CARA2024に挑戦した話
こんばんは、suisaiのKomeiです。
この度、私たちsuisaiの2nd Album「23億回」が、CARA(Contemporary A Cappella Recording Awards)の「Best Asian Album」を受賞しました。
本記事は、CARA(Contemporary A Cappella Recording Awards)へエントリーしたい方・関心のある方向けに、実際のエントリーの流れや必要事項・準備したもの等の実体験をご紹介するものです。
日本のアカペラアーティストの皆様にとって、CARAへの挑戦や海外進出のきっかけの一つになれば幸いです。
CARA(Contemporary A Cappella Recording Awards)とは
1992年から毎年続くアカペラの国際音楽賞で、各年にリリースされたアカペラ楽曲の中から最も優れた楽曲が表彰されます。
CARAはアーティスト自らエントリーすることが可能で、当該年にリリースされたアカペラの楽曲であれば、誰でもエントリーすることができます。
CARAの部門
CARAには、学生部門・社会人部門やジャンル部門などさまざまな部門があり、エントリー時に登録するバンドや楽曲の情報に応じて自動的に振り分けられます。
グループの基本情報
プロか、社会人か、学生か
Professional、Semi-Professional / Post-Collegiate、Scholastic(High School、Middle School)グループか、ソロか、コラボか
Group、Solo、Collaborative活動地域
Continentalグループの声部編成
Upper(ギャルバン)、Mixed(混声)、Lower(ヤロバン)
楽曲・アルバムの情報
ジャンル
Classical / Traditional、Country、Electronic / Experimental、Folk / World、Funk / Disco 、Hip-Hop、Holiday、Barbershop、Humor、Jazz / Big Band、Pop、R&B、Religious、Rock、Show Tunes / Soundtrack / Theme Songデビュー作かどうか
Debutオリジナル曲か、カバーか
Original、Coverリードボーカルは誰か
Lead
挑戦しようと思ったきっかけ
suisaiは、「みえないものを、えがくようにうたう」というテーマで活動をしています。
"伝える"のではなく、"伝わる"――解釈の多様性を維持して、聴き手の心に共感のSceneを想起させる試みは、決して言語面でのアプローチに留まるものではありません。
「音楽は、"言語の壁を超えて"共感を引き起こす力を持つ」という命題への挑戦は、普遍的な魅力を持つ"うつくしいもの"にどこまで迫れたかというマイルストーンを得る上で、避けては通れないものでした。
エントリーの流れ
1.音源リリース
CARAにエントリー出来る楽曲は以下の条件です。
対象年の1月〜12月に配信またはCD発売された楽曲であること
アカペラの楽曲であること
また、エントリーは単曲とEP/Album単位の2通りで可能となっており、EP/Albumでのエントリーは収録曲の半数以上がアカペラ楽曲である必要があります。
(単曲の場合はその楽曲がアカペラであれば良いため、例えばOfficial髭男dismの『Editorial』はアルバムでのエントリー出来ませんが、1曲目の「Editorial」単曲ならエントリー出来ます)
2.エントリー
リリースした作品を同年12月31日までにCARAへエントリーします。
費用:1曲あたり$5、最大$35.00(USD)
所要時間:2時間弱(アルバムの場合)
登録はすべて英語のため、英語に強いお知り合いの方にヘルプを頼むのをお勧めします(suisaiはVocal Asiaのshigeさんのご助力を賜りました、ありがとうございました)。
エントリー時には楽曲のアップロードだけでなく、以下のような楽曲に関する様々な情報を記載するため、事前にまとめておくとスムーズです。
・楽曲音源
なるべく高音質のもので(wavなど)
・楽曲のGenre(音楽ジャンル) ※複数選択可
・楽曲の制作スタッフ
Composer:作詞作曲 ※オリジナルのみ
Produce:企画、制作
Track:録音
Edit:個別トラックの編集
Mix:マルチトラックの編集・ミキシング
Mastering:マスタリング
Other credits:上記以外のスタッフクレジット(アレンジ、サンプリング音源提供、ディレクターなど)
・Album/EPのアートワーク
・歌詞(オリジナル曲のみ)
日本語の楽曲の場合、英訳したものも併せて準備することをお勧めします。
suisaiはchatGPTで作詞の方向性を指定して翻訳→文法チェック→メンバーでチェックという流れで準備しました。chatGPTは韻を踏んだり抽象的表現や楽曲背景などを指定すると、ある程度反映させた翻訳を生成してくれるため便利でした。
・アルバムのGenre(音楽ジャンル) ※複数選択可
アルバムのジャンルは、収録楽曲の半数以上がアルバムと同じジャンルである必要があることに注意してください。
・アルバムの制作スタッフ
Produce:企画、制作
Track:録音
Edit:個別トラックの編集
Mix:マルチトラックの編集・ミキシング
Mastering:マスタリング
Other credits:上記以外のスタッフクレジット(アレンジ、サンプリング音源提供、ディレクターなど)
3.結果発表
エントリーが完了した後は発表を待つだけです。
ノミネート発表:2月頃
アワード発表:4月頃
私たちの時はノミネートの発表がなかなか出ず、予定より1週間ほど後ろ倒しになったため、気長に待ちましょう。
suisaiはFolk / WorldのAlbum部門でノミネートされていました。ジャンル別部門でのアワード受賞は叶いませんでしたが、Continental NominationのBest Asian Album/EPを受賞することが出来ました。
CARAで苦労したこと
楽曲のジャンル選び
エントリーする際は全ての楽曲にジャンルを設定するのですが、CARAの音楽ジャンルと海外のジャンル区分、日本のジャンル区分の微妙な違いから、「この楽曲はどのジャンルに該当するんだ…?」と悩む時間が長かったです(全部Popsでは…?と思ったり。特にオリジナル曲)。
現代の音楽ジャンルはノンジャンル/クロスオーバーが多く、実際のノミネート作品を見ても、複数のジャンルにまたがってエントリーされている楽曲が多数あります。また、カバー楽曲の場合では、原曲のジャンルとアレンジ後のジャンルが異なっている場合に、両方のジャンルでエントリーしている楽曲もありました。
過去のノミネート作品を聴き漁って傾向を掴んだり、音楽ジャンルの派生の歴史や背景を遡ったりしながら自分なりに整理したものを参考動画と併せてご紹介します(説明は分かりにくいジャンルのみですみません)。
・Classical / Traditional
クラシック音楽全般 ※聖歌など宗教性のあるものはReligiousに?
Country
アメリカ南部発祥のジャンルで、自然、愛情、家族や郷愁などをテーマにした楽曲。Folk / Worldと近いが、こちらの方がより狭いジャンルか。
Electronic / Experimental
Talkboxなどの音声加工を多く用いた楽曲や、既存のジャンルの枠組みにはない試みを行なっている楽曲。
Folk / World
民謡、民族音楽および民謡由来の各国独自のポピュラーミュージックを含む。日本のJ-Popのうち、弾き語りのアーティストの楽曲などが該当。
Funk / Disco Song
Hip-Hop
Holiday
クリスマスから新年の時期をテーマにした楽曲。ホリデーアルバムが毎年のように出る西洋のアカペラならではですね。
Barbershop
Humor
すみませんこの部門だけはよく分かりませんでした。日本だと「ミラクルショッピング / ウルトラ寿司ふぁいやー」とかでしょうか。
Jazz / Big Band
Pop
R&B
Religious
宗教音楽。Classicと近いが、ゴスペルやマスクワイア寄りのものが該当している。
Rock
Show Tunes / Soundtrack / Theme Song
映画、舞台、テレビなどのテーマ曲。
編曲権の許諾
楽曲を制作するにあたって、トラブル防止のためカバー楽曲の編曲許諾を事前に取得することを強くお勧めします。
特にアルバムの場合、収録予定のカバー楽曲へ許諾が下りないとアルバム全体の構成を見直す必要が出てしまうため、編曲・レコーディングを行う前に、編曲権管理者(音楽出版社や事務所など)へ連絡の上、許諾を取得してから取り組むとスムーズです。
挑戦してみて感じたこと
音源のクオリティ
日本のアカペラと比較して、圧倒的に海外の方が高いと感じました。分かってはいましたが、差を痛感した挑戦でした。
海外の場合、アカペラに特化したプロのミックス/マスタリングエンジニアの方が多くの作品を手がけており、水準を大きく押し上げています。
一方で、加工をあまり施さないシンプルな音源、空間録りのみでつくられた作品も評価されており、楽曲やジャンルに合った音源づくりが重要で、suisaiも6人の生感を活かした丁寧な音作りを心掛けたことが結果につながったのだと思います。
日本のアカペラアーティストが挑戦する際は、アカペラに強いエンジニアの方に協力を頼むことをお勧めします。レコーディング段階から依頼するのが難しい場合でも、マスタリングのみ依頼したり、フィードバックだけもらう等外部専門家の意見を取り入れることは、クオリティを上げるために重要です。
音源制作を前提にしたアレンジ、サウンドプロデュース
生の歌唱と音源がほぼイコールのグループもありますが、多くのグループが「音源として魅力的な作品」というベクトルで制作に取り組んでいる印象でした。
音源編集を前提にした作品づくりの場合、音源編集の段階だけでなく、編曲や構想などさらに前の段階で作りたい楽曲のイメージを組み上げるため、より自由度の高いアプローチが可能になります。
この自由度をどう活かすのかのアイデアとそれをまとめ上げて一つの作品(群)にする能力は、日本のコンテンポラリーアカペラではなかなか育む機会の少ないスキルのため、まずは短い楽曲でも音源を想定した制作を2〜3曲やってみることをおすすめします。
また、特にアルバムの楽曲は作品内の役割に合わせた曲作りをすることになるため、ぜひアルバム制作やオリジナル曲に取り組めると、スキル向上はもちろんグループの音楽性もより幅広くなるきっかけにもなると思います。
さらに、CARAでは音源制作スタッフのクレジットが表示され、アレンジや作詞作曲の部門賞やソロ・コラボ部門なども設けられるため、個人でプロデュース・編曲やエンジニアリングをしている方にもスポットライトが当たります。ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。
国や民族の価値観と音楽
CARAに参加するグループはアメリカに限りません。アジア、アフリカ、ヨーロッパなど世界中さまざまな国や民族の方がそれぞれの言語で、それぞれの文化の中で生まれた価値観に基づき音楽を生み出してアカペラを持ち寄ります。
今回、その一員として参加し、たとえ言語が分からなくとも、言葉の響きや旋律、和音などの断片から情景を読み取ったり、生み出された作品の向こう側に想いを馳せる時間が確かにあることを知れたことで、どこか救われたような気がしました。
皆さん自身が良いと思ったものを練り上げて思い切ってぶつければ、きっと受け入れてもらえます。
最後に
自分たちの作品と創意工夫しながら徹底的に向き合い作り上げることは、1人のアーティストとして、ライブとはまた異なる喜びと達成感がありました。今まで雲の上の存在だった海外プロアカペラグループと同じ土俵に登り、言葉の違う人たちに受け入れられるのかという不安や躊躇はもちろんありましたが、思い切って挑戦したことで自信とモチベーションにつながりました。
「編曲許諾をとって、レコーディングをして、配信リリースして、海外の音楽賞に応募する」と書くと、とてもハードルが高いように感じるかもしれませんが、実は決して難しいことではありません。学生部門もあるため、特に現役の学生の方はチャレンジしてみると自分たちのアカペラを大きく進化させるきっかけになると思います。
もし少しでも「やりたい!」と思ったら、まずはVocal JapanやKing of Tiny Roomなどアカペラの普及に取り組む方々にご相談してみてください。日本のアカペラ普及のために、きっと力になってくれます
(もちろんsuisaiや私に連絡いただいても大丈夫です!)
日本のアカペラ界では本格的なレコーディングや音源制作はまだあまり盛んではありませんが、この記事をきっかけに制作活動に興味を持っていただき、CARAに挑戦するグループがたくさん出てきてくれることを願っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう!
(よろしければぜひsuisaiの受賞作品も聴いて頂けると嬉しいです)
suisai Komei
いただいたサポートはアルバム制作に使わせていただきます