お母さん、あなたが私の故郷です~「故郷」高島健一郎×藤川有樹

私が学校に行きたくないって言うと
「お買い物に行こうか」
って言って、車で2時間もかかるデパートに連れていってくれたね

ピアノのレッスンの日は
いつも着替えとレッスンバッグを持って学校まで迎えにきてくれたね

身に覚えのないことで学校の先生に責められた日は
先生の家に話をしに行ってくれたね
私は嘘をつく子じゃないって信じてくれたね

事情があってピアノのレッスンを辞めることになった時
帰りの車の中で「辞めるの悲しい」って泣いてごめんね

高校生の時は夜8時を過ぎたら電車に乗って帰るのは禁止だったね
「変な人がいると危ないから」
そう言って、いつも車で友達と遊んでいる場所まで迎えに来てくれたね

大学生になっても「変な人に目を付けられると危ないから」って理由で
ずっとアルバイトは禁止だったね
いったいどこのお嬢様だろうね

留学する日、空港まで見送ってくれたね
「私の門出なんだから笑顔で見送ってね」ってお願いをしたけれど
涙を堪えていたのは本当は私のほうだったんだよ
笑顔で手を振って別れてから、搭乗ゲートまでの道を泣きながら歩いたんだよ

異国の地で病気になった時は、すぐに飛んできてくれたね
電車の自動券売機すら使い方がわからなくて
新幹線の切符の買い方もわからない人なのにね

警察から電話が掛かってきた翌日
一緒に棺の中のあの人に会いに行ってくれたね
少し離れた場所でずっと座って待っていてくれたね
それからの日々をずっと静かに見守ってくれていたね

一人でしっかり生きていこうと家を出て一人暮らしを始めた時は
電子ピアノを買ってくれたね

病気になって医療用麻薬を使っても体の痛みが取れなくなった時は
新幹線に乗って部屋の掃除に来てくれたね

次にまた違う病気になった時は
あなたが可哀想すぎて病名が3年間言えなかったよ
「怖くてネットで調べられない母さんはずるい」
そう言って泣いていたね

病気がきっかけで、あなたは毎年遊びに来てくれるようになったね
私は杖をついている時もあったけれど
調子が悪くてあなたを一人で遊びに出掛けさせた時もあったけれど
それでもいつも
「本当に楽しかった」
「こんな母さんのためにありがとう」
「いろんな世界を見させてくれてありがとう」
そう言ってくれるね

「こんな親でごめんね」
「何もしてあげられない親でごめんね」

お母さん
何度生まれ変わっても私はあなたの娘として生まれてきたいよ

お母さん
あなたのいる場所が私の故郷です
あなたが私の故郷です

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