ふくだりょうこ『どうしても君とキスがしたい』
5月16日開催予定の文学フリマにSugomori文芸誌として出店いたします!
そこで今月号は、文フリにて刊行する小説を無料公開でチラ見せ!
各作家が【令和3年の〇〇】をテーマに執筆いたします。
文芸誌には他にも、作家へのインタビュー記事などの企画も掲載予定です。詳細はまた後日お知らせいたします!
「あ゛あ゛あ゛―――」
今日、四本目の恋愛映画を見終えて大きな声を発した。
「むずい……」
俺は頭を悩ませていた。何にって? 好きな女の子とどうやってキスをするかについてだ。
去年から世界中にはあることが強いられるようになった。「社会的距離」。いわゆるソーシャルディスタンスだ。まださほど深刻ではないころに「俺は『星空のディスタンス』しか知らないけどなあ」と言ったら若い女の子に怪訝な顔をされて以来、俺はソーシャルディスタンスが苦手だ。
つまりは、最低でも一メートル以上の距離を保って相手とコミュニケーションをとらないといけなくなってしまったのだ。これは恋愛をしようと思っている者にとって大きく分厚い壁となった。
一メートルの距離って結構ある。壁ドンはできない。したことないけど。手を繋げないし、キスもできない。ハグだってダメ。その先のことなんて超濃厚接触すぎて絶対にムリだ。もともと付き合っていたカップルだったら良いだろうけど、付き合い立てのカップル、もしくはこれから付き合うかもしれない雰囲気の男女にとっては由々しき問題だ。恋が進まない。
そういうわけで、俺は去年の夏ごろからずっと好きな女の子とどうやってキスをするかについて考え続けていた。どうしてそんなことを考えているのかって? そりゃあ好きな子とキスをしたいからだ。キスをしたら、そのあとはなし崩しにいける気がする。イエスッ!
しかし、良い方法は思いつかないままここまで来てしまった。なのに、明日は好きな女の子との久しぶりのデートだ。明日こそは決める。明日こそ、キスをする。というわけで、どうやったらキスができるか、映画を見て研究していたというわけだ。
とは言え、旧時代のキスではやはり難しい。近い距離で見つめあって、なんとなくOKの雰囲気が出たら唇を重ねる。そもそも近い距離で見つめあう機会がない。
風邪をひいて臥せっている恋人が眠っている間にそっとキスをするというシーンがあったが、現代においてこれは自殺行為である。「あなたの風邪ならうつってもいいよ……?」ってイヤイヤイヤイヤ今はダメだろう。ニュースになる。いや去年ならなかったかもしれないけど、今なら感染者の数字を増やすだけか。
「はああああチュウしてぇぇぇぇぇぇ」
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