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「舞監・制作・劇作」より「劇作」分冊版

コミティア・コミケ等で頒布しました「舞監・制作・劇作」より、にしうりすいか担当の「劇作」部分の分冊版です。

ゆかりーぬ(@Yukarienne)による分冊版「制作」もあります!!


お手にとってくださりありがとうございます。
脚本書き、西瓜すいかです。にしうりすいか、と読みます。
十二歳のときから脚本を書き始めて、二十年が経ちました。
小劇場演劇界の中では、「脚本だけ書いている人」というのは案外少なく、だいたいが、役者をやっていて、その後自分の劇団を主宰して、脚本を書いているか、劇団主宰で、脚本演出をしているか、というパターンが多いのですが、私はなぜか「ほぼ、脚本だけを書いている人」のまま生きてきています。
芝居の台本は、まず、お客さんの眼に触れることはありません。
お客さんがご覧になるのは、あくまでも「舞台そのもの」。脚本は、あくまでも作品のパーツです。脚本を読む唯一のお客さんは、演出さんと、役者さんと、スタッフさん。
けれど、ちょっとだけ、直接、読んでくださるお客さんにも出会ってみたいな、と思ったのです。
ここでお会いしたのも何かのご縁です。少しでもご興味持っていただけましたら、Twitter (@suikaboushi) 等でつながっていただければ幸いです。

このコラムは、「どこかから依頼を受けて脚本を書く人」もしくは「何らかの制約があって脚本を書く人」が、その制約を楽しみながら、ものがたりを書いていくための、二十二年の「コツ」みたいなものを書き連ねたものです。何かの参考になったり、単に「へぇ~~」と思って楽しんでいただければ幸いです。

以下の通り、ちょっとIT屋っぽい名前の6章で、お届けします。

■[要求分析]


 ●目的

興行が何を目指すのか、まずそれを決めなければなりません。多くの場合、依頼者の中ではイメージはあるが、固まっていない状態であることが多いので、それを言語化していきます。

お客さんを300人集めたい
このメンバーでやりたい
グッズ展開をしたい
メディアミックスをしたい
生演奏をしたい
わかる人にだけわかるような尖ったものを作りたい
趣味として、家族や友人に発表できるものを、楽しく作りたい


など。目的によって作るものが変わってきます。

 ●ターゲット

興行の目的と共に大切なのがお客さんのプロフィールです。

観る人が大人なのか?子供なのか?
何が好きな人たちなのか?
演劇を見慣れているか?


などによって、書くべき物語も変わってきます。
その人たちにどう思ってもらいたいか、も大切な要素です。
大人数でお芝居についての会話を楽しんでほしいのか、何かのテーマについて考えてもらいたいのか、何か観た後に行動を起こしてもらいたいのか、など。
ターゲットがどんな人かを、依頼者に聞いたり、依頼者のSNSや過去の公演での客層から想定して、調査したりします。

 ●出演者人数

出演者の人数が決まっていないと、登場人物を決められないので、これは絶対に聞き取らなければなりません。脚本の範疇からは外れますが、出演者の人数によって、公演の予算規模なども変わってくるので、依頼者側もここは明確に要求を持っていることが多いです。
例えば、メイン3人、サブ4人、賑やかし(物語の大筋には絡まないが、場を表現したり会話相手になるために必要な役)が3〜6人、などと言うケースが比較的多いです。
人数には、振れ幅があることもあります。「できれば6人欲しいけれど、出演者が足りなかった時のために、3人削っても成立するようにしてほしい」などの要望がある場合、そのように組み立てていきます。

 ●出演者のプロフィール

具体的に誰が出演する。と分かっている場合には、その出演者についた諸々調べます。
見た目、写真や動画、その方のファンがどんなことを求めているか。過去作品での役所、スキルや得意なこと、などです。
やはり出演者に合わせて書いた方が、演じる方の良さが引き出されて、芝居全体の質も上がることが多いように思います。

 ●時間

公演時間についても、依頼側が明確に要求を持っていることが多いです。多いのは45分、70分、90分、110分、でしょうか。
私は、利用しているワードのフォーマットが、1枚約3分目安ですので、時間が決まればこれで枚数が大方決まることになります。
おススメは90〜100分です。人間の集中力の持続時間として、適切なサイズだと思います。

 ●キャパ

劇場のサイズです。依頼側が明確な要求を持っていることが多いです。小さい劇場や、カフェ公演や教室公演ならばキャバは20〜40でしょうし、体育館や、市民ホールの中くらいのホールなら200〜400ほどでしょう。
劇場の大きさによって、「細かい芝居主体のもの」なのか「大きく芝居をする」のかが変わってきます。(もちろん。大きなホールでとても細かい芝居をしたって良いし、その逆もアリなのですが、一般論としては大きなホールのほうが大きい芝居になりがちです。後ろの人にも見えないといけないので)

 ●劇場

劇場が決まっていれば、その劇場について調べてから書き始めます。大きさ、高さ、行き方、場合によっては備え付け機材も調べます。
あとは…出はけがいくつ作れるか、何人くらいが同時に板の上に乗れるかも調べます。(過去の公演写真なども参考にします)
例えば、同じ舞台の上で2シーン、3シーンを同時に見せる、などした時にどう見えるか、ちゃんと分けた場所を取れるかなどを検討します。

 ●スタッフ規模

スタッフさんが何人くらい付くのか、必要に応じて確認します。音響照明でひとり!役者が音響操作を自然な感じでしなければならない、などの、台本で工夫しなければならない要素があれば、それを勘案して作成します。

 ●音楽(生演奏などありか)

生演奏がある場合、お客さんから見ると、楽器の演奏をする人もいる舞台の一部です。
どんな楽器の生演奏が入るかによって、公演のカラーが変わってきます。(三味線か、ピアノか、エレキギターか、だと、同じ曲でもだいぶ雰囲気は違いますよね)
生演奏がある場合は、事前に演奏されるかたの過去作品などを聴いておくことが多いです。
使いたい音楽があったり、オリジナル楽曲で公演を打つ場合は、どこにそれを使うのか、歌詞が付いているものの場合は、歌と公演内容をリンクさせる、などの工夫をします。
絶対入れて欲しい要素はあるか
ここまでに書いたことにも含まれますが、

ピアノの生演奏を入れたい
水を使いたい
殺陣を入れたい
照明で目潰しを入れたい
この作品を原作にしたい
お客さんに手拍子させるシーンがほしい


などなど、「絶対に舞台でやってみたいこと」が依頼者側にあるケースが少なくありません。
こういう場合は、入れたいものがどんなものなのか、を、聞き取ったり、映像や写真を探したりして、とにかく勉強します。そして、物語に意味があるように、組み込んでいきます。

 ●公演のイメージカラー

公演のイメージというのは、どうしてもすり合わせにくいものです。
私は、公演を作る時にイメージカラーの話をすることが多いです。
例えば恋の話を描くとしても、「ピンクと白」という恋の話と「赤と黒」という恋の話は、イメージが違うでしょう。前者ならフワフワとしたしあわせなイメージですし、後者ならドロドロの愛憎劇がありそうです。「水色と黄色」とかであれば、中学生くらいの子たちの夏休みの群像劇の中に、爽やかな初恋がありそうです。
依頼を受けて書く場合には、このように、「イメージのすり合わせをするための道具」を自分の中にたくさん持っておくことが大切です。

 ●必須事項

最低でも、キャパ、劇場、出演者人数、出演者男女比、長さ、は押さえておきたいところです。
他にも、衣装小道具などの予算が分かれば、聞いておいた方が良いものです。(時代劇と、現代のサラリーマンの劇では、どうしても衣装、小道具、セット等にかかる予算が変わってくるので)

 ●依頼者が大事にしたいこと

依頼者には、必ず大事にしたいこと、があります。台本に直接関係がなくとも、「こういうチームにしたい」だったり「この人を売りたい」だったり、「このお客さまから、「良かったよ」と言われたい」などです。その目的は、依頼される時には隠されていることが多いですが、それを聞き取って、その目的に一緒に向かおう、という気持ちを持って書くことが大切です。

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