「世界翻訳の日」に、翻訳の未来について考える
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「世界翻訳の日」に、翻訳の未来について考える

畑 洋子

9月30日は「世界翻訳の日 (International Translation Day)」。それにちなんで今日は、今の翻訳を取り巻く状況について思うことを記します。

翻訳の今と昔

昔むかし。人々は自動翻訳のヘンテコな翻訳を笑っていました。だけどそれは、もうずっと前の話です。

Google翻訳を始めとする機械翻訳の精度は格段に向上し、たいていの場合、おおよその意味は分かります。何よりも、処理速度は人間より格段に高速です。

そして今年、さらに精度の高い「DeepL翻訳」の登場で、人と機械の距離がぐっと縮まったように感じます。DeepLを高評価しているレビューを読んで自分でも使ってみましたが、正直言ってその成果に驚きました。

それまでは機械翻訳のナンバーワンはGoogle翻訳だと思っていたのですが、表現の自然さと正確さで、DeepLはそのさらに上を行きます。簡単な文章だとそのまま使えるほどです。なお、試した言語ペアはドイツ語から日本語、英語から日本語です。ドイツ語から日本語へのナチュラルな翻訳は機械には無理だと思っていただけに衝撃でした。それと同時に、Googleのようなグローバル企業の提供するサービスを超える技術を開発したDeepLにも驚きを覚えました。

DeepLを提供するドイツ・ケルンのDeepL社 (DeepL GmbH) は、2017年までは「Linguee社」という名前で、同名のオンライン辞書サービス「Linguee」を提供しています。こちらの方のサービスには馴染みがあり、私も長年愛用しています。また、周囲の翻訳者の間でも人気があります。

オンライン辞書だけだと他にも色々なサービスがありますが、Lingueeのすごいところは、検索ワードの訳が表示されるだけでなく、検索ワードを含んだ実際の翻訳例が表示され、検索ワードとその訳語は文中で黄色にハイライトされるため、どういう文脈で使われるのかが一目で分かるという点です。辞書で単語を検索すると、幾つも訳があって、そのうちどれを使えばいいのか迷うことがありますが、そんな時にLingueeで検索すれば、文脈とともに訳語が表示されるので、それを参考に最適な訳を選ぶことができて便利です。
25ヶ国語を様々な組み合わせで使えますが、残念ながら日本語は英語との組み合わせでしか使えず、日本語・ドイツ語間の翻訳には使えません。

機械 vs 人間?

GoogleやDeepLが日進月歩の進化を遂げて、ますます賢くなっていくのに対し、人間はいくら頑張って勉強してもそれに追いつけません。「翻訳者の仕事が機械に奪われるのでは」という危惧は以前からありましたが、果たしてDeepLの登場で翻訳者の需要が減るのでしょうか。

私はそうは思いません。

確かに機械翻訳はますます浸透するでしょう。人間による翻訳なのに機械っぽいぎこちない訳文を時々見かけますが、DeepLはそれよりずっと自然で人間らしく訳してくれます。とはいえ、意味を取り違えていたり、文脈に合っていなかったり、分からないところはバッサリ省略(!)しているので、チェックせずそのまま使うことは禁物です。

結局、翻訳の質は、人間による最終チェックで決まります。当然、原文と翻訳を照らし合わせさないといけないので、翻訳者(校正者)が手を抜くことはできません。機械翻訳だと一見つじつまが合っているように見えても、見当違いの訳になっていることもあるので、やはり翻訳者にはこれまで通りの注意深さが必要で、機械だけでなく人間も絶えず学習しなくてはいけないと思うのです。

機械 & 人間

今後の翻訳の在り方とは、機械を敵視したり、逆に機械を過信するのではなく、機械を味方にしてうまく共存することではないでしょうか。

翻訳をチェックする際には、前述のLingueeが役立ちます。機械翻訳だと一つの訳しか提示しませんが、Lingueeを使えば、訳の複数の可能性を検討して翻訳者が自分で正しい訳を選ぶことができます。

それにしても、このペースで機械翻訳が進化していくなら、1年後には私の意見も変わっているかも、という不安があるのも事実です。人間と機械が仲良くできる1年後の未来を願っています。そしていつか「世界自動翻訳の日」なんてものができないことを祈っています……。

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畑 洋子
前世紀からベルリンに住みついているデザイナー/翻訳者。日本からドイツへビジネス展開したい人を、言語とデザインの両面からサポートします。ドイツ向けのWebサイト制作や印刷物デザイン、デザイン全般、翻訳。www.de-jp.net, www.design.gup-py.com