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公立学校における労働安全衛生管理体制の事例集2023 (令和6年3月 一般財団法人地方公務員安全衛生推進協会)

はじめに

  • 令和5年公表の「令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査」によると、教職員の精神疾患による病気休職者数は6539人 (0.71%) で過去最多

  • 精神疾患による休職発令時点での所属校の勤務年数は、2年未満の教職員が47.8%を占める

  • 多くの公立小中学校は法令上衛生委員会設置の義務がない教職員数50人未満の学校のため、他の自治体・学校の事例の参照は重要

事例1:日出町教育委員会

ポイント:
教育長より教職員の安全と健康を守るメッセージ
労働安全衛生活動が教育委員会全体の施策を調整する教育総務課の所掌となっている
全校に労働安全衛生活動を推進する学校委員会を設置
学校委員会で明らかになった課題やメンタルヘルス不調者の情報は、各校長から教育委員会に日常的に共有
各学校の衛生推進者は校長によるトップダウンではなく教職員と相談のうえで選定

安全衛生管理規定

  • 町で、平成19年4月に「日出町学校職員安全衛生管理規定 (職員安全衛生管理規定)」、平成22年2月に「日出町学校職員統括安全衛生管理規定 (統括安全衛生管理規定)」を定める

  • 統括安全衛生管理規定では統括安全衛生管理責任者 (統括管理者) として教育委員会教育総務課長を充てることを定義

  • また、各学校においては校長を学校安全衛生管理者と定義

  • 教職員の安全衛生管理や統括管理者の命令に応じた措置を講ずるよう規定

  • 労働安全衛生活動を行う組織として教育委員会に統括安全衛生委員会を置くよう定義

  • 統括安全衛生委員会は、統括管理者、各学校の教職員、産業医、教育委員会職員、職員組合による推薦者で構成

  • 労働安全衛生法では教職員数50人以上の学校は衛生委員会の設置・衛生管理者の選任義務がある

  • さらに、職員の意見を聞く機会を設けるため、学校に衛生委員会に準ずる組織として学校委員会を置く、と規模に関係なく全校に学校委員会を置くよう定めている

  • また、学校委員会の構成メンバーは、学校安全衛生管理者 (校長)、衛生推進者、教職員代表としている

  • (前項に学校委員会を設置し、それを束ねる統括管理者を設置しているのは素晴らしいと思われる。ただし、会議を増やして負担が増加しては意味がないため、長時間労働の抑制や業務効率改善によるメンタルヘルス向上に関する議論が行われていることを願う

教育委員会の体制

  • 日出町教育委員会は、各学校の学校委員会で話し合われた課題を教育委員会教育総務課に集約

  • (素晴らしすぎてぐうの音もでない)

  • 労働安全衛生活動やメンタルヘルス対策は福利厚生担当部門の所掌となる例がよくあるが、精神疾患による病気休職が増えた要因分析と対策は教育委員会全体で実施すべきであり、教育総務課が所掌している点で特筆している

  • ただし、教育委員会による統括安全委員会は年1回の開催のため、開催時期及び回数を検討中

メンタルヘルス不調者への学校及び教育委員会の対応

  • 各教職員の心身の不調は校長が直接教員に尋ねて把握し、教育総務課に連絡がある

  • 教育委員会は精神的に不調をきたしそうな教職員への対応について、「体調不良にもかかわらず同僚への負担や子供への対応が気になるあまり無理をして勤務し悪化するのが一番よくないため、ダウンしそうな教職員には早めの受診や休養を推奨する」ことを明示しており、これは教育長の考えでもある

  • 経済産業省が行っている健康経営優良法人認定も、トップが健康経営宣言を内外に行うことが第一条件となっている

適切な衛生推進者の選出

教員と相談し、教職員を全体的に見渡せるものに衛生推進者を依頼している

課題

  • しかし、教育委員会として産業医を選任しているが活用に課題がある

  • 産業医や保健師へのつなぎ方に難がある

  • 独自の産業医・保健師の設置は財政上困難な場合がある

事例2:日出町立大神小学校

ポイント:
組織のトップの校長が労働安全衛生活動を積極的に推進
教職員の当事者意識の向上を促進
学校委員会 (衛生委員会) を学校運営組織に位置付ける
働き方改革・学校運営の改善につながっている
大分県教育委員会がすすめる「こころのコンシェルジュ事業」を学校運営に活用

校長のリーダーシップ・学校委員会の位置づけ

  • 教職員数50人未満

  • 労働安全衛生法上は衛生委員会の設置義務なし

  • しかし、日出町による学校職員統括安全衛生管理規定により、衛生委員委に準ずる学校委員会を置くこととなっている

  • (ただし、学校委員会の活動を校長がどのように促進しているか具体的に書かれておらず、置かれたことが校長のマインドを反映しているとされている

学校委員会のメンバー及び定期開催

  • メンバーは、校長、教頭、教務主任、保健主事、低学年・中学年・高学年の代表

  • 学年の代表は互選

  • 学校委員会は毎月一回の開催

  • (特別な工夫はないように思う)

学校委員会での討議内容と成果

  • 労働災害につながる危険場所の点検

  • 長時間労働の確認 (長時間労働と要因の確認。例えば、業務の偏り、特定の保護者対応への疲労など)

  • 働きやすい職場環境に向けた課題解決 (例えばある日の宿題を制限することでマルツ家の時間が無くなる、掃除の時間をカットするなど。ストレスチェックは57項目を使用しており特に先進的ではない)

  • (やはり外部専門家を加えると、例えば、業務の偏りに対するディスカッション、保護者対応などが一般常識からかけ離れた対応になっていないか確認できるので良いだろう

こころのコンシェルジュ事業

  • コンシェルジュ一人が3校程度を担当、年に3回学校訪問

  • 職場復帰もサポート

  • 校長の相談相手にもなる (なるほど、この発想はなかったが、校長のサポートは最重要課題)

事例3:花巻市立湯口小学校

ポイント:
毎月開催の安全衛生委員会に、管理職+養護教諭+組合代表+学級担任が輪番制で2名 (取り立ててよいわけではない
安全衛生委員会の内容を職員に通知
管理職とミドルリーダーの信頼関係と連携 (???
(全体的に、具体性に欠ける
(事例1/2で町ぐるみの労働安全衛生体制が記載されており、しかも教職員数50名未満でも取り組めるよう事例が紹介された後、特筆すべきものがない

安全衛生委員会の課題と改善法

  • 花巻市教育委員会では教職員数によらず全校に衛生委員会の設置を義務付けている (予算がないとかいうところもあるがやればできる

  • 職員会議後に行われていた衛生委員会は形骸化・縮小化していた (やはり教員というメンタルヘルスの非専門職が何となく会議するとメンタルヘルスの取り組みはどんどん少なくなる。そのなれの果てが、都内某所で行われているスクールカウンセラーの有償ボランティアとしての求人や、会計年度職員の契約の悪用だろう)

  • 関心のあった教員が好調に働きかけて、開催方法・参加者の見直しがなされた

  • 安全衛生委員会は職員会議と別に、校長室で月一回実施することとなった (これは素晴らしい)

安全衛生委員会だより

(普通に報告するということ)

安全衛生委員会の進行

  • 月45時間以上の超過勤務職員の全データ (ただし、共有のみでその後の対策はどうしてもとれない)

  • 教職員の健康状況

  • 職場環境の見直し

休憩室のリノベーション

休憩場所がなかったことから、安全衛生委員会の提案をうけ校長の指示で物置部屋を片付けて休憩室に

(校長を含む安全衛生委員会が、過重労働全データを把握するだけでもよい取り組みとされる状況だといえる

コラム

教育学習支援業の労災事案では、脳・心臓疾患は長時間労働の割合が多いが、精神障害・自殺は上司とのトラブルなど対人関係の出来事が多く、各学校・各事例特有の問題への対処が必要となる
また、脳・心臓疾患では部活動顧問の負荷、精神疾患では住民等の公務上での関係が要因となることが多い

6000名以上を対象とする横断研究によって、時間外労働は、平日・休日・持ち帰りを問わず心理的ストレス反応を促進するために時間外労働削減が求められるとされる (Furihata et al., 2021)
症例対象研究では、時間外労働と休職に関連がなく、同僚・上司の支援及び教職員のヘルスリテラシーとの関連が示唆される (Tanabe et al., 2021)

教職員の40%が睡眠に問題を抱えている (茂木・吉川,2022)

文献

  1. Furihata, R., Kuwabara, M., Oba, K., Watanabe, K., Takano, N., Nagamine, N., ... & Sakamoto, J. (2021). Association between working overtime and psychological stress reactions in elementary and junior high school teachers in Japan: a large-scale cross-sectional study. Industrial health, 60(2), 133-145.

  2. 茂木伸之, & 吉川徹. (2022). 文献レビュー (No. 79) 日本の教職員の長時間労働と過労死等に影響を与える睡眠およびメンタルヘルス研究に関するレビュー. 産業精神保健= Japanese journal of occupational mental health, 30(2), 205-210.

  3. Tanabe, R., Hisamatsu, T., Fukuda, M., Tsumura, H., Tsuchie, R., Suzuki, M., ... & Kanda, H. (2021). The association between problematic internet use and neck pain among Japanese schoolteachers. journal of Occupational Health, 63(1), e12298.


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