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#45.熱烈な片思いという「罪」/The Last Dinner Party - Sinner (On The Road)

おはようございます。背徳感や罪悪感を感じることはありますか? わたしは甘いお菓子を食べるときに背徳感があるし、食べ終わったあとにちょっとだけ罪悪感を抱きます。

でも、考えてみれば、そういう背徳感や罪悪感があってこそ、生きてる! って感じる面もあるよね。甘いお菓子を食べるくらいの小さな背徳感や罪悪感みたいなものがあるからこそ、お菓子も甘く感じるのかもしれないし。というわけで、今朝は新作です。


ひと口に「罪」と言っても、大まかには2種類の意味がありますね。刑法的な意味での「罪」と、道徳的・宗教的な意味での「罪」。刑法的な意味での「罪」というのは、法律で「これをやっちゃダメ!」と書いてあるような行為を犯すこと。まあ、わかりやすい。

そういった刑法的な罪はできれば犯さない方がいいけど、道徳的な罪の方は少々犯したことがある人の方が信頼できる。道徳的な罪と言っても刑法的な罪とちょっと重なるところもあるけれど、あまりちゃんとした刑法的な罪に問われない行為みたいな。

たとえばですね、車もぜんぜん通らない上に周囲に誰もいない田舎の道で赤信号を渡ったとか、冷蔵庫に残してあった兄弟のプリンをうっかり食べるとか、それくらいの「罪」を犯したことのある人はいっぱいいると思います。

もちろん、後ろめたさというか罪悪感みたいなものを感じていながらも、赤信号の横断歩道を渡ったり、冷蔵庫のプリンを食べたりするし、厳密に言えば刑法的な罪でもあるのだろうけど、それらの行為を警察が捜査して刑事裁判にかけるという話は聞いたことない。

まあ、これが教室に誰もいないとき、同じクラスの女子のリコーダーをこっそり舐めちゃったことがあるという話になると、事態は一気に気持ち悪くなりますが。

さて、そんなふうに道徳的な罪というのは刑法的な罪には問われないかもしれないけど、やっぱりちょっとは後ろめたい行為ではある。

そういう後ろめたさみたいなものを感じつつも、同時に恋する気持ちに気づいた戸惑いを歌っているのが、The Last Dinner Partyの"Sinner"。

The Last Dinner Party - Sinner (On The Road)

タイトルにもなっている"Sinner"、これは宗教的・道徳的な意味での「罪人」との意味。"Sin"だと宗教的・道徳的な意味での「罪」。

この曲の主人公は、互いに小さかった頃から知っていればよかったと望んでいます。なぜならば、幼い頃ならば互いに(肉体的に)触れることに罪の意識を感じないから。けど、成長した今、触れることに罪のように感じてしまうと。

幼い子どもは性別に関係なく無邪気に互いの肉体に触れることができます。手をつないだり、肩に手を置いたり。

でも、成長してある程度の年齢になってしまうと、特に恋心を抱いた相手と簡単には触れられない。なにかの弾みで触れてしまったら、罪の意識を感じるほどに。それでもあなたに触れられれば、なにもかも投げ出したいと思ってしまう。

熱烈な片思い、みたいな雰囲気を感じますね。そりゃもちろん、そんな熱烈な思いが高じてしまった末に、誰もいない教室で好きな女の子のリコーダーをこっそり舐めちゃったら、それはまた別の意味の「罪」になりそうですが。

ここまで書いてきて気づいたんだけど、この曲の主人公と思いを寄せる相手が同性同士であると仮定してみると、この歌詞の内容がもっと深いものに感じるようにも思えます。

歌詞の中では「あの街にあるのは冷たい視線と乾いた唇」とある。因習にとらわれた古い保守的な街の住民が、同性愛者に向ける冷たい視線さえもここに感じられるというのは考えすぎかな。考えすぎかもしれないし、単なるわたしの想像なんだけど。

それでも、そんなふうに考えると、だからこそあなたに触れられることに「罪」を感じてしまうのもわからなくはない。

もちろん、当たり前の話だけど同性愛それ自体は罪でもなんでもない。けれど、社会的な因習にとらわれた社会や世界では、それが「罪」のように感じさせられてしまっている、みたいな。

歌詞の内容も抽象的だし、性別が特定できる言葉も使っていないので、自由にさまざまな解釈ができそうです。恋心を抱くことで感じる「罪」に、聴く人によってさまざまな「罪」が重なりそうです。


※ひつじのはなし|Good Morning! Musicは、水月羊(the Maverick Black Sheep)が大胆不敵にも音楽(主に洋楽)エッセイを書こうという目論見と試みです。洋楽の曲を聞いての感想や解釈のエッセイ、コラムとなります。気になった曲の歌詞の意味はそれぞれ訳してみてください。また違った見方ができるかもしれません。


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