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インド伝統医学アーユルヴェーダまとめ

インドは四大文明発祥の地の一つで、医療分野においても西洋医学とは異なる、アーユルヴェーダと呼ばれる独自の医学体系を持っています。西洋医学が、疾患の原因を究明し、個別的・対症療法的な措置を取るのに対し、アーユルヴェーダでは、心・身体・行動や環境を含めた全体の調和を取り、健康を維持しようという思想に基づいています。

本記事では、アーユルヴェーダの基本的な考え方をまとめていき、科学・医学が発達した現代における存在意義の有無について、考えたいと思います。

トリ・ドーシャ説

トリ・ドーシャ説とは、生きているものは全て、3つの要素で構成されているという説です。ドーシャは目に見えませんが、身体で起こる全ての生理機能は、ドーシャに支配されているされています。ただし、ドーシャが元素(あらゆる物質の構成要素)ではなく、ドーシャを構成する元素は別に存在します。では、トリ・ドーシャを順に詳しく見ていきましょう。

ヴァータ(風/空:運動エネルギー)
風と空(虚空)からなり、軽・動・速・乾・冷の性質を持ちます。体内の動き・運搬・排泄に関する現象に関わります。

ピッタ(火/水:変換エネルギー)
火と水からなり、軽・熱・鋭の性質を持ちます。体内の消化・代謝に関する現象に関わります。構成要素に水がありますが、ピッタの「水」は胆汁(恐らくは消化液を代表する語としての「胆汁」)を指すもので、カパの水の要素とは微妙に異なります。

カパ(土/水:結合エネルギー)
土と水からなり、重・遅・湿・冷・粘の性質を持ちます。体内の結合・同化・免疫に関する現象に関わります。構成要素にあるカパの「水」は粘液あるいは痰を指し、粘りのある液性の特徴を象徴するもので、ピッタの水の要素とは微妙に異なります。

パンチャ・マハーブータ(五大元素)

アーユルヴェーダには、トリ・ドーシャとは別に万物の構成要素たる元素の概念があると書きましたが、それが、パンチャ・マハーブータと呼ばれる五大元素です。地・水・火・風で構成される四大元素説というものが、中世以前の世界におけるメジャーな物質観にあります。パンチャ・マハーブータでは、この四大元素に存在しない要素である「空」を一つの元素と捉え、五大元素説で物質の成り立ちを捉えています。
そういえば、数学における0(ゼロ)を発見したのもインドですし、インド発祥の仏教においても、「色即是空」という概念があることを考えると、「空」という概念は、昔からインドに根付いたものなのだなと感じます。

パンチャ・マハーブータとトリ・ドーシャの関係を図に示すと、下のようになります(出典はウィキペディアです)。インドの言葉を踏まえて五大元素を整理すると、地(プリティヴィー)・水(アーパ)・火(アグニ)・風(ヴァーユ)・空(アーカーシャ)です。

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トリ・ドーシャの3要素は、互いに独立ではなく、類似した性質を持っていますが(ヴァータとピッタにある軽性、ヴァータとカパにある冷性)、上の図はこうした特徴も巧みに整理されています。

アーユルヴェーダにおける食の考え方

食事による栄養の摂取は、ピッタの構成要素である火・アグニ(消化の火)の働きと考えられています。アグニが正常に働く時は、食物は十分に消化されて、活力(オージャス)となります。一方で、正常に働かないとき、食物は粘着性の強い毒素(アーマ)となり、排泄に異変を生じて病を起こすと考えられています。

アーユルヴェーダにおける病の治療法

先に紹介した食の概念から分かるように、アーユルヴェーダにおける病は、主に栄養の摂取と排泄の異常から生じると捉えられているようです。そのため、治療法も摂取排泄に対応した手法に大別されます。

緩和療法
主に食事の改善を中心とした治療方法になります。身体に過剰に蓄積した肉体の構成物(ダートゥと呼ばれ、食事したものから作られる)などを減らす絶食療法と、不足したダートゥを補う滋養療法があります。

減弱療法
主に排泄の改善を中心とした治療方法になります。基本的には排泄によるデトックスを意識した処置で、洗髪・オイルマッサージ・下剤投与・瀉血など、様々な処置を行います。

アーユルヴェーダの意義

アーユルヴェーダの効果を科学的に根拠づけることができるのか、という観点で考えると、正直、素人の私では結論付けることはできません。恐らく、は多く含まれていると思います。しかし、漢方など、他の東洋医学と同様に、長い年月の中で体系化されてきた独自の医学には、豊富な経験則が蓄積され、数多の改善の歴史を経てきたと考えられます。

アーユルヴェーダの思想や医療的処置は、ここでは紹介しきれないくらい多岐・細緻にわたっているので、効果のある物・ないもの・逆に害のあるものなど、玉石混交に入り混じっている可能性があり、今後、科学的な裏付けを進める価値のある研究テーマといえるかもしれません。

しかし、もう1点忘れてはならない重要なポイントがあると、私は考えています。

アーユルヴェーダで重視するのは、トリ・ドーシャのバランスを正常にすることです。単に目の前に顕在化した症状を対症療法的に沈めるのではなく、症状の派生する原因を突き止め(その方法が科学的に正しい方法といえるかはこの際置いておいて、考え方として)、患者の体のバランスを正常にするように処置をしていきます。このような考え方の医学を【全体観の医学】と呼ぶこともあります。

一方で、現代医学の主流である西洋医学において、医薬品の開発においては、動物実験や臨床試験を通して、多数の治験を蓄積の上、統計的な分析を行い、効果の有無を判定する方法をとっています。この方法を取ると、一旦ある薬がある症状に対して有効であると示されれば、その症状が出た患者には、半ば自動的にその薬が処方されることになります。

例えば、咳を押さえるのに有効な薬が開発されれば、咳の症状がある患者には、対症療法的にその薬が処方されます。診療はするので、医者は患者を観察しないわけではないですが、【なぜ咳が出たのか】という目の前の患者に潜む原因に対しての分析は非常に表面的といえます。なので、とにかく抗生物質処方で原因(病原菌)撲滅、という方法になります。

専門家ではないので詳しいことは分かりませんが、アーユルヴェーダ的な観点からすると、抗生物質はトリ・ドーシャのバランスを大きく毀損しかねない薬物で、かなりNGなのではないかと思えます。

こうした問題意識を持った医師や研究者も増えてきていると思いますが、科学の厳密な手続きを経て、西洋医学と東洋医学の長所が融合した新たな医学体系が確立するには、まだまだ相当な時間が必要になると考えられます。

私たちにとって、大事なことは、世の中の主流である西洋医学が必ずしも正しいとは限らない、ということを認識しておくことと思います。

確かに専門の医師の力が必要な場合もありますが、健康な日常生活においては、東洋医学的に身体のバランス、生活習慣のバランスをいかに健常な状態に整えるか、という意識を持つことの方が重要といえます。

素人が日常を健康に生きるにはどうあるべきか、という点では、アーユルヴェーダなど、東洋の医学からの方が、得られるものが多いかもしれません。

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