アンデッドハイスクール第3話


#創作大賞2024 #漫画原作部門 #少年マンガ #少女マンガ #青年マンガ

「例えばだな、オレらの場合は"元々ゾンビ"なんだよ」
「元々ゾンビ?」
 夜橋と共に大上に聞き返した。
「そう。お前らの場合は『感染型』。ゾンビに噛まれたり、ウイルスでゾンビになったりする。でも、オレらみたいな元々ゾンビ社会にいるゾンビは死者を蘇らせて生まれたりとか、土葬した死体にまだ魂が残っていてゾンビとして蘇るとかで、そういう奴らはゾンビになってからの自分しか知らないから『元々ゾンビ』になる」
「なるほど~。で、大上は『蘇り型』なわけか」
「ちなみに俺も『蘇り型』だな」
 小竹が自分のことも補足した。
「死んだ人間は"霊柩車"に回収されるけど、霊柩車に迎えに来てもらえる死体は身元がはっきりしてる奴だけ。山奥で殺された変死体とか、行方不明になってる死体はよくオレたちみたいにゾンビとして生まれ変わるんだよ」
「俺はガキの時、孤児院に置き去りにされてたらしいから、餓死で死んだのか誰かに殺されたのかも知らねーけど今はゾンビとして幸せな生活送れて万々歳だぜ」
「重すぎるなぁ」
 俺と夜橋、小竹、大上はゾンビについての話をしながら"給食"を喰らっていた。
 給食というのは、生の人肉である。
(うっ……)
 人肉加工工場で肉のみに加工された人肉は真空パックに詰められゾンビたちに支給される。血抜きされた際の血は"ジュース"として紙パックの飲み物として支給される。
 人間だったときはただでさえ生で肉を食べることなんてなかったというのに、ゾンビになってからは調理された肉の方が食べられなくなっていた。
「イクトもヒカルも食わねーのかよ。じゃ、俺が貰っちゃおうかな~。俺なんて今日おかわりジャンケン勝ったから二つ目もあるんだけどな~」
 小竹が人肉パックを見せびらかすようにハムハムと食べ進める。
「いや、食べる。食べるに決まってんだろ……」
(んなもん見せびらかされて羨ましいわけねーだろ!なんだそのカオ!つーかバケモンの食べもんを楽々食べてたまるか!!)
 夜橋ははっきりと返事もしないうえに明らかに顔が引きつっている。
 俺が屍学校の1年A組に転入してすぐに小竹は話しかけてくれた。得体のしれない良い奴だ。大上は2年B組で、夜橋は2年A組になったは良いものの、大上は明らかに俺と夜橋が警察に駆け込まないよう監視している風だ。
「やっぱ喰えねーか、人間は」
 大上が夜橋の顔を覗き込む
「い、いや……食べる。食べないと……」
「オレみたいになっちまうかもしれねーもんな?」
「い、いやそういうことが言いたいわけじゃないんだ……本当だよ……」
「オレみたいにって?何?それ?聞きたい!」
 夜橋と大上の会話に割り込んで小竹が興味津々に質問する。やんわりと笑って大上ははぐらかした。
 俺は"給食"を食べるべく、空腹で大上のように犯罪を犯さないためにもと、真空パックの封を切り、ゆっくりと口付ける。芳醇な血の匂いと甘みのある肉の香りが鼻孔を通り抜けた。
 もにゅもにゅとした噛み応えのある不快な食感。吐き出したいのに、これ以上の食べ物は無いかのように美味しく感じるこの矛盾。
「う、美味い美味い……こんなもん俺にかかれば一個でも二個でも食べまくrオロロロロ」
「イクト――ッ!!吐くな!呑み込め!!オイイイ!うめーっってたじゃねーかオメー!」
 最高に気持ち悪くて気持ち良い。それが人間からゾンビになった者の食事だった。
 
 
「みんなーっおっはよー!」
「夜ですセンセー!」
「じゃあこんばんわ。皆にニュースがあるのよぅ」
「また!?」
「新しくお友達になるミコトちゃんよ。皆仲良くしてねぇ」
「ミコトちゃんって呼んでください。よろしく」
「!?!」

 ミコトは一番後ろの端の俺の席に続き、隣の席に着席した。
「ミコトお前なんで!」
「最近、君に引き続き成仏して死ぬはずの魂がゾンビに生まれ変わり続けたじゃない?実はこの辺の土地の魂って運命の流れに関係なくゾンビになりやすいらしくて、魂の観察要員としてゾンビにされちゃったのよね」
「されちゃったのよねて」
「魂の流れや記録って結構大事なのよ。ま、これでお互い姿も見えるし会話もできるようになったことだし、これからよろしくね」
 にっこり笑ってミコトはポンと俺の肩を叩いた。
「よろしくされても、俺はゾンビのことなんか殆ど知らねーぜ」
「魂の運び屋としてゾンビになる魂は沢山見てきたから、ゾンビに関しては私の方が君より詳しいかもね」
「沢山って……」
「そうね。30年ぐらいは運び屋やってるから」
「30!?!」
 ババア!!
 声に出していないのにミコトがにっこりと笑って言った。
「30年なんて人間でいうほんの2,3か月と変わんないんだから。ぴちぴちの新米なのよ。優しくしてくれないと泣いちゃう」
「ババア!!」
「声に出てんのよ!」
 ドシャァァア!!女子は怒るととてつもない力を発揮するらしい。
 
「そういえば、この身体の魂はもう成仏しちまってんだよな」
「そりゃそうでしょ。そうじゃなきゃ君の魂が入れないじゃない」
 仁木双葉。この体の持ち主の名前だ。
 祖父と二人暮らしだった俺とは違い家族が居て、"ゾンビに噛まれて死んだ為霊柩車に連れて行かれた"事になっている。仁木の家族は仁木が俺として生きていることを知らない。
「でも、もう魂が身体に定着しちゃって抜けられなくなっちゃったんでしょう。だったらそんなこと考えてもしょうがないわ」
「まあそれはそうだけどよ」
『ああ……よく寝た。返してもらうぞ、俺の身体』
 俺はそんなボヤきが頭の中で呟かれているとも知らず、少しずつ慣れてきた屍学校のゾンビ生活に身を投じていた。
 
「ゾンビって傷とか治らないんじゃねーのかよ」
「そんなわけねーじゃん。死ぬ前の傷はそのままだけど、ゾンビになってからは脳破壊されない限り首切られても再生するぜ」
「死んでるくせに生命力が強すぎるな」
 体育の授業にて、順番待ちをしながら小竹と他愛ない話をする。
 ただのバレーボールの試合のはずだが、人間ではありえないぐらいリミッターの外れたパワーでボールがビシバシ飛び交っている。
 小竹のいうところによると、ゾンビは人間の負荷をかける動作にリミッターがかかる機能が欠落しているんだそうだ。だから人に噛みつくときに強い力を発揮したり、空腹の本能に任せたときには力加減なく人を襲ったりする。
「お、俺達の番だぜ」
「おー……っつってもこの体、球技なんてできんのか?」
「なんか言ったか?」
「いや……」
 2対2のサーブレシーブ練習。ジャンケンで相手サーブから始まり、小竹がボールを拾う。
(アタックチャーンス!――ってやべ、バランスが)
 仁木の身体を使いだしてから初めてこんなに高く跳んだ。と同時にうまくバランスが取れずに空中でぐらついた。
『この下手糞』
 パコーン!!
 ゾンビらしくリミッターのかかっていないスパイクが跳ねた。
「イクト―!うめーじゃん!!」
「お、おお……」
(あれ?てか今なんか……)
 聞こえたような?
 
 次は国語である。
「吾輩は猫である。の猫の名前は?では代替、答えて」
(名前はまだねーっつってんだろが!!んだその質問!!)
 がたッと席を立ちスッとわけのわからない答えを述べた。
『強いて言うならば、名前は"まだ無い"という名前です』
「そうだな。よろしい」
(は!?)
 あれ!?!なんで俺……
 さっきの体育もそうだ。
 自分の意志とは反して身体が動く。喋る。

 歴史。
「戦争で兵士たちは何本も刀を所持していたわけだが、それは何故かな」
『ハイ。一本の刀では人の肉や骨を連続で切り続けるのは3,4人程度が限界で刃こぼれや血によるぬめり等を考慮すると――』
 んなバカな!!
「にしても、イクトって結構ユートーセ―って感じ?なんだな」
「本気で言ってんのかお前ェ……」
「え?ええ!?褒めてんのに……」
 小竹の能天気な賞賛にキレ気味に返事する。
 どう考えてもおかしい。いくらゾンビにリミッターが無くとも、他人の身体であっても、知らないことを答えたりはできないはずだ。
 そしてこの体の魂と俺の魂は入れ替わりで身体に入っている。
 しかしこれは。

「ミコト!!」
 俺は放課後(と言っても早朝だが)ミコトに魂の状態を見てもらおうと校舎裏に連れ出した。
「どうしたのよ、こんなところに呼び出して。というか、アタシ、ゾンビになってから住む処無いから君の家に住むからね」
「別にそれは良いよ。いや良かねーよ。年頃の男女が……ってそれは今どうでもいいんだよ。魂だよ!魂!!」
「魂?君の?それがどうしたのよ」
「何かおかしいところはないか?例えば、俺の魂が分離してるとか、二重人格になってるとか……」
「落ち着きなよ。何言ってんの」
「いや、例えばの話だ。俺達は"コイツ"の身体に魂が無いからゾンビ化が止まっていて、俺の魂がそこに入り込んだんだと思ってたわけだ。それがどうだ、本当はコイツの魂が『停止』していたからゾンビ化が堰き止められていて、本当は成仏なんかしちゃいなかったってことが――」
 そうだ。俺の魂が入ったから生き返ったんでなく、最初からこいつは死んでなんかいなかったんだとしたら――ただ俺の魂が入る隙間を作るように『姿を隠していただけ』で、本当は俺の魂の行き場所なんてこの体のどこにも無かったのだとしたら。
「よくわかったな。今日までよく眠らせてもらった。お前の魂はもう要らない」
 ぐるりと魂の主導権が入れ替わるのがわかった。
「き、君は……代替」
「生人なわけがないだろう。俺の名前は仁木双葉(にき ふたば)。この体の持ち主だ」

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