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電話

プルルルルル。

ここ数ヶ月ほとんど置物と化していた固定電話が鳴った。どうせウォーターサーバーかなんかの売り込みだろう。

ガチャ。

「お前の妹を預かった。返して欲しければ300万用意しろ。」

耳を疑った。私の妹が誘拐された?  なぜそんなことに。早くに親を亡くしてから妹と二人三脚で生きてきたのに、その妹さえも失うかもしれない。私はとにかく恐怖と不安でいっぱいだった。

「あの、お金はなんとか用意します。だから、少しだけ妹の声を聞かせてくれませんか。」

「ふん、いいだろう。ほら、お姉ちゃんだぞ。」

「お、お姉ちゃん・・・?」

「かな?  大丈夫なの?」

「なんとか・・・」

「そう、よかった。お姉ちゃんお金なんとかするから・・・」

「ありがとう・・・。」

ん?  なんか、よくよく聞いてみると妹の声と違う気がする。もっと妹の声は低いはずだ。本当に妹なのか?  

「あの・・・誘拐犯さん。」

「あ?  なんだ?  金払えねえってんならお前の妹がどうなるか分かんねえぞ。」

「あ、あの、その妹のことなんですが、ひとつ妹に確認したいことがあるのですが。」

「あ?  なんだ?  疑ってんのか?」

「いや、そういう訳では無いんですけど、ただひとつ妹に聞きたいことがあって・・・。」

「ふん、変な質問したらただじゃ置かねえからな。」

「はい・・・。あのさ、かな。」

「うん。」

「かなが2~3歳の頃、結婚したい相手について喋ってたこと覚えてる?」

「え?  あ、ああ、前にお母さんに聞いたことがある。確か・・・アンパンマン、だったかな・・・。」

「・・・・・・あんた何者?」

「え?  ひどいよお姉ちゃん。実の妹に何者?  だなんて・・・。」

「だって私の質問に対しての回答、間違ってたんだもの。」

「え?  あ、いやー、その・・・。」

「まあ、誘拐されて動揺してたのかな?」

「そ、そうよ。ちゃんと思い出すから待ってよ。」

「ふーん。」

「ちょっと待って・・・・・・・・・。あ、思い出した。ひろみちお兄さんだ。」

「・・・・・・違う。」

「え??  あ、ゆうぞうお兄さんだったかな・・・。」

「それも違う。」

「あ、いや、その、えっと、あの、し、しょくぱんまんだったかも・・・。」

「全然違う。はあ。あんたにせもんだろ。」

「は、はあ?  ち、違うし。かなだよ。分かんないの?」

「はあ・・・。あんたねえ、妹が結婚したいって言ってたのはアンパンマンでもひろみちお兄さんでもゆうぞうお兄さんでもしょくぱんまんでもなくてショベルカーだし、そもそも妹は私のことお姉ちゃんなんて呼ばない。」

ガチャ。

電話がきれた。それにしても新しい形の詐欺だったなあ。

ガチャ。

「おねえー。ただいまあ。」

「おかえりい。ねえー聞いてよー。さっきさあ・・・。」

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