グループワークに適さない課題はあるのか?〜協働学習と認知負荷理論~
授業や研修で誰もが一度は経験したことのあるグループワーク。そのメリットやデメリットについて考えてみたことはあるでしょうか。今回は認知負荷理論の視点から「協働」が学習ツールとして持つ性質を再確認し、活用のポイントを探ります。
結論
協働学習は提示された課題が十分複雑である場合に真価を発揮する。逆に単純すぎる課題は、協働学習に適していない。
キーターム
協働学習、認知負荷理論
前提
今回紹介する論文は認知負荷理論を土台にしたものです。認知負荷って何?という方はまずこちらの記事をお読みください。
詳細
※読みやすさのため一部省略・簡略化しています。詳しくは元の論文を参照してください。
協働学習の場では、与えられた課題に取り組む際にかかる「認知負荷」を複数のメンバー(の頭の中のワーキングメモリ)で分け合うことができるため、個人学習以上に複雑な情報処理が可能となります。これは協働学習の大きなメリットです。
一方、みんなで協力して一つの課題に取り組んでいくためにはチーム内での「コミュニケーションや調整」(ここでは「取引活動」と呼びます)が不可欠ですが、残念ながらこうしたやりとりはいつも順調に進むとは限らず、しばしばメンバー間の誤解や対立、不必要な繰り返し等を生み出します。認知負荷理論では、こうしたネガティブな現象を個人学習では起こり得ない「学習の妨げ」、すなわち協働学習特有の「外在性認知負荷」であるとみなします。複数人での作業は常に「取引コスト」を抱えているのです。
こうした視点から考えると、協働学習は「複数のメンバーで情報処理作業を分担できるというメリット」が「取引コストというデメリット」を上回ったときに初めて、効率の良い学習メソッドになると言えます。例えば与えられた課題が個人で簡単に処理できる程度の単純なものであった場合、わざわざ取引コストを生み出してまで協働で学習する必要はありません。逆に課題が十分な複雑さを持っていれば、メンバー間のコミュニケーションや調整にも必然性が生まれ、協働学習は意味あるものとなります。
もちろん、協働学習において発生する「取引活動」量と、それに伴なう「外在性認知負荷」の大きさは状況によって変化します。以下、具体的なチェックポイントを紹介します。
課題に関するもの
ガイダンス&サポート
>新しい形の協働学習に取り組む際は、ガイダンスとサポートがしっかりあればあるほど外在性認知負荷が低くなる
チームのメンバーに関するもの
学習領域に関する知識があるか
>チームのメンバーが学習領域に習熟していればいるほど、取引活動によって引き起こされる外在性認知負荷は低くなる
協働スキルがあるか
>チームのメンバーが高い協働スキルを持っていれば、取引活動によって引き起こされる外在性認知負荷は低くなる
チームに関するもの
チームの大きさ
>チームの人数が多くなればなるほどたくさんの取引活動が必要となるため、取引活動によって引き起こされる外在性認知負荷は高くなる
チームの役割分担
>誰が何に責任を持つか、というようなチーム内の役割分担がはっきりしていれば、取引活動によって引き起こされる外在性認知負荷は低くなる
チームの構成
>各メンバーの知識量が異なると、取引活動によって引き起こされる外在性認知負荷は高くなる
過去の協働経験
>メンバー同士が過去に似たような課題で一緒に協働した経験があると、お互いが何を知っているかや、どうやって動くかが理解できているため、必要な取引活動量が減る
留意点
今回の論文はこれまで個人学習に焦点を当ててきた認知負荷理論の協働学習への応用可能性を検討したもので、実験によって実証的に研究されたものではありません。
エビデンスレベル:専門家の意見
編集後記
協働作業の中でお互いぶつかって、話し合って…という経験は貴重かつ必要なものだと思います。ただ(もちろん学習の目的をどこに設定するかにもよりますが)、限られた授業時間の中で本当に今、生徒たちにとって有益な活動が行われているのかを冷静に振り返る視点は常に持っておきたいものだなと感じました。
文責:平田紅梨子
Kirschner, P. A., Sweller, J., Kirschner, F., & Zambrano R., J. (2018). From Cognitive Load Theory to Collaborative Cognitive Load Theory. International Journal of Computer-Supported Collaborative Learning, 13(2), 213–233. https://doi.org/10.1007/s11412-018-9277-y
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