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ただ、感謝。

何でもない話です。

アルバイト先の店長さんが、来月から異動になるというだけです。

ただ、私にとって、
かけがえのない人との別れだということです。




2020年。大学生になって初めての夏休み。

暇で暇で
そして実家暮らしの窮屈さに耐えかねて
アルバイトを探していました。

コロナ禍・人員削減。
こんなコミュ障が、易々と受かるわけがありませんでした。


8月末。そろそろ決めたい。
めっちゃ求人してるとこなら受け入れてくれるのではと思い、めっちゃ求人してる喫茶店に応募を決めました。

最初にお会いした時、
失礼ながら、店長だとは思いませんでした。

それくらい、ゆるかった。
ふわっとしてた。
というか、、な、謎?

帰路についてから、
え、面接…今日受けたのって、面接で合ってるっけ?と思った。


どういうことかと申しますと、
自分が話している時間より、相手の話を聞いている時間のほうが長かったのです。
つまり、
店長さんが自分のことをめっちゃ喋るのを、
私がふむふむと聞く。

えっと…私の認識ですと、
面接というものは、
志望者が自己アピールをして、雇用主のハートに刺さるかどうかという…。
なぜ、な、なぜ、あなたが喋るの??

「俺、勉強大嫌いで、学生鞄に漫画しか入れてなかった」
「漫画いっぱい入れたら硬いやろ?そんで悪い奴来たら振り回すねん」
「マスク、メガネめっちゃ曇るよな」
「ポケットサイズのアルコール消毒液、あれ便利やんな。持っとったけどどっか行った。どこ行ったんやろあれ…」
「これ(アイスミルクコーヒー)、めっちゃ甘くしたん。これがいいんよなー」

…そんで話の内容なんなん
初対面の人に、面接に来た人に、ドヤ顔で、、


芸人さんかと思った。
楽しそうにしてるからいっか。←
しばし、彼のワールドに溶け込むことにした。


用意してった半分くらいのことしか話せていないまま、時間になった。


「じゃあ、次は3日後に来れる?契約とオリエンテーションやりたいんやけど」

ご、合格ぅ?!
な、、なにをみたのですか私の?!
「そうなんですか」「そうですね」しか言ってないですよ?!

こんな経緯で、彼の元で働くことになりました。

始まってすぐ、自分の認識が甘かったことに気付かされました。


そもそも、接客業に向いてなさすぎた。
声小さい。猫背。能率悪い。のろい。受動的。覚え悪い。パニックなる。やや自己中。協働苦手。テキトー。はっきりしない。押されっぱなし。やや反抗的。

何から何まで標準以下。
文字通りの、足手纏い。役立たず。

熟練パートの通称おばちゃん三銃士が、必死で教えてくれる。でも成長しない。呆れられる。
なんなら煙たがられる。

やれどもやれども。
言えども言えども。
暖簾に腕押しとはこのこと。
誰も得しない。


情けなくて、苦しくて、悔しくて、、
でもどうしたらいいのかわからない。

そんな心持ちで出勤してきた私に、
店長さんは


忙しい合間を縫ってまで


ジョークを言いにくる。
笑かしにくる。

耳元まで来て、他に聞こえない声量で。

水分補給のように消化的な感じでくるから、内容は残らない。ただ反射的に笑ってしまう。
ブラックジョークだったり、自虐ネタだったり、
ユーモアだったり、思い付きだったり、、


コミュニケーションなのだと思う。独特な。

これに、救われていた。

聞きたいとかではない。
働くのが楽しくなるとまではいかない。


けど、


まだここに居てもいいのかな

そう思わせてくれた。


いいわけないのに。


私の為に、どれだけ頭下げたか

どれだけ頭を悩ませたか

どれだけ白髪が増えたか

どれだけ残業して研修に付き合ってくれたか

どれだけ気を遣ってくれていたか

店長だから、ではないと思った。
この人は本当に
寛大で あたたかくて
責任感があって 真っ直ぐな人だった。

ジョークを言うのは、

口数が少なくて俯きがちな私の
負のオーラを少しでも吹き飛ばすため。

あの面接で私の性質を見抜いて
その上で私を雇った。

うまくいかないことを見越して
それでもコイツを育てようと覚悟してくれた。

そして、1年が経った。


辞めなかった。
毎回帰り道に、辞めようと思っていた。
でも辞めなかった。

私が笑ったのを見たときのあのドヤ顔が
満足そうな顔が
イヒヒという笑い声が
柔らかな目尻の皺が

頭の片隅に焼き付いて

私をずっと引き留めていた。


会わないうちに

あの顔が 声が 後ろ姿が 横顔が

自分の記憶から
少しずつ消え薄れていくのが怖い


あなたが
私の人生にとって
かけがえのない人であったことを
ここに。

こんなにも人に感謝したのは
初めてかもしれません。

父親のように守り包んでくださって
ありがとうございました。
勝手に心の支えにしていました。

最後までお力添え出来ずすみませんでした。

カヤマさんと出逢えたこと、一緒に働けたことを
誇りに思います。

やさしい時間を
たくさんの愛情を
あたたかい記憶を

本当にありがとうございました。

どうかご自愛ください。

今度も私が逢いに行きますから、その時まで。


皆様の明日が、美しく彩りますように。

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