一刻と変化する電力需要に対し、こうした主力の発電所の出力調整ですべてバランスさせるわけではありません。
従来は、電力需給バランスの最終的な調整は、調整用のみに使用する石油火力発電所というものがありました。このような石油火力発電所は、建設から40年以上経ち、現役稼働を引退した発電所です。調整用にのみ使用するため、年間数時間しか稼働しません。これらの発電所の耐用年数が切れるのは秒読みです。
発電所の建設コストは、千数百億円といわれています。年数時間しか動かないとはいえ、火力発電で電力需給の調整を行うのであれば、このコストをかけて、設備更新をしなければなりません。
そこで、新たに役割を果たすのが、VPPです。世の中の分散電源を活用し、石油火力に頼らない電力の需給調整を可能にするのです。
再エネ受け入れ量の増加
近年、固定価格買取(FIT)制度の後押しを受け、太陽光発電が急速に普及しました。そのせいで、九州地方などでは、夏場に太陽光発電が、需要を上回る発電をしてしまう事態がしばしば起きています。
こういう事態になると、電力の送配電事業者は再エネの受け入れを止めることで電力需給のバランスを保ちます。いわゆる出力制限と呼ばれる措置です。日本は、欧州に比べ、再エネ比率が低いのが現状ですが、このような状況では、再エネ比率を上げるのは厳しいといえるでしょう。
こうした問題にもVPPは役割を果たします。VPPの電源にはDRというものがあることは、先に述べました。DRは、電力使用量の制御で、電力が足りない時に、電力使用量を抑えるというものでした。
しかし、その逆の対応も可能です。つまり、電力が余る時に電力使用量をあげる対応(上げDRともいいます)というのも可能なのです。例えば、再エネが余る時に、工場の稼働量を増やし、集中的に生産する、といった感じです。それができれば、工場は、元々、別の時間帯に火力が発電した電気で、設備を動かしていたはずの分が、再エネ過剰時間帯に集中生産するおかげで不要になり、化石燃料の使用量削減にもなります。
このようにVPPは再生可能エネルギーを効率的に利用できる社会システムでもあり、脱温暖化にも重要な役割を持っているのです。
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