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良いとか悪いとか、もうそういう段階ではないのかも?「代理母、はじめました」感想文

垣谷美雨さんが書いた小説です。

まるで「冷やし中華始めました」みたいな軽いノリで、代理母??

インパクトあるタイトルに引き付けられ、一気に読んでしまいました。

あらすじ

少子高齢化が進み、富士山噴火で都市機能が麻痺した近未来の日本。

義父が働かないせいで貧困に陥った家族を救うために、16歳のユキは中国人女性の子供を産む代理母になる。

世間知らずだったが本来聡明だったユキは、義父に利用されていたことに気がつき、産後逃げ出す。

一方、ユキの担当医だった倉持芽衣子は、いまだに改善されない男尊女卑的な差別があることに怒りを燃やしていた。

ユキのことも、密かに気にかけていたのだったが・・・幼馴染のミチオと逃げていたユキと偶然出会ったのだった。

そしてそこは、自殺したかつての友人の姉が営む私設図書館だった。

感想

代理母に出産してもらう・・・

一時期日本でも著名人が実行し、話題になった。

確かに人それぞれ切実な理由はあるということはわかってはいても、実際に出産した身としては、妊娠・出産の苦しさ、危険を考えると賛成する気持ちには到底ならなかったのだ。

頼む方は報酬を支払い、産む方は報酬を得る上に人助けにもなる・・・

確かにこれだけ考えたら何も反対する理由なんてないのだけど、お腹で胎児を育てる心身の負担は、依頼する側の金銭的な負担とイーブンなのかということもあるし、胎児が障害を持っていることがわかったら堕ろして欲しいと言われ代理母が拒否した、というニュースも実際あったし・・・。

さてこの話の主人公のユキは、義父にまんまと言いくるめられ、500万円もらう代わりに代理母をさせられる。

つわりの辛さに耐えた後は、出産の苦しさ。

海外では無痛分娩が標準なのに、「痛みに耐えてこそ一人前」という意識で日本では広まっていない。

ここは本当に私も大きくうなずいてしまった!

私は三人出産しているけど、一人目の出産は陣痛に27時間耐えて産み、二人目はそれよりはだいぶ早かったとはいえ、苦しいのは一緒。

体力の温存も考え、三人目は無痛分娩にした。

そしたら、陣痛が来ていてもテレビを見て笑えるほど余裕!!

痛みがないから、いきむのが少し難しかったものの、産後の回復もすごく早かったんですよね。

確かに麻酔費用で10万円くらいは多くかかるかもしれない。

でも、その後ノンストップの子育てが始まることを考えたら、体力の温存は決して贅沢なことではないよ?

日本て「苦労してこそ・・」的な考えが根強いけど、子育てはどうしても避けられない苦労が山ほどある。

取り除ける苦労は、あえてしなくて良いよ!

ほんと、皆に届いて欲しい!!

さて、院長の男尊女卑の考えにほとほと嫌気のさした芽衣子先生は、代理出産を扱う雨宮静子が経営する産院に転職したのだけど、そこに相談にくる女性たちの中には予想外の人たちもいた。

未婚で若く、生殖能力もある女性が子供を欲しがっている!

ここで・・・子供を産んで育てている身からしたら、

いや絶対ダメでしょ!

と思ったんだけど、話が進んでいくうちに、「それもありかも・・・」と思えてくるんですよね。

実は世の中、同性カップルもけっこういるし、今までみたいに「男性と女性が結婚して子供を産んで」みたいな、「普通」と思われているケースって、多数ではあるかもしれないけどどんどん減ってもいくとも思う。

普通の結婚していても、子供がほしくない人もいるし、せっかく授かっても虐待する人はする。

夫婦じゃなくても、ちゃんと養育できる扶養者・環境や収入があれば良いのでは?

基準はある程度必要かもしれないけど、条件だけで杓子定規に「親にふさわしい・ふさわしくない」と決められるわけじゃないのかも。

でも、そこの見極めはやっぱり難しい。

この小説でも、依頼主の収入や環境を念入りに調査する。

とはいえ、一番負担が大きいのが代理母の側。

自分も代理母を経験したユキは、もともと良かった頭を使い、色々な改善を重ねながら事業にしていくんですが、その内容がとてもリアルなんです。

ここまでやったら・・・良いかも?

読後感

日本含め、世界的に少子高齢化はきっと止まらない。

だって、子育ては経済的・精神的・時間的に労力がかかりすぎる。

昔は子供を産むのは必須だったから「産まない」なんて許されなかっただろうけど、今は一応「個人の自由」になっている。

負担が多い上に、将来子供に老後の面倒を見てもらえる確証もないなら、自分のために時間やお金を使ったほうがいいと思う方が普通なのかもしれない。

それでも子供がほしい、という人はいる。

不妊治療しても授からない人もいるし、同性カップルで子育てがしたい人もいるし、パートナーはいないけど子供は欲しいという人も。

そんな人たちが子供を持つという選択ができたら・・・

もちろん今でも里親制度とか養子縁組などもあるけど、やはり自分(とかパートナー)の遺伝子を受け継ぐ子供が欲しいという人達は多いかもしれない。

いまだに夫婦別姓すら認められていない日本だけど、政府がどういう方針を持つにしても、もう国民の多様化は止まらないと思う。

今までの「男女が結婚して子供を持つのが当たり前」という価値観だけでは、少子化は加速度的に進むだろう。

そして、日本で無理なら他の国で代理母探しをやる!という人たちは実際にけっこういるんじゃないだろうか・・・。

そしたら表面だけ取り繕って、影で代理母への搾取があったとしてもわからない方が不健康な気もする。

つまり私自身、「代理母=絶対反対」から「代理母の心身のケアをし、依頼する側も健全で条件をクリアしているなら、容認でも良いのでは」と考えが変化しました。

独身者の増加、晩婚化、少子高齢化、それなのに増える子供への虐待・・・

本気で少子化を少しでも止めたい、そしてそれだけではなく健全な子育てをを推進する気があるのなら、柔軟に色々な形に対応していく社会にするしかない。

そんなことをじっくり考えさせられた一冊でした。

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