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公立学校における労働安全衛生管理体制の事例集 (令和5年2月 一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会)

前書き

  • 令和3年度の公立学校教職員の人事行政状況調査では、精神疾患による病気休職者数が5897人と過去最高

  • 精神疾患を理由とする1か月以上の病気休暇取得者5047人

  • 精神疾患による1か月以上の長期療養者は10944 (1.19%) で初めて1万人をこえた

  • (この点、ほかの職種よりも割いが低いことが強調されやすいことも記載しておく)

  • 20/30代が急増

  • 在職期間の少ないものが多く、所属校勤務2年未満のものが50%を超える

  • 休職者の2割は退職に至る

  • 教師のメンタルヘルスの問題は児童生徒の教育にも影響

  • 病休者一人の経済損失は本人給与の約3倍という試算もある

  • (ここで強調しておきたいのは、休職・退職を予防するために数万円もだせないとする意見が大多数を占めている)

学校の労働安全衛生管理体制の現状について (文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課)

  • 労働安全衛生法 (労働者の安全と健康の確保及び快適な職場環境の形成の促進を目的とするもの) は学校にも適応

  • 労働安全衛生法の事業者にあたるのは、学校設置者であり、公立学校でいえば教育委員会

  • 小中学校の産業医選任率は低い

  • 衛生委員会設置率も低い

  • 教職員数50人未満の学校に産業医選任義務はないが、平成31年の中央教育審議会答申では法律上の義務が課された学校に準じる取り組みに努めるべきとされている

  • 医師による面接指導は全学校で義務付けられているため、長時間労働・高ストレス者の面接体制は義務

  • ストレスチェックは教職員50人以上の学校は毎年一回実施が義務

  • 50人未満でも、文部科学省からすべての学校で適切に実施するよう求められている

  • 以下で取り組みの具体例を紹介する

  • (怖いが読むしかない)

事例1:大分県教育委員会

ポイント:
県教育委員会による市町村の労働安全衛生体制構築に向けた安全衛生連絡協議会の実施
県による公立学校職員へのこころのコンシェルジュ事業
精神疾患による病気休業者数は10年間で4割減少

連絡協議会を中心とする安全衛生推進

  • 平成20年に、大分県市町村立学校職員安全衛生連絡協議会会則を定める

  • 県教育次長以下本庁関係者、市町村教育委員会の安全衛生担当課長、小中学校公聴会協議会長、県教職員組合による連絡協議会を設置

  • 年2回の会議で、連絡協議会事務局による調査 (定期健診、がん検診、精密検診受信結果、1か月あたりの時間外材工時間80時間以上の教職員数、産業医面接数) い基づいて決定

  • 協議結果は会議後に各市町村で統括安全衛生委員会を開いて各学校に周知

  • 県内全18市町村が安全衛生管理規定を策定

こころのコンシェルジュ事業推進

  • 県教育委員会のコンシェルジュ (7名) が学校を巡回

  • 教職員と積極的に面談

  • コンシェルジュはベテラン教員のOB/OGに委託 (専門職ではない)

  • 学校や本人の希望に応じて学校外でも実施可能

  • 電話・メールの相談も可能

  • 特に、新任教員、転任直後の教職員、病気休暇者や復職者に重点が置かれる

  • 述べ面談回数は多い齢で5000件を超えている

  • コンシェルジュも最初は指導をする傾向がみられたが、対応が話を聞く姿勢にかわった (だからこそ専門職の雇用の重要性に気付いてほしい)

  • (よく教職員から、話を聞くだけのものはいらないとの声があがるが、批判的立場から非専門職が対人援助を始めると結局話を聞くことが重要だと述べることになる。さらに、専門職はその上できいている以上の取り組みを行っており、ぜひ活用していただきたい)

事例2:川崎市教育委員会

ポイント:
教育委員会内に教職員の健康管理に関わる「健康推進室」を設置
「健康推進室」による学校職場への巡回相談・職場巡視
定期健診の事後措置、就業措置、復職支援などを「健康推進室」に一本化
好事例の集約と市内学校への展開


  • 教職員のメンタルヘルス不調者の増加、厚生労働省からの職場復帰支援の手引きが発出され、健康推進室を設置

  • 復職にとどまらず、2次予防・1次予防へと展開

  • 相談員が巡回相談する

労働安全衛生管理体制

①安全衛生委員会

  • 川崎市教育委員会は、各学校職場のうち50人以上の教職員がいる事業場に毎月一度の安全衛生委員会の開催を義務付け

  • 50人未満の場合も「職場安全衛生検討会」を年2回実施することにしている

  • 市内全体での「学校教職員安全衛生委員会」も年6回開催 (定期健康診断結果の報告と調査審議、メンタルヘルス対策や長時間労働に係る調査審議など)

②職場巡視

  • 安全衛生環境の指摘と

  • 安全衛生対策の好事例の蓄積

  • 好事例を全市的に周知するGood Practices運動がある

③過重労働対策・メンタルヘルス対策

  • (過重労働の問題は濁された記載になっており、やはり過重労働の削減は着手できないことを示している

  • 教育委員会独自に「メンタルヘルス対策推進計画」を策定し、約3年ごとに見直されている

  • 当初は参事予防が中心だったが、現在は1次予防にも重点が置かれている

事例3:川口市教育委員会

ポイント:
平成19年より、教職員を対象とするメンタルヘルスカウンセラーを配置
1名は元教員、もう一命は学校に常勤していたスクールカウンセラー
学校教職員労働安全衛生管理規定を平成10年から設けている

メンタルヘルスカウンセラー

  • 校長経由で各学校に周知

  • 各学校や教育委員会への掲示によるチラシ・ポスター経由の申込みあり

  • 各現場の教職員からは、教育委員会や管理職を通じず申込めてよい、まずは産業医よりカウンセラーに相談したい、早めに相談して休職を回避できたとの声が上がっている

  • 継続面談・心療内科などへのつなぎ、業務改善が必要な場合は学校管理職へのフィードバックも実施

  • カウンセラーから教育委員会に毎月一回の面接状況報告が行われ、結果をふまえて教育委員会が学校管理職に働きかける

新規採用職員へのメンター制度・ラインケア

  • 管理職が新規採用職員と年齢が近い教職員をメンターの任命を行い、定期的にメンターの状況把握、教育委員会によるメンターの指導助言を実施

  • 保護者・電話対応は原則新規採用教員一人に実施させない、管理職や学年主任が同席するというラインケア体制を構築

研修制度

  • 各学校の衛生管理者・衛生推進者を対象に教職員労働安全衛生の取り組みやメンタルヘルスケアの研修会を実施

  • 各学校でメンタルヘルスカウンセラーによるメンタルヘルスケア研修を実施

  • 川口市の精神疾患休職比率は0.3-0.4%で全国平均の半分以下

労働安全衛生の法令順守への対応状況

  • 法律上義務付けられない教職員50人未満の学校をふくむ全校で産業医が任命

  • 安全衛生委員会の設置率・ストレスチェックの実施率は100%

事例4:川口市立十二月田小学校

ポイント:
勤務時間管理に基づいた業務改善
性別を考慮した衛生推進者の選任
教職員の労働安全衛生だけではなく日常事項も意見交換できる衛生委員会の実施

勤務時間管理と業務改善

  • 時間外勤務が80時間/月を超える教員、初任教員、健康診断で用検査項目がある教員には産業医との面談の機会を設ける

  • 産業医との面談は毎学期1回、学期末の午前授業に実施

  • 部会の廃止、スタンディングミーティング、校長が早く退勤、ストレスチェックの集団分析結果は全職員に共有

  • 衛生推進者2名を選出、女性養護教諭と男性教諭

意見交換の場としての衛生推進委員会

  • 4月/8月を除いて毎月開催

  • 各学年の学級担任1名と衛生推進者

  • 衛星推進委員会の内容は好調に文書報告

  • (ただし、校長への報告を通じて具体的に改善された業務やありかたは記載されなかった

産業医面談を申し出やすい環境づくり

  • 産業医の面談は年3回

  • 初任者は必ず産業医に健康相談するよう校長から促し

  • 養護教諭から業務量の多い教頭にも産業医面談を推奨

  • 校長から何も心配がなくても月の時間外労働が80時間を超えたら面談を受けるよう促す

  • 面談日は学期末最終日、子供たちが帰宅した日を設定

  • 子育てや介護疲れの教職員も面談しやすい環境

ストレスチェックの活用

(専門的にはそこまで活用されていない
(しかし、全職員が集団分析結果を閲覧し、衛生推進委員会での討議事項を校長を通じて全職員に配布することで教職員なりに考えられた取り組みになっているものと思われる

事例5:奄美市立金久中学校

ポイント:
労働安全衛生活動の活性化
奄美市教育委員会の指導により年3回以上の衛生委員会の開催となった
令和4年に労働安全衛生にかかる法律、県教育委員会からの通知を熟知し、業務改善や長時間勤務を改善してきた教員が赴任してきた
当該教諭を中心に衛生委員会を主役とする職場改善に取り組む
(よくわからないが、安全衛生活動が実施されていなかった学校のプロセス

労働安全活動実践者の育成システム

教職員が労働関係法令、地方公務員法、安全衛生に関する行政からの通知を学び、労働安全衛生活動につなげるサークル
当該サークルに在籍する教諭の着任

職場改善と校長

  • 校長より機会があるごとに好調の職務は教職員の心身の保護だと伝えている

  • 校長には安全配慮義務があり、給特報により勤務時間外の在校時間を45時間以下にするなど適正化の責任も負う

  • しかし、通常行われるような退勤時間を守る指示だけでは効果が出ないとして、

  • 校長による業務削減を通じた職場改善を継続

  • また校長が労働安全衛生の知識のある教員を安全衛生推進者に指名

研修による意識改革

  • 校長により、学期に1回だった衛生委員会を毎月開催に

  • 新教員により、労働安全衛生の法規・活動に関する研修会を実施

  • ある衛生委員会では、それまで自分の思いを発現できなかった教員が涙を流して語る場面があった (ポイントは、多くの職場ではある職員が落涙しながら思いを語ると、ネガティブな感情を抱いて噂を流しだす職員がいる点が問題だが、この学校の衛生委員会では心理的安全性が確保されている点である)

衛生委員会を活用した職場・業務改善

  • 全教職員にアンケート調査を行い職場改善に努めている

  • 管理職の名前でアンケートを実施すると本音が出ない場合があるが、衛生委員会でアンケートを実施すると安心できる

  • 改善要望への対応は全教職員に伝えている

  • 業務内容の見直しとして、集団宿泊学習を2泊3日から1泊2日に、夏休み明けテストの廃止、家庭訪問の縮小 (三者面談で代替) など

最後に

  • 学校は分散事業場のため健康管理スタッフの目が届きにくく一元管理が困難

  • 民間よりも産業医など専門家がかかわる産業保健活動の実施率が低いとされる

  • 管理職である校長が産業保健やメンタルヘルスの知識に乏しい場合が多いため、抱え込まないように外部の産業保健スタッフとつながる仕組みづくりが必要

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