こんな夢を見た(ホロコーストの記憶)

こんな夢を見た。

はじまりは忘れたが、朝家の前に出ると、
顔を知っている近所の人が大勢並ばされている。
列は4列で、老若男女問わずだった。
4人が前に出て、なにやらそわそわしている。
一体何事だ、と怖くなりまじまじと見ていると、長い機関銃を持った
白い服を着た複数の男たちが、銃をかまえる。
パパパパパパパ、という音とともに前の4人は当たるか、当たらないかくらいで撃たれていた。そして血を流していた。

これは異常だ。
見つかってはいけない。まずは、家族を守らないと。
反射的にそう思った私は、近くに住んでいる祖父を呼び寄せて
一緒に家の中に隠れた。
窓を、音をたてないようすべて閉めたが、玄関のドアの隙間から
5歳くらいの男の子がこちらを見て、私たちの居場所を”奴ら”に伝えようとしている。私は焦って、震える手で紙にペンで『やめて』と書いた。
男の子の所在はもうあまり覚えていない。

しばらくして、母親が転がり込んできた。
家の目の前で行われている惨劇には、冷静沈着な様子だった。
次の瞬間、母親はこんなことを言い出した。
『私たちはきっともう、ここに居るのはばれている。だから、早めに投降しよう。悪いようにはされない』
私は青ざめて、何か言おうと思ったが、もう何も言えなかった。
ただ目の前で起こっている惨劇に、あきらめがついてしまった。

そのあと、確か祖父と大きなハグをした。
ありがとう、ありがとう、ごめん、ありがとう
そんな言葉をたくさん呟いて、私たちは玄関のカギを開けた。
それは、近所に買い物にでもいくかのような、散歩に出かけるような
すべての覚悟が決まっていたんじゃないか。
もう抗うとか、非人道さとか、そんなものをどこに訴えるのか、気力を失っていた面が大きかった。
だが、玄関のドアの向こう側は真っ白で、
きっといつか、こいつらを撲滅してくれる人たちがやってくる、といった希望を託すようなものを、帯びていた気がする。

”奴ら”に接触すると、まず服を触ってきて、金属があるものは脱げと
言われた。祖父と、母親と私は、家の”裏庭”にやってきて、服をぬごうとした。
裏庭には、なぜか外にある洗面台やたくさんの観葉植物があった。
そのときだった。
私は、自分の家に、こんなに広い裏庭はないと気づいた。
そしてその瞬間、これは夢なんだ、と気づいた。

私は荒い息で目が覚めた。
はじめ、9時に起きようと思っていたのに、二度寝をしてしまって
11時くらいに再び起きた。

私はそんなことより、これが夢でよかったと安心した。
私は夢の中で、これを夢だと認識する明晰夢を何度もみたことがある。
しかし今回の夢は、あまりにもリアルで、何よりも恐ろしかった。

こんな素人の夢は、かつてナチスに迫害されたユダヤ人の人々の恐怖には到底及ばない(同じ文章内の中にあるのも、今すぐ止めたいくらいだ)。
しかし、これがもし現代で、現実のものとなったら、
絶望はやってくる。

人間ではない”奴ら”に出会ったとき、
もうあらがえないのだと、人間は生きる希望を失う。
しかし、私が思うのは、
最期の瞬間、きっと人は、希望を見いだせるはずだ。
私が居なくなった後の世界で、きっと誰かが、
間違いない、
だから、思いを託そう。

こんな夢を見た。


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