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#12.柳の木の下に/Taylor Swift - willow

おはようございます。猛暑続きですね。わたしの住む街も暑いことは暑いけど、本州の35度を超えるような猛暑に比べるとまだマシな気温。

それでも人間の感じる暑さは絶対的なものなので、東京や名古屋が37度で、こっちは32度だ! だから5度も涼しい! と言ってられる場合でもなく。うんざりですね。

こんな暑い時には怪談話でも、と思わなくもないんだけど、子どもの頃ならいざしらず、大人になってみると、怪談話と言っても怖くなるように考えて作ったお話だからなあと冷めた目で見てしまうからダメですね。

怪談話を素直に怖がる、あの頃の純粋な気持ちはもうないのが悲しいところです。

さて、今日は2022年11月2日にTwitterに流したツイートの大幅加筆修正版となります。


柳の木というものにあまり縁がない。逆に柳の木に縁がありすぎる人ってのもそんなに見ないけど。とにかく、わたしたちがイメージする「木」は枝葉は空に向かって伸びる姿だけど、柳の木の枝葉は地面に向かってしだれ落ちている。そんな独特な姿が特徴です。

わたしの生活範囲の中では柳の木を見かけることはあまりないけど、わたしの住む市の歓楽街には柳の木の並木がある。

歓楽街だからお酒を出す店がぎゅうぎゅうにひしめき、そして当然ながらいかがわしい店もある。そんな感じのわたしの生活範囲の少し外側にある歓楽街には柳の木の並木があります。

雑多で派手なネオンや看板の輝きや、タクシーなどの走る狭い道を歩行者天国みたいに歩いてる酔客たちの姿。その上に、柳の木のしだれた枝や揺れる葉っぱが重なる。柳の木といえば、そんな光景と一緒にその姿が頭に浮かびます。

わたしはお酒を飲めないから、よほど誰かに誘われたときとか仕事上の必要なつきあいくらいしか、その繁華街には行かなかったんだけど、このところのコロナ禍ですっかり足が遠のいてしまった。

その一方で、柳の木が植えられている半ば観光地化された街並みもありますね。街を抜ける小さな川に沿って柳の木の並木のある、江戸時代の街並みを再現した場所みたいなところ。

わたしはそんな光景の街並みに実際に行ったことはないんだけど、テレビやネットで見かけるたびにいいなあと感じます。川の護岸が石垣で、そんな川にはたいてい木造か石を組んだアーチ状の橋がかかっていて、なんとも言えない情緒みたいなものを感じるからかな。

ところで、江戸時代の柳の木は幽霊とひとセットに語られますね。柳の木の下ですすり泣く幽霊が現れ、その顔には恨みつらみが浮かんでる、みたいな。井戸に出てくる幽霊もいるけど、やっぱり井戸のそばには柳の木のしだれた枝葉があるイメージ。

幽霊ってなんで柳の木のイメージがあるんだろう。江戸の街並みにとって柳の木はそれくらいポピュラーだったのかな。

クヌギとかイチョウの木の下の幽霊というのもいるんだろうけど、やっぱりしっくりこない。クヌギなら幽霊じゃなくてカブトムシが出てきそうだし、イチョウだと幽霊どころか銀杏の匂いにまずやられてしまうからかな。

やっぱり、すすり泣く幽霊にはしだれた柳の木が似合いますね。

さて、これはおそらく偶然なんだろうけど、「しだれやなぎ」のことを英語では"weeping willow"と言います。"willow"は柳の木。"weep"には「静かに涙を流す」、「しくしく泣く」との意味がある。

洋の東西を問わず、人々はしだれる柳の木にはすすり泣くようなイメージを投影するのでしょう。偶然とはいえ、たしかに幽霊にぴったりです。

テイラー・スウィフトにはそのものズバリ"willow"という曲があります。

Taylor Swift - willow (Official Music Video)

この曲では「過去の人生は柳のように、あなたの風に吹かれていた」と歌います。つまりは、恋人に振りまわされているということですね。

けど、どんなに恋人に振りまわされても、最後には「私の(おそらくは人生の)計画を台無しにして」と、この曲の主人公は歌います。好きな人に対して自分の人生を台無しにしてと伝えるのは、逆説的な愛の言葉ですね。

柳の木はしなやかに幹や枝をしならせ、強い風に耐える力もある。だから、このフレーズには、どんな逆境もあなたとなら耐えてみせるという覚悟のようなものも感じます。柳の木のしなやかさのように。

どんだけ恋人に依存してるんだとも思わなくもないんですが、恋人という存在に限らず、わたしたちの人生においてはいろんなものに振りまわされてばかりもいるし、振りまわされてばかりもいられないと覚悟することもある。

人間にはそんな弱さも強さもある、矛盾を抱えつつも生きる人間の反映ですね。

ところで、ジャズのスタンダードに"Willow Weep for Me"という曲があります。邦題は「柳よ、泣いておくれ」。ジューン・クリスティやビリー・ホリデイなどさまざまな歌手が歌ってきました。

この曲では、恋人に去られてしまった「私」が、つらい思いを柳の木に語りかけ、そして柳の木に対して、「私」のために泣いておくれと願います。

この"Willow Weep for Me"のリリースは1932年。だから、90年くらい前にできた曲、そこでは去ってしまった恋人を思って、柳の木に泣いてくれと切実に願うしかなかったのですが、現在のテイラー・スウィフトになると、恋人に自分の人生を台無しにしてと訴えます。

どちらが良い悪いという話でもないんだけど、やっぱり人間は柳の木に弱さも強さも投影し続けてきたんだなあとわかります。だから、柳の木の下に幽霊を出すのもわからなくはないですね。


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