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つながっているむこうの国

劇団ノーミーツの「むこうのくに」が公演中なのです。
もちろん見たのです。

前回の「門外不出モラトリアム」が奇跡のようにあるべき時期にあるべき姿で立ち上がった反動で、期待値が高まる分、第二作を見るのは少し怖かったけれど、たった3ヶ月で裏切らずさらに進化した姿を見せてくれたスタッフと演者の皆さんにまずは盛大な拍手を。

前作はロックダウン中の大学生の4年間に焦点を当てた、本当にミニマムな閉じた「今」にあって顔を上げるための物語でしたが、今作はもう少し踏み込んで、もう少しSF的な近未来の「オンラインのコミュニティ」がメインの舞台。
正直、プロローグでの出落ち感が否めないというか、大体の筋と落とし所は見えていて、ちょっとかわされた気分で不安を覚えるけれど、展開もさることながら、テンポや細かな感情の設定、役者さんの作るリズムが非常に破綻が少なく気持ちがいいので話にのれてしまえば何ということもなく、あっという間にカーテンコール。160分くらい画面に釘付けでした。

今回はどうやって一体感を醸し出すのかな、と思っていたら、なんと入場するところから、観客も舞台となるコミュニティにログインする演出が。舞台装置に観客ごと取り込む工夫は古今東西色々あるけれど、オンラインの演劇では生まれて初めての体験。先駆者の優位性ってこういうところにもあるんだなあって思うし、単純な仕掛けだけれど、実際にこれを企画してから配信に負荷かけずに中身とうまく連携さすの、結構時間なかったんじゃないのかな。スピード感も凄いし舞台演出はほんと進歩してて、かっこいい!と思いました。さすが「劇団」。
これを見るためだけでもぜひ、チケット買って欲しいです。ネット稼業の人は、なんか知ってるはずのものが知らない文脈に乗っかった新鮮さを感じるはず。

物語は、前回のnoteでも書いたけれど、SFの王道テーマをラノベ的な深度で、誰でも素直に楽しめる巧妙でわかりやすいお話に仕立てるのが本当に本当に上手い。くすぐりの配分とかも絶妙。前回が時かけなら今回はサマーウォーズ、と言えばわかりやすいかもしれない。実際チャットでもなぞらえてる発言が沢山出て、みんなで盛り上がりまくりでした。
少し年齢設定がぼやかしてあるのも良かったのかも。こういうふうに素直にみんなが共有できる、ジェットコースターみたいに終わったら顔が笑っちゃうみたいな疾走感が、座ってばかりの私達には今、必要なのだなって思う。

わたし個人に一番ツボだった点。ZoomやTeamsやスナップカメラが日常にずかずか入り込んできて、数ヶ月の今、背景や顔に装飾が加えられることから、オンラインでのプライバシーの秘匿とリアルとの間の薄い膜が少しまた構造を変えた実感を的確に捉えて、それに伴う人の心理状態の変化を発展的に描き出しているところです。「ネットとリアル」の変容に自分が抱える漠然とした不安を、魚眼レンズで見せてもらったみたいな気がしました。

今回は画面の作り込みもともかく凄くて、同時に一つ一つのZoomウィンドウのむこうの役者さんの演出も凝っていて、前回は照明で昼を作り込んでたのが印象的だったけど、今回はそれぞれの人物のキャラや心情にあった背景と照明が用意されてるのも面白かった!ペタッとした2次元的な印象にしたり、背景で隠れるから無頓着だったり、意外と生活感あったりとか…特に、もしかしてあの部屋でそのまま生活してるのかな、実生活に支障ないかな…?って人物が2名ほど居られて少し心配になりました(4日間生きてください)。ただのZoomなのに、会議ツールなのに、結構、使い方次第で奥が深い…切り絵師さんのハサミみたい。そんなところも見どころかと。

役者さんたちもみんなそれぞれ上手くて、顔の演技が上手い人、声の演技が上手い人、舞台の人、けっこう特長出てて、舞台やテレビとはまた違う演技を求められている気がする。回線の状態とかもあるから、実は演技しづらいと思うけれど、全体にすごく途切れない感じがある。気迫を感じる。
あと、テンション高い役者さんのセリフの最中チャットで「この人近所から苦情くるんじゃない」みたいなこと言ってる人がいて、なるほど…!ってなりました。ご近所演劇…いやいや、ミキサーさん音量の調整大変そう。

ちなみにキャプチャで400人くらいになってますがこれはVimeoの数字でサイトにはさらに1,200人くらいいましたので、1,600人くらい?のべで見た計算?です。演じてる最中は感じられないかもしれないけれど、すごい熱量で見守っている観客がいる。舞台だと板の上の人の方が観客側がよく見えてるのに、オンラインだと観客同士が自分たちの感情を共有できる、っていうのがやっぱり一番違う点で、チャットも含めて装置、というのが観客の体験をアップデートしている。演じる方はどうなんでしょうね?

ネタバレせずに言えることはだいたい書いたかな。
前作からこっち、相変わらず人の配信を手伝ったりしながらずっと生の価値と嘘の背信みたいなことを考えているのですが、それはまた、千秋楽を見たらじっくり書こうと思います。

開幕戦の荒削りな部分が、果たしてどこまで進化するか、そんなところも楽しみ。

本当に面白い体験ができますので、ワカモンがわちゃわちゃしてるとかハスに構えず、ぜひ!見てみてください。
誰かと話したくなるから。

ちなみに18歳以下はワンコインだそうです。素晴らしい。

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