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瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第八回 そうだ、奈良に行こう!

書店訪問を楽しみの一つとしている瀬尾まいこさん。
今回からは津々浦々、書店めぐりの様子をお送りします。
まずは瀬尾さんの地元、奈良県からスタートです。

これぞ奈良?愛について語る店長

昨年は、少しずつ以前の生活が戻ってきたように感じます。

そして、9月に『夜明けのすべて』が文庫化されることになり、久しぶりに書店さんをめぐることにしました。

え? 新作じゃないよね? 文庫になっただけならおとなしくしといてくれる?

すみません。チャンスがあれば、書店さんに行きたいんで。つい。


というわけで、これから何回かに渡り、書店巡りを書いていきます。

ただ、プライバシーの問題や、応援してくださっているのにお邪魔したくても行けない遠方の書店さんもあるので、長居したりお世話になったりしたくせに、さらりと書いていくことをご了承ください。

とお断りを入れたところなのですが、今回、奈良だけはガッツリ紹介させてください。

皆さん、奈良と聞き何を思い浮かべられたでしょうか?

鹿と大仏。そうなりますよね。

ですが、奈良には、まだまだ素晴らしいものがあるのです。

それなのに、なぜか関西でも目立たず、「奈良にうまいものなし」とよく言われてしまいます。

柿の葉寿司、わらび餅、そうめんなどおいしいものもたくさんなのですが、飲食店がオープンしても割とすぐに閉店するんですよね。

しかも、奈良って、県外消費率が全国1位なんですって。

私たちは、自らを犠牲にし、他県の幸せを願い、ついつい地元以外で買い物しちゃうんです。

いや、単にお店が少ないのと、交通が不便だからだと思うのですが、これだけ歴史的建造物もあることだし、みなさんに奈良に来てもらいたいと常々思っています。

え? 私ですか? いえ、観光大使にも名誉市民にも、何にも選ばれておりません。

でも、住むと愛着わきますよね。ついつい宣伝したくなります。

というわけで、奈良の書店巡り、まずは、家から一番近くの書店さんに伺いました。

出版社さんからいただいた文庫本のPOPを持ち、「すみません、瀬尾というものですが」とお声掛けをすると、「えっとスタッフのお知り合いですか?」と定番のお答え。

「いえ、あのこの本を書いてて(POPを高々と見せる)」
「ああ、すみません、今店にわかるものがいなくて……」

1軒目からスベりました。

でも、皆さん優しくて、「サイン本作ってください」と言ってくださり、「あ、その本ならここにあります」と『夜明けのすべて』が並んでいる様子も見せてくださいました。

知らない人間にサイン本を作らせてくださる寛大さ。

これが奈良です。

その次、生駒の書店さんに伺ったのですが、以前別の店でお会いしていたスタッフのWさんがおられ、「もう声だけで瀬尾さんわかりました!」と言ってくださいました。

ありがとうございます。

私も遠目にWさんだろうかと思ってました。

でもWさん、私の本を読まれないんです。

最初お会いした時、「ぼくは瀬尾さんの本読まないんですけど、飲みに行ったら周りにはたまに勧めてます!」とアピールしてくださいました。

読まないのはいいとして、酔った勢いじゃないと勧められない作品だったとは。

いえ、この控えめなところが奈良県民なのです。

そして、この生駒の書店さんでは、私を知ってくださっている店員さんもいて、皆さんで写真を撮らせていただき、その後、同系列の奈良店に向かいました。

奈良店では店長さんをすぐに発見できたのですが、店長さんは忙しそうに手帳を並べている最中。

「すみません。瀬尾まいこと申しまして」とおそるおそるお声掛けすると「あ、ぼく、こんなふりしてますけど、瀬尾さん来るの知ってました」と言うではないですか。

Wさんが丁寧にご連絡してくださっていたようです。

Wさん、本当は優しい人なんです。

お酒の力がないと私の本を人に勧められないだけで。

「あ、そうなんですね」
「そうなんですよ」
「えっと、これ『夜明けのすべて』のPOPで、あともしよければサイン本とか作らせていただけますか?」
「作ります?」
「ええ、お時間いただければ」 

とぎくしゃくした会話の後、部屋に通してくださったのですが、部屋にはたくさんの本と色紙とマジックが!

「ぼく、手帳並べてるふりしてましたけど、この部屋クーラーまでつけて準備していたんです」と店長さん。

え? 手帳並べるふりはどうしてもしなあかんかったん? なんのフェイント?

でも、涼しい部屋でいっぱいサイン本作らせてくださり、うれしかったです。

しかも、なぜか店長の奥様のお写真を見せていただき、交際0日でプロポーズしたというお話をお聞きしました。

お子様も奥様もすっごいかわいくて本当にお幸せそうな写真にほっこりしました。

あれ、ちょっと待て。

ここの店、前、訪れた時の店長さんも愛について語ってたわ。

愛について語る人が、店長になる仕組み?!

奈良ならではの斬新な方式ですね。

知らんけど。


おしゃれ金魚に古墳。まだまだある奈良の魅力

別日に、新しく建設された奈良県コンベンションセンター内にできた書店さんにも訪れました。

ここすごいおしゃれなんです。

店の中に様々な文具や奈良名産品のショップもあって、お隣にはホテルもご用意しております。

この書店さんで現れたのがIさん。

おしゃれな店内で、本や文学について熱く語られてました。

その後、ミ・ナーラという商業施設内の書店さんへ。

こちらのミ・ナーラ、金魚ミュージアムがあるんです。

金魚が入った水槽がたくさんあり、照明がキラキラで、壁に花とかぎっしり詰めて、インスタ映えスポットです。

金魚もまさかこんなことになると思ってなかったやろうな。私もやで。

ミ・ナーラ自体は新しい施設なのですが、書店さんは昔ながらのお店で、おじいちゃんの店長さんとお話をしていると、駄菓子屋に通っていた子ども時代を思い出しました。

私のことはもちろんご存じなかったのですが、作家と知ると本を探してくださり、ご購入くださいました。

作家に会えるなんてと喜んでくださりましたが、私ごときに感動できる繊細な心を持つ人が暮らす街、それが奈良でございます。
 
観光に来られる方は、奈良をさらりと見て、大阪や京都でゆっくりというパターンが非常に多いと聞きます。

奈良公園、大仏がメインとなっておりますが、そこから少し電車に乗っていただければ、薬師寺、唐招提寺があり、さらに行けば法隆寺も飛鳥もございます。

ぜひ奈良でもゆっくりしてください。

鹿とともに、皆さんのお越しをいつでもお待ちしております。

奈良転居9年目、瀬尾まいこでした。(ずっと住んでたん、違ったんや!)

皆さまも奈良、再発見の旅に行かれる際はぜひ地元の書店さんにもお立ち寄りください。
次回は2月1日(木)21時更新です!


瀬尾まいこ(せお・まいこ)
一九七四年、大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒。二〇〇一年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。二〇〇五年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、二〇〇八年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、二〇一九年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞した。他の作品に『図書館の神様』『強運の持ち主』『優しい音楽』『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『君が夏を走らせる』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『私たちの世代は』など多数。

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