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テーマを決めたクロスワードをつくるまで(『クロスワード春夏秋冬』をお手元に)

ここ数年、色々な専門家、色々な趣味の人とお会いすることが増えました。そのうち何人かの人は、テレビやラジオに「◯◯の専門家」として出演(たとえば『マツコの知らない世界』)されてもいます。
僕がそういう「◯◯の専門家」となると……うーん、まずはクイズなのですが、最近は競争率高そうですね(笑)。なのでもう少し範囲を狭めると、「山手線ゲーム」とか「ジェスチャークイズ」とか。そして、単にパズルというより「クロスワード」だったら、熱く語れるかなと思っています。
……なお、面白く語れる、とは言ってない(笑)。

というわけで、「クロスワード」について熱く語ってみよう、それも今回は作る側に焦点をあてましょう。
鉄は熱いうちに打て。というわけで、先月発売されたばかりのニコリ社クロスワード春夏秋冬』をテーマにしてみましょう。

『クロスワード春夏秋冬』とはどんな本?

『クロスワード春夏秋冬』は、どこの家庭にも一冊はあると思います。みなさん、もう解かれましたでしょうか(笑)?

その名の通り、春夏秋冬ごとに章立てされており、各クロスワードは「春の自然」「夏が旬の食べ物」のようにテーマが決まっています。僕(マサルさん)が担当したのは「冬の歌」。76-77ページの掲載です。

パズルのサイズは11マス×11マス。
ヨコのカギが27個、タテのカギが23個。合計50個となっています。

(ご注意!
というわけで、ここからはネタバレありの、具体的な内容となります。「事前にあまり情報を入れずに解いてみたい!」というかたは、是非本を買ってからお楽しみください)


小説の書き出しに相当する、最初のヒント

今回の作成依頼というか軽めの打診を頂いたのが、4月の上旬。方向性を納得した上で快諾し、実際に「冬の歌」という具体的なテーマを頂いたのが、4月21日。
さあ、では作っていきましょう!

まずは「冬の歌」で思いつく曲をだだーっと挙げていきました。
なお、「クリスマス」と「お正月」については別途テーマページがあるため、重複を避けるため入れないほうがよいとのこと。
(この後、実際に作ったリストを出しますね)

同時に、左上に入る言葉を考えます。大抵のクロスワードパズルでは、左上から1番2番……と番号が振られていき、特に一番左上のマスは「ヨコの1」と「タテの1」が交差し、多くの人が解き始めるスタート位置になっていることが多いです。
小説で言うところの「書き出しの一節」に当たるわけですので、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」のように、せっかくなら印象に残る名ヒントや好きなものを入れたくなります。
加えて、依頼の中に黒マスの配置は点対称という指定があり、左上と右下に配置される言葉の文字数は必然的に同じとなります。
ここがバシっとしまると、カッコイイ! となるわけです。

今回、僕がチョイスしたのは、「粉雪(レミオロメン)」と「木枯らしに抱かれて(小泉今日子)」。どちらも好きな曲。そして共に「コ」で始まるため、これをヨコとタテの1にしようとしてました。
加えて、「木枯らしに抱かれて」が9文字となるため、自動的に右下に配置されることになる9文字の相手が必要。これは「ロマンスの神様(広瀬香美)」がいいなあ、とここまではすんなり決まってました。

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(一番最初のファイルより。なお、この段階ではヨコ11マスという依頼を、ヨコ9マスと勘違いしてました)

ここからどんどん白いマスを埋めていくのが、クロスワードつくりの醍醐味となります。

テーマに沿ったキーワードを、軽くあげていく

ver2だとこんな状態になってました。

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「木枯らしに抱かれて」の9文字は長くて素敵なのですが、長い言葉だとその後の自由度が効かなくなります。というわけで、ここはあっさり4文字の「木枯らし」だけにとどめることに。
その結果、11マス-4文字-黒マス1つ=6文字分が生まれます。

ここら辺から少しずつエンジンがかかり、「思いつくテーマに沿った単語(今回は冬の曲)」に関連するキーワードと文字数を、列挙していきます。
ただまだ初期段階なので、6文字以上(5文字以下の単語はありすぎてキリがないから)。また依頼時に「著作権が切れてない曲の歌詞のフレーズはNG」との注意もあったので、そこにも気を付けます。

なお、今回の作成に関して、僕は1つのプライドがありました。
このクロスワードの本は、老若男女あらゆる人を対象としたものである。そうなると、「冬の歌」といっても僕が好きな曲だけでなく、どの人にも楽しんで頂けるよう、まんべんなく入れようと。

具体的には、まず音楽のジャンル的なことで
・童謡や唱歌
・J-POP
・演歌
・世界の民謡
とあるけど、抜けが無いようにしたいなと。

加えて、(特にJ-POPについて)年代別にも
・2010年代(≒平成20年代)
・2000年代(≒平成10年代)
・1990年代(≒平成1ケタ年)
・1980年代以前(≒昭和歌謡)
と、これも抜けが無いようにしたいなと。

……ただ、本として出版されるクロスワードパズルは、5年や10年経っても読み解かれることがあるもの。その時、ここ1,2年でヒットした「冬の歌」が、果たして通用するかという不安もあり、濃淡もあったりしますが。

あらためて、ver2を見ると、
・「DEPARTURES(globe)」
・「冬がはじまるよ(槇原敬之)」
・「Winter, again(GLAY)」
・「White Love (SPEED)」
・ファンタジー=「冬のファンタジー(カズン)」
・広瀬香美(「ロマンスの神様」他)
など、90年代J-POPが多め。まあ、僕の青春ど真ん中ですからねぇ(笑)。

一方で、先の「まんべんなく」目標もあるので、
・「蛍の光」(唱歌)
・バレンタイン=「バレンタイン・キッス(国生さゆり with おニャン子クラブ)」
・北風小僧=「北風小僧の寒太郎」(1970-80年代にNHK「みんなのうた」で流れる)
・「雪山賛歌」(唱歌)
・クレメンタイン=「いとしのクレメンタイン」(「雪山賛歌」の元となったアメリカ民謡)
なども挙げていってます。

個人的には、「冬の歌」というと(クリスマス・お正月を除くと)風や雪やウインタースポーツなどが大半と思うのですが、「バレンタイン・キッス」が他に類をみない「冬の歌」と気づいた時は我ながらあっぱれだと思いました。えっへん(笑)。
あと「なごり雪(イルカ)」も好きな曲なのですが、これは春の歌ではないのかと悩み、断念もしています。まあ「木枯らしに抱かれて」も晩秋っぽい感じもありますが(歌詞はこれから冬がやってくるという内容だしね)。

んで、ここらへんでどうやら「あ、横も11マスだった!」と気づいて、軌道修正もしたようです(笑)。


黒マスの配置と試行錯誤を続ける

ver3だとこんな状態になってました。

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先の「いとしのクレメンタイン」が11文字ぴったりだから、いっそど真ん中に入れることにしました。
その他、盤面に入っている単語について、
・ブレス=「WHITE BREATH(T.M.Revolution)」
・サザンカ=童謡「たきび」のつもりがまだ著作権が切れてなくてビックリ。ただし「さざんかの宿(大川栄策)」への方向転換が可能。
・イブ=実は「サイレント・イヴ (辛島美登里)」を狙っていたけど、「ブ」が「ヴ」だったので断念。こちらも「クリスマス・イブ(山下達郎)」への方向転換が可能……ってそっちが浮かぶ人のほうが多いか(笑)

そしてリストについても、いよいよ5文字以下も列挙をしはじめ真剣味が増していきます。
・「トロイカ」(ロシア民謡)
・「BLIZZARD(松任谷由実)」
・「雪の華(中島美嘉)」
・「虹と雪のバラード(トワ・エ・モア他)」札幌五輪のテーマソング
といった具合。

あと見てお分かりの通り、ここでタテ1が「木枯らしに抱かれて」「ロマンスの神様」の9文字計画に戻っています。
クロスワードを作るときに、実は「黒マスと単語」の優先順位(?)について、黒マスの配置をびっしりと決めあとは単語を入れていくタイプもあれば、入れたい単語に応じて黒マスの配置を変更しながら作るタイプもあります。
僕は後者の比率のほうが高め。作者によっては、黒マスの配置が点対称かつ線対称で、市松模様よろしく見た目鮮やかになっているクロスワードパズルもあるのですが、僕の場合はその芸術度は低め。その分、単語・言葉にこだわっています(と言い訳させてください(笑))。

まだ黒マスの配置も流動的なまま、試行錯誤が続いていきます。

テーマに沿ったキーワードを、真剣に調べる

そしてここらでそろそろ本腰を入れるべく、テーマに沿ったキーワードの充実を図ります。
今回のクロスワードの全体テーマが「春夏秋冬」なので、人によっては歳時記とにらめっことかしたのかもしれません。
……ただ、僕の場合は「冬の歌」なので、わりと大衆性が求められるもの。というわけで、文明の利器に頼ろうというわけで、「冬の歌」でググったり、カラオケ人気ランキングでの「ウインターソング」カテゴリとにらめっこしたりしました(笑)。

ver4(あ、本当は細かく区切ってver10くらいなのですが、まあ大きな変化ではないので)のリスト部分のみを特に見ていきましょう。

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・「越冬つばめ(森昌子)」
・「冬のうた(kiroro)」
・「Everything(MISIA)」
などが候補に加えつつ。

ここに来ると、ある程度長い単語の入る余裕はなくなったので、例えば「SEKAI NO OWARI」を「セカイ」「オワリ」と意味のある単語に分けるような方法もとれやすくなっています。

そのセカオワを含め、ちょっと手薄だった2010年代についても、
・「スノーマジックファンタジー(SEKAI NO OWARI)」
・「ウィンターマジック(KARA)」
なども増え。
あとここには登場してませんが「Let it go ~ありのままで~」(映画『アナと雪の女王』)は、今どきのお子さんが口ずさめるウインターソングだよなあ、と入れようと強く意識しました。

でもって、この先、3回くらいの大きな改訂を経て、ひとまず11マス×11マスの中に、単語を入れていく作業が完成となりました!
(なおこの段階では、もちろん「冬の歌」というテーマに直接関係しない単語も多く入っています)

楽しくヒントをつけていく

さて、ここからがクロスワードパズルつくりの楽しい醍醐味のもう一つ。ヒントをつけていくお時間です。
なお、実は単語を入れていきながらも、並行して頭の中で「こういうヒントを出したい」と思うこともあります。

例えば、クロスワードパズルってタテヨコをひっくり返してもよいわけで、「木枯らしに抱かれて」と「粉雪」のどっちを目立つ(先程の表現を使うと、小説の書き出し部分にあたる)ヨコ1においてもよかったりします。
個人的な曲への思い入れでいうとキョンキョン最高だったりもしますが、「粉雪」のヒントを思いついて、そのインパクトの強さに、これは絶対にこっちを冒頭にしようと思った次第(どんなヒントか知りたい人は、本屋さんへ行って買いましょう!)。

さて、あらためて今回のクロスワードパズルには、タテ・ヨコ合わせて50個の単語が入っています。そのうち、最初から「冬の歌」を意識していたのは、今数えてみたら大体20個ありました。
50個全部がテーマに合致したクロスワードというのはさすがに不可能に近く、3分の1以上がテーマに沿ってたら合格ラインではあります。ただ、今回は「多少こじつけてもいいからテーマに沿うとよい」と聞いていたので、ちょっと頑張ります(笑)。

いくつか頑張った例を。

ヨコ2:ガカ
「画家」からの「冬の歌」の関連を考えたとき、自分の中で真っ先に藤子・F・不二雄先生の「エスパー魔美」のお父さんが画家で、「雪の降る街を」の回のエピソードが心を打たれるというのが真っ先に浮かびました。
この一連の話は絶対に入れなくてはと力を入れた次第。実際、このヨコ2のヒントだけで5行も使っています(笑)。

ヨコ13:タビジタク
「DEPARTURES(globe)」は冬の歌というテーマで絶対に入れたい曲だったのですが、「ディパーチャーズ」という単語そのものは入れるのが難しく断念(あとカタカナ表記するとちょっとイメージが違うよねえ)。
その代わり「旅立ち」というキーワードだったらうまく入れられるよねと試行錯誤したあげく、旅にまつわる単語のヒントにうまく取り入れてちゃえとした次第。これは単語を入れる段階から意識してました。

ヨコ9:ハイ
これは単語を入れる段階では、返事の「はい」か人体の「肺」かくらいの気持ちでいたのですが、ヒントをつける段階になって、結局入れられなかった「Winter, again(GLAY)」を絡められるんじゃないか!と気づいた次第。
我ながら強引さはありますが、まあせっかくだしね。

そんなこんなで、改めて数えてみたら、完成版ではテーマに関連したヒントは全部で30個くらいになってました。半分以上あると、よりテーマ感が増しますよね? 褒めて褒めて(笑)。


修正もしました

超裏話となりますが、こうして草稿を提出した後に、編集者のかたから修正が入ることもあります。僕の場合、作品のクセが強いので、大抵入ります(笑。あ、クセが強くない作品も作れますが、表現自由の場だとつい)。

今回、修正があった部分としては

タテ40:メイ
当初は「Let it go ~ありのままで~」を歌った、May.Jを出していました。ただ(タテ28の人名は苗字で呼ばれても)May.Jさんを「メイさん」というのはあまり無いんじゃないかとの指摘から修正することに。
と、実は草稿段階では結局「スノーマジックファンタジー(SEKAI NO OWARI)」を入れることができなかったので、2010年代の充実のためにも入れたほうがよいよなあと悩んだ挙句、ここに入れることにした次第。
この結果、実は連鎖的にヨコ15、そしてヨコ13も見直したわけなのですが、まあ、よかったんじゃないでしょうか。

ヨコ23:(敢えて伏す)
草稿版のヒントは「『――がサンタクロース』は松任谷由実、『――たちのクリスマス』はマライア・キャリーの曲」。
ただ、さすがにテーマ「クリスマス」の作品とのカブリが発生。カブった場合は取り下げますと言ってたのですが、編集者のかたからの打診として「ユーミンの代わりに、桑田佳祐ではどうですか?」とのアイデアを頂き、そのまま使わせて頂いた次第。
なお、テーマ「クリスマス」が気になった人は、ページを2つめくった80ページを見よう!(笑)
逆に、テーマ「クリスマス」のヨコ31とタテ31は、こちらがタテ20とヨコ37!と通したかった分、ご迷惑をかけたのかもしれない。

最後に

そして完成。発売日の7月10日には、製本した本を見ることができました。

自分が書いたものが、本の形として載ると、やっぱり嬉しいです。
こんなん、ナンボあってもいいものですからね!

最後に少しプチ自慢
(ちょうどこの制作時期はコロナ自粛の真っただ中で、自由に時間が取りやすかったということがあるのですが)
今回の依頼が来たのが、先にも書いた通り4月21日。
んで、草稿を送ったのが4月22日。

なんと、わずか1日(正確には約22時間)での制作だったのでありました。
うーん、このボリュームとこのクオリティ(についての判断は解く皆さんの感想次第ですが)で、この期間は、我ながら新記録だわ。。。

きっとテーマとの親和性が高かったのかもしれませんね。編集者のかたのなんと慧眼であったことよ!


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