#18.すべては流れ、失われていくから/Bloc Party - Flux

おはようございます。わたしの住む街には大きな川が流れています。この街の象徴ともなっている川。橋や堤防の上から眺めると、その流れは緩やかですが、河岸で川面を眺めると、けっこうな水量がけっこうな速さで絶え間なく流れているのがわかります。

今朝はそんなふうに、同じ場所にとどまる水はない、なにもかもが変化の中にあることを歌った一曲を取り上げます。今回は2022年11月30日にTwitterに流したツイートの大幅加筆修正版となります。


松尾芭蕉の奥の細道は「月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり」という有名な一節で始まりますね。月日は永遠の時間を旅する旅人であるし、やって来ては過ぎ去っていく月日もまた旅人だという意味。

時間は一か所にとどまることなく川の流れのように(こう書くと美空ひばりみたいだね)永遠に流れ続けて流れていくし、その時間の流れに投げ込まれた人間もまた一か所にとどまることのない旅人のようなもの。

だから、人間は好むと好まざるとにかかわらず、絶えず変化にさらされています。自分を取り巻く物事も人間関係もまた絶えない変化の中にある。そういった流れの中で得たものもあるけれど、失ったものもまたたくさんある。大切な人でさえも失っていくように。

古代ギリシアの哲学者ヘラクレイトスは「万物は流転する」と主張しました。これも「月日は百代の過客~」と同じような発想で、あらゆる物事は変化していくとの考え方を示したもの。

この「万物流転」は英語で"All things are in a state of flux"とも言います。Bloc Partyの"Flux"は、この一節を歌詞のモチーフにしています。公式動画はチープな特撮怪獣モノ風です。

Bloc Party - Flux

曲のタイトルの"Flux"とは、辞書的には「水の流れ」や「気体や液体の流動、流量」など理学的に使われる言葉。だから、「流れの中にいる」、「変化の最中にいる」みたいな感じにもなりますね。

この曲の歌詞には、「万物流転」を意味する"All things are in a state of flux"をもじったフレーズがあります。やっぱり「すべてのものは流れの中にある」みたいな意味合いですね。

わたしは最初、この曲を失恋の曲かなと思っていました。曲の主人公と恋人とのあいだに、なにかしらの深刻な問題があって、それを話し合わなきゃいけない(でも、話すべき相手は去ってしまった)と、歌っているので。

もちろん、ロマンスを望んでいたけど、その先に絶望があった、みたいな歌詞があるので、失恋の曲なんだけど、なにかしらに(ときに一方的に)期待したけれど、その先に絶望が待っていたなんてことは、恋愛以外にもありますよね。

そういう意味では、この曲はもっと広い意味での「喪失」を歌っている気もします。あらゆるものが流れゆく中で、大人になった俺たちは何かを「喪失」してしまったんだ、みたいな。それは自分が抱いた期待かもしれないし、相手の心変わりかもしれない。

とにかく、俺は大人になって何もかも失ったけれど、俺はまだ大人になりきれていない。だから大人として話し合おうというような、成熟を求める曲にも聞こえます。

わたしたちはみな変化の中にある人間。だから、相手だって変化の中にいる。成熟した大人はその流れの中で、何が変わったのか、何を失ったのかを話し合い、成熟していくわけですね。

なかなか話し合いも難しい未熟な人もいるけどさ。でも、自分だけでも少しは成熟しないとね。まあ、自信持って「自分は成熟してる!」と言える人もそうそういないとは思うけど、それでもいつまでも未熟なままじゃいられないからね。


※ひつじのはなし|Good Morning! Musicは、水月羊(the Maverick Black Sheep)が大胆不敵にも音楽(主に洋楽)エッセイを書こうという目論見と試みです。洋楽の曲を聞いての感想や解釈のエッセイ、コラムとなります。気になった曲の歌詞の意味はそれぞれ訳してみてください。また違った見方ができるかもしれません。


□お問い合わせなどは、以下のgoogleフォームまでお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?