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【全文無料】掌編小説『一周年』ふくだりょうこ

今月で1st Anniversaryを迎えた文芸誌「Sugomori」。6月の特集として、季節の掌編小説をお届けします。今月のテーマは『一周年』。書き手はふくだりょうこさんです。

『一周年』

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「周年には魔物が住んでいるわ……」
 好きなバンドの一周年記念ライブのチケットを手にして喜び勇む私に向かって姉がいつになく真剣な表情で言った。
「魔物ですか」
「そうよ、魔物」
 いつもよりずっと低い声にゴクリと喉を鳴らす。
「あるグループは五周年でメンバーが不祥事を起こし、あるバンドは十周年を目前に主要メンバーが脱退。そしてあるグループ二十五周年で解散……」
 長く活動をしていればそういうこともあるだろうし、盛者必衰だよお姉ちゃん、という言葉をグッと飲み込む。
「そういえば、お姉ちゃんが好きなアイドルグループも十五周年を挟んで主要メンバーが立て続けに脱退していたよね。それも……」
「みなまで言うな……ッ」
 芝居がかった口調で言うと、姉はそのまま天を仰いだ。そのまま動かない。何か回想しているらしい。姉は好きなメンバーが脱退して以来、『もう何も推さない』が口癖だ。
「十周年記念コンサートの日はそんなことを思いもしなかった……楽しい日々が永遠に続くと思っていたの」
「お姉ちゃん、永遠なんて……」
「言わなくても分かってる! 永遠なんてないの、形あるものはいつか壊れるし、グループはいつか解散するものなの、分かってる……!」
「はあ……」
「つまり私が言いたいのは、一度しかない一周年記念ライブ、思いっきり楽しみなさい。そして迷ったグッズは買いなさい……」
 そう言うと、姉は私に何か握らせた。
 一万円札だった。

 文芸誌Sugomori/お題「一周年」
 ふくだりょうこ

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