学力テストの結果公表は学力向上に繋がるのか?
先日、全国学力・学習状況調査の結果が公表されました。日本では、たびたび全国学力・学習状況調査の結果を学校別に公表すべきか否かが議論の机上に挙がりますが、実際、学力テストの結果公表は学力向上に繋がるのでしょうか?
OECDによる生徒の学習到達度調査(PISA)の結果をご紹介します。
キーテーマ
学力テストの結果公表、学校の説明責任、アカウンタビリティ
結論
日本では、学校の達成度に関するデータ(※)がメディアなどで公表されている学校は10%以下であり、データ公表と生徒の読解力において統計的に有意な関係は見られなかった。
OECD平均では、データ公表により、読解力へ正の影響が見られた。しかし、国別に見ると、正の影響が見られた国は参加73ヵ国中18ヵ国のみであり、5ヵ国では負の影響が見られた。
なお、上記は生徒や学校の社会経済的背景を考慮した上での結果である。
※ 学校の達成度に関するデータとは、テストの得点や成績、または卒業率を学校または学年レベルで集計したものを指す。
研究デザイン
生徒の学習到達度調査(PISA)は、各国における15歳の読解力などの学力調査と、校長・教師・生徒・親向けの質問紙調査を実施している。
今回の結果は、2018年に実施された調査をもとに、生徒の読解力と「自校において、学校の達成度に関するデータがメディアなどで公表されているか」という質問への校長の回答の相関関係を見たものである。
結果
以下のグラフは、
左部の棒グラフ:学校の達成度に関するデータを公表している学校の割合
右部の表:学校の達成度に関するデータの公表状況が、
学校の社会経済的背景によって異なるか
都市部・地方によって異なるか
公立・私立によって異なるか
読解力に影響を与えるか(生徒・学校の社会経済的背景を考慮しない場合)
読解力に影響を与えるか(生徒・学校の社会経済的背景を考慮する場合)
を示す。日本の結果部分のハイライトは筆者による。
上記結果より、以下のことが読み取れる。
留意点
生徒の学習到達度調査(PISA)は、国内全体からサンプルを集めているため、国全体の結果を示すことができます。
一方で、上記で示されている結果はあくまで相関関係であり、因果関係ではないことに留意が必要です。つまり、今回の結果だけをもって、日本では学力テストの結果公表は学力向上(または低下)に無関係であると言い切ることはできません。
エビデンスレベル:相関分析
編集後記
学校の達成度に関するデータを公表するという政策の前提には、依頼人・代理人理論(Principal-Agent Theory)という考え方があります。
これは、依頼人(政策立案者、行政、保護者や生徒を中心とした市民)が学校運営を代理人(校長・教師など学校関係者)に委ね、依頼人は代理人のパフォーマンスを監視・評価し、良いパフォーマンスを強化する、または悪いパフォーマンスを抑えるよう影響を与えるという考え方です(World Bank, 2003)。
この「パフォーマンスを監視・評価する」という部分が学校の達成度に関するデータの公表となるわけですが、上記の前提が期待通り働くには、市民がアクションを起こせる環境や、学校側に市民の要求に応えられるリソースがあることが必要です(Fox, 2015)。
そのため、単純に学校の達成度に関するデータを公表するのではなく、何を目的に公表するのか、目的を達成するためにはデータ公表に加えてどのような前提を満たす必要があるのかを考えて、施策をデザインする必要があるでしょう。
文責:井澤 萌
OECD (2020), PISA 2018 Results (Volume V): Effective Policies, Successful Schools, PISA, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/ca768d40-en.
OECD, PISA 2018 Database, Table V.B1.8.8., https://doi.org/10.1787/888934131975
Fox, J. A. (2015). Social Accountability: What Does the Evidence Really Say? World Development, 72, 346–361. https://doi.org/10.1016/j.worlddev.2015.03.011
World Bank. (2003). World Development Report 2004: Making Services Work for Poor People. The World Bank. https://doi.org/10.1596/0-8213-5468-X