The Point of No Return
もはや退けない
振り向くな
戯れはここまでだ
燃えるこの想いが 熱いこの願いが
二人をひとつにする
行手には 未知の愛を喜び
もはや戻れない
"ポイントオブノーリターン"は、ロングランで公演されているミュージカル、「オペラ座の怪人」で終盤に近い"ドンファン※の勝利"の演目でファントムが書いたもの。※ドン・ファンはスペインの色男。話は割愛。
私が「オペラ座の怪人」で、恐らく1,2番に好きなこの曲。
二人の関係性の集大成、そして最も官能的なのに純粋な想いが歌われるこの曲。
ファントムはここで、舞台を巻き込んでクリスティーヌへの愛の告白を大胆に歌う。
当然クリスティーヌのパートも彼自身の願望が入り混じった歌詞で間違いない。
ところがここで圧巻なのは、ステージでのクリスティーヌの歌い上げは、まるで彼女そのもの心情を、彼女自身から発してるようにしか感じないほど熱情的で官能的だった。
どんな言葉も枯れ果てる世界に
あなたは私を連れてきた
私は知りたい
私は感じる 二人の身体が絡み合いひとつに
心を決めたわ
もはや退けない 二人きりの物語がはじまる
迷いに迷って いつの日か あなたとひとつになる
その瞬間、彼女は師であるファントムと並ぶどころか凌駕したと言っても過言でないほど。
彼女はファントムの弟子としてではなく、彼と対等に向き合う女になっていた。いや、女として彼の上に君臨していた。
クリスティーヌは背後から彼を抱きしめ、彼をリードする様に指同士を絡め合わせて、誘惑している。
その表情は恍惚として、演者としての枠ではない。
恋の血が通い 恋の炎燃え 私を焼き尽くす
もはや退けない
行手には ただ一筋の道が
もはや戻れない
ここまではとても官能的だった。
この先からファントムのパートに続くのだが、様相が変わり、彼の心からの願いが歌われる。
そこにはもはやドン・ファンではなく、ファントム、いやエリックという男が、仮面の下に潜めていた純粋な愛の懇願。
どんな時でも二人の愛は
決して変わらないと
共にどこまでも二人で
ところが彼の告白が終わる前に、クリスティーヌは、彼が最も恐れていたこと、彼の仮面を躊躇なく剥がしたのだった。。
彼女がここで出した答えとは、一体なんだったのだろうか?
この前戯は一体何を意味していたのか?
少女が大人の女に変わる。
あの頃の純粋な関係だった、師と弟子には戻れない。
ファントムが彼女に投影させた理想の歌姫は今や、彼に愛を懇願させる魔性の女に変わる。
The Point of No Return..
「この世を凌駕する存在、音楽の天使として彼女の上に降臨していたファントムが、彼女に対して愛を懇願する一人の男に変わるなんて、ここでも愛の力を見せつけられるよね。愛とはなんだろう?与えるものなのかな?懇願するものなのかな?」
彼が探るように私の目を覗き込む。
怪しい妖艶な光を瞳にたたえて、今宵も私は師に快楽の手解きを受ける。
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