映画「ウエスト・サイド・ストーリー」を見てきたけど胸糞すぎた話
もう本当に胸糞悪かったです。というかイライラしました。
ウエストサイドストーリーとは、1950年ごろのニューヨーク(ウェストサイド・マンハッタン)を舞台に、ストリートギャングの抗争の犠牲となる若い男女の「2日間の恋と死」までを描いた物語です。
1957年に初めてブロードウェイミュージカルとして公演されたこの演目は、「ロミオとジュリエット」から着想を得ているとのこと。実際のストーリーを見ても、時代背景を変えたロミオとジュリエットそのままでした。
今作の中でも、当時の移民流入に関連した人種差別描写もあり、社会問題もゴリゴリ盛り込まれた重た目のストーリーです。
日本でも同題目の公演が何度かあったり「ウエスト・サイド・物語」という映画が昔にあったのも知っていたんですけど、今回の映画ではアンセルエルゴートが主演を務めるっていうので気になっていました。
余談ですが、アンセルエルゴートの出演作を初めて観たのはベイビードライバーでした。映画の広告をSNSで見かけて、「音楽とカーアクションの融合!」みたいなコピーに惹かれて見に行ったんですが面白かったですね。
ただ、ベイビードライバーでアンセルエルゴートが演じたのは「幼少期のトラウマから声が出せない青年」だったため、役としてもダウナーな感じで、劇中殆ど声を出すことなく終わりました。なので話すアンセルを見たことがなかったんですよね(笑) ウエストサイドストーリーのトニーはかなり歌う役どころなので楽しみにしてました。
加えてスティーヴン・スピルバーグ監督の作品だということで、クオリティへの安心感を胸に、意気揚々と映画館へ。
観終わった後の率直な感想は「最っ悪」。っていうかほんとにイライラした!
恐らくこの映画を見てイライラできるということは正解なんだと思います。
私のイライラは、脚本がどうとか監督がどうだったではなく、作中のフィクションに対する感想であり、それぞれの登場人物の行動に対してのイライラです。
それはつまり、映画にあらゆる社会問題を投げかけられているということでしょう。
私をイライラさせたのは彼らの行動ではなく、彼らをそのように追いやった社会問題であると気づかなければならない。
そんなメッセージを感じます。
とはいえ良いところもたくさんあったので、完全に個人の偏見として感想を残していきたいと思います。※ネタバレ注意です!
ここは好き!①ミュージカルシーン
さすが1957年から受け継がれる伝説のミュージカルなだけあって、音楽性はトップレベル。
そして今回の最新版の映画ではさらに音楽性に磨きがかけられたようです。舞台上の音楽というより、映画として規模が広がり壮大な世界観に仕上がっていると思います。
トニーとマリアの二人による「Tonight」は名曲ですね。個人的にはこの曲の中でマリアが「トニートニー」と名前を呼んで歌うところがじわじわ来て好きです。
それから、私が今作で最も好きなシーンがこちら。
これは映画史に残る伝説のミュージカルシーンといっても過言ではないでしょう。
実際に、この楽曲をメインで歌い踊ったアニータ役のアリアナ・デボーズ(Ariana DeBose)は2022年のアカデミー賞で助演女優賞を獲得。また、彼女の受賞は「クィアの女性であることを公表した有色人種史上初」という快挙となり、映画史にもその名を刻みました。
てかもうとにかくかっこいい。いいから動画を再生して、黄色いドレスを着た女性に注目してください。こんなに力強くて美しく、ジョークすらかっこいい女性がどこにいるでしょうか。
そしてとにかくテンポがいい!!圧倒的爽快感。
さらに、この歌詞を完全なアメリカ英語で歌うのではなく、プエルトリコの公用語であるスペイン語の訛りを残してあるのがもう最高。むしろお洒落になっています。その分私たち日本人がかっこよく歌うのには少しハードルが高いので、筆者はこの巻き舌具合だとかを練習中です。
またこれについても、スティーヴン・スピルバーグ監督によると
「両親や祖父母、自身がラティンクス(ラテンアメリカ系)の国々の出身者がいないオーディションをしないと約束した」とのこと。
特に、マリアやベルナルドなどは、プエルトリコ系の人たちの起用に力を入れていたそうです。
スペイン語がとてもかっこよく聞こえたのはこういうところがポイントだったかもしれませんね。
また、この楽曲で使われているのは6/8拍子と3/4拍子のラテンの混合リズムだそうで、この独特なリズムが最高に楽しい!!
一緒に踊りだしたくなる楽曲です。
感情が高ぶって歌い踊りだしちゃうというコンセプトである(?)ミュージカルにふさわしい、体が勝手に動き出すこの楽曲こそミュージカル!!!
…そう叫びたくなる、ミュージカルオタクには垂涎ものの楽曲です。
また、この楽曲の内容についても語るべきところが多すぎます。
当時のアメリカにおいては移民という扱いになるプエルトリコ系アメリカ人。「America」は歌詞の冒頭からグサグサ刺さります。
彼女らの故郷であるプエルトリコについてしっとり歌い始めたかと思うと、「でも私はマンハッタンが好きだ!」と一気にアップテンポに変わります。
ここから先は、アニータや女性たちが「マンハッタンでの夢の暮らし」を語り、ベルナルドをはじめとした同じプエルトリコ系アメリカ人の男性たちがそれに反論していきます。
マンハッタンでの暮らしは望んだもので、故郷での暮らしよりずっと夢がある!と歌い上げるアニータと女性たちとは対称に、いつかは故郷に帰りたい、アメリカは白人のための国だと警告するかのようなベルナルドや男性たちが印象的。あくまでアップテンポで明るい楽曲になっていますが、歌詞の内容には一層深みがあります。
実際、こうした葛藤は私たち日本人にもあるはずです。
日本という国は素晴らしいと思います。
充実した社会制度、治安の良さ、失業率の低さ、義務教育…
良いところもたくさんあります。しかしその反面、
先進国では圧倒的に後れを取っている企業体質、自分たちはもらえないかもしれないのに払い続けている年金、諸外国に比べても重い税金、女性の人権は未だ守られず前時代的な価値観の中虐げられる状況…
日本脱出がトレンドにもなったように、今の日本に対して希望をなくして、諸外国へ移住するほうが幸せになれるんじゃないかと思うこともあると思います。
自らのルーツがある国を離れるのはそう簡単なことではないながら、この国で生き続けるのが本当に正しいのか、悩んでしまいます。
このような葛藤は、時代が変わっても今の私たちを悩ませるテーマの一つでしょう。
楽曲を楽しみながら、こうした問題にも思いを馳せることができるのがこの楽曲が伝説たる所以です。
或いは、人々の悩みはいつの時代も本質的には変わっていない、ということを示唆しているようでもあります。何かを考えるときには一度思い出して聞きたい楽曲ですね。
ではここが好き!ポイント2個目!と言いたいところでしたが、正直この映画の好きなところはミュージカルシーンしかありません(過言)。
絵がきれいだとか構図がお洒落とか、そういうポイントはそれなりにあるんですけど…
例えば、マリアがダンスパーティーで着ていたドレスが白色だったのはお互いの派閥には染まっていないことを示唆していることを表現しているだとか、そういう素敵なポイントはたくさんあるんですけど、それ以外のストーリーとかキャラクターがキツすぎて良かったところがどんどん印象薄れているので、もうイライラポイントの話に入っちゃいます。
イライラポイントその① 全体的にチンピラの映画
いわゆる若い不良が登場人物の8割を占めるので、全員頭悪いです。
その点ではむしろロミオとジュリエットを見るよりしんどかった。
そしてストーリーの8割がチンピラの思考で進んでいくので、見ていてイライラした理由の8割がこれです。
ウエストサイドストーリーってその地域のギャング(チンピラ集団)がナワバリ争いをするっていう映画なので、チンピラがたくさん出てくるのは当然なんですけど、分かっててもそれ以上に不快感を感じるほど動物的で、理性のかけらもないような登場人物の行動にずっとムカムカすることになります。
基本的に気に入らないことは殴って解決、喧嘩で勝ったやつが正義って感じです。そして演者も憎いほど「しょうもないチンピラ坊主」を演じるのが上手い。発展途上中の国が舞台であるとはいえ、これほど野性的な結論にたどり着いてしまうのが自分としては理解できなかったのが大きいです。
舞台背景としては私の大好きな希望溢れる1950年代のアメリカなんですが、光あるところには影があるといった様子で、当時のアメリカの輝く表舞台の裏側はこんなに荒廃していたのだろうと、想像はしながら、とても信じたくない現実でもありました。
ただその対比のように、チンピラを取り巻く身内の女性たちはごく理性的で、争いを辞めるように諭すポジションなことが唯一の救いでした。どちらの派閥の女性も常に、この争いや暴力での行使をやめるように訴え続けていました。男性側は聞く耳など持ちませんでしたが。
そして、この構図を見たときに真っ先に思い出したのがAmazonPrimeオリジナル作品「Freebag Season2」のワンシーン。58歳のキャリアウーマンが男女について語るシーンです。長いですけどセリフだけでも読んでみてください。
英語のセリフも書いときます。
女性としてこれほど共感したシーンはありませんでした。性の道具として見られるのでもなく、子を産むための性別として見られるのでもなく、一人のビジネスパーソンとして認められるためには、更年期を迎える年齢になるしかないのだと。社会の中で生きていて感じる女性としての呪いみたいなものが、重くのしかかる話しながら、妙な清々しさすら覚えます。
話がそれすぎたので映画の内容に話を戻します。
つまり、痛みを持たない男性が「すべて自分の身勝手で」「女性に止められてもやめられず」「自分のせいで次々と争いを起こし人を殺し、そうして生きている様子」が延々流れる映画なので、見ていてクソアホタレと言わずにはいられなくなります。
ただ印象的だったのは、不良グループがお互いに抗争を始めたとき、ついに死人が出てしまうシーンです。あれほど大口たたいて喧嘩を始めていたはずのその場の全員が、一気に怖気づいて間抜けに後ずさりし始めるんですよね。敢えて滑稽に描いているようにも見えましたが、意図的だったんでしょうか。個人的にはこういうところもイライラポイントでした。人が死んでビビるくらいなら最初からやめとけよ。と、冷静な頭で考えてしまいます。あまり得策ではないです。
イライラポイント② 集団レイプシーン
もうここが本当に最悪だった。シンプルに見てられなかったですね。レイプ自体は未遂に終わりますが、その流れが最悪。
ネタバレあらすじ
アニータが敵対する集団であるジェットのアジトに乗り込むシーン。アニータがマリアについての伝言を伝えに、ジェットのメンバーを匿っていたバレンティーナか、もしくはトニー本人に会う必要がありました。アニータはジェットのアジト(もといバレンティーナの店)に入りますが、店のスペースにバレンティーナとトニーの姿はなく、ジェットのメンバーは「今は会わせられない」といいます。「とにかくトニーかバレンティーナに会わせて」というアニータに対し、ジェットのメンバーは侮辱を始めます。数々の人種差別用語を投げかけ、最初は卑劣な笑みを浮かべながらアニータを小突いていたのがエスカレートして行きます。そしてそのまま男たちは集団でアニータに襲い掛かりました。アジトにいたジェットに属する女性たちは、アニータへの暴行をやめるように必死に抵抗しますが、彼らはそれも耳に入れずジェットの女性陣をアジトから締め出してしまいます。その物音を聞きつけたバレンティーナが現れ制止したことでアニータは何とか助かりますが、アニータはその怒りをバレンティーナにぶつけて、さらにはマリアに関するウソを伝えます。「チノがマリアを撃った」と。マリアに頼まれた伝言を、アニータは伝えませんでした。
もう最悪です。男がこれほど邪悪に見えることもないというくらい最悪のシーンです。自分が散々差別してきた人種を相手にレイプしようという発想が本当にわからない。日本の男性でもそうですけど、風俗嬢やAV女優に対してあれほど酷い差別言葉を投げかけるのに、でもその相手で性欲を発散しようとする姿が、とても理性的な人間に見えなくて気持ち悪いというのが率直な気持ちです。私が持つ男性への嫌悪すべてが詰まったシーンで地獄でしたね。
また、アニータ自身にも少し気になる点が残りました。アニータは自分を襲った本人たちではなく、バレンティーナやトニーといった関係ない人たちに対して怒りをぶつけてしまってました。当然あんな状況でそんな冷静な考えができるはずもなく、アニータから見ればバレンティーナもトニーも彼らとグルであることにも変わりないのですが、それでもあまりに遣る瀬無い。バレンティーナに「プエルトリコ人のくせに白人(グリンゴ)とくっついた裏切り者」みたいなあまりにも強い言葉を投げてしまったところも、かなりキツかった…
バレンティーナについても、このあたりでルーツがプエルトリコ系アメリカ人であることがカギになっているようでしたね。私も作品を見ながら、バレンティーナのように対抗する派閥からお互いに幸せになる道もあったかもしれないのに、今作の二人は同じ道を辿れなかったのか…と思いましたが、憎しみの連鎖の中では「裏切り者」という言葉を投げられるのだと思うと、もう何がハッピーエンドなのかはますますわからなくなってきます。
胸糞ポイント③ 分かってたバッドエンドをちゃんと迎えた
ハッピーエンド映画じゃないのも分かってたんですけど、雲行きの怪しさをそのままにちゃんと最悪の結末を迎えます。
ネタバレあらすじ
バレンティーナがゆっくりと「チノがマリアを撃った」と言った瞬間の、トニーの表情の崩れようはもはやホラーでした。一瞬でトニーの表情がグニャッと歪み、頭を抱えて走り出す一連の動作、その不気味なほどの苦悶の表情があまりにも辛すぎました。アンセルエルゴートの演技力…
そしてトニーはそのまま外に駆け出し、道路の真ん中から大声でチノを呼びます。
「チノ!俺はここにいる!俺も連れて行ってくれ、俺も殺してくれ」
ほぼ発狂です。
しかし、取り乱しながら叫び続けるトニーの目に映ったのは、前方から駆けてくる女性の姿。マリアです。
”マリアは死んでなかった”
その姿を認めたトニーの表情が一瞬で安らいでいくのですが、その背後にはチノの影。マリアはトニー越しにチノの姿を捉え、「やめて!」と大声で叫びますがそれも虚しく、トニーは背後から撃たれます。
…分かってたよ。こうなるだろうとよく分かってたけど、でも最悪。もう本当にキツい。
トニーは撃たれても歩くのをやめず、マリアに向かって笑顔で歩き続けるトニーに、チノは2発目を撃ち込みます。でも倒れない。トニーの目には生きているマリアしか映っておらず、それが嬉しくてずっと笑顔なんですね。もうホラー。そのままマリアと抱き合うように崩れ落ちて、トニーは死を迎えます。
このシーン見ながら、ディズニー映画だったらトニー生き返るのにな~と思うなどしました。
いや分かってたよ。チノがトニーを殺しに探し始めた時点から想像できた結末だったよ。でもダメやん。ミュージカルはハッピーエンド以外ダメやろ。
あらゆる物語においてハッピーエンド以外は受け付けない体質なので、このバッドエンドは本当に苦しかった…
パラサイトとかも公開前からポスターのデザインに惹かれてたので日本での公開をウキウキで見に行ったのに、ストーリー前半の超楽しいところから転落していく様子に耐えられなくて、途中で映画館出たくらいバッドエンドに耐えられないです。バッドエンド慣れしている人とか、そういうジャンルの映画が好きな人は強い。私には一生超えられない壁です。
ここまでイライラポイント(個人的にキツかったポイント)をお話してきましたが、なんだかんだ言ってこの映画大好きなんですよね(笑)
ディズニー+で配信が始まってからもすぐに見返したくらい、この映画が恋しかったです。
一度見ればそれからもなんとなく見たくなってしまうような、中毒性のある映画だと思います。きっとミュージカルシーンのおかげですね。
正直同じストーリーでミュージカルじゃなかったら絶対に見ないし好きにはなれなかったと思います。
悲劇やバッドエンド系の映画が好きな人は見てみてもいいかもしれません。ストーリー自体はあくまで予想できる範囲でしか進んでいきませんが、ちゃんと予想通りに最悪な方向に向かっていくのである意味すっきりします(笑)
音楽性は言うまでもなく、絵の構図や配色など映像美としても完成された美しい映画であることに間違いはないので、ぜひご覧ください!
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