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【全文無料】掌編小説『一周年』柳田知雪

今月で1st Anniversaryを迎えた文芸誌「Sugomori」。6月の特集として、季節の掌編小説をお届けします。今月のテーマは『一周年』。書き手は柳田知雪さんです。

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『一周年』

「もうすぐ付き合って1年でしょ?」
「あー、そういえばそうだね」
「そういえば、って彼氏と何かしないの?」
「1年間付き合っただけだよ?
 わざわざ祝うとか重たくない?
 向こうだって絶対、面倒臭がるタイプだよ」
 親友はふーんと曖昧に相槌を打つ。
 どこか察しているような彼女のニヤニヤ顔に、
 無理やりその話は終わらせた。
 
 ちょうど付き合って1周年となるこの日、
 彼と会う約束をしたのは今日が
 たまたま金曜日だったから。
 それ以上に特に深い意味はないし、
 夕食が彼の好物であるハンバーグなのも、
 合挽肉が10%OFFシールが貼られてたから。
 冷蔵庫にあるケーキはその……
 駅前で見た時に美味しそうだったからであって、
 ちょっと甘いもの食べたくなっただけだから!
 まるで言い訳の練習をしていたその時、
「ただいまー」
「お、お邪魔してまーす」
「もしかして今日、ハンバーグ?」
「そう! たまたまね、たまたま!」
「たまたま?」
 噛み合ってない受け答えに彼は首を傾げる。
 そんな彼の手には、
 とても見覚えのあるケーキ屋のロゴ入りの箱。
「どうしたの、それ?」
「え? いやー……
 ちょっと食べたくなって、たまたま?」
「そ、そっか。たまたまなら、しょうがないね」
 そう言いつつ、
 冷蔵庫の中から同じ箱を取り出す。
 開けば中身まで同じで、顔を見合わせて笑った。
 去年、たまたま出会えた私たちは、
 やはり似た者同士らしい。


 文芸誌Sugomori/お題「一周年」
 柳田知雪


柳田知雪さんのsugomori寄稿作品

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